次世代の時計職人を育成する。「カルティエ ウォッチ メイカーズ オブ トゥモロー」賞

2025.09.19

1995年に創設された「カルティエ ウォッチ メイカーズ オブ トゥモロー」賞。2025年、第28回となるこの賞の、応募受付が開始された。応募期間は10月31日(金)まで(中央ヨーロッパ時間)。今年は「Shifting the Balance Reading and Perceiving Time Differently(均衡を崩し、新たな時のとらえ方を追求する)」をテーマに、新しいアイデアが未来の時計職人らに呼び掛けられている。応募資格はスイス、フランス、ベルギー、ドイツの、指定された訓練または課程を受けている人物に限られており、日本は今のところ対象ではないものの、この賞はカルティエの人材育成への取り組みを示すもののひとつと言えるだろう。


時計職人に向けて開かれる「カルティエ ウォッチ メイカーズ オブ トゥモロー」賞

 カルティエが1993年にスイスに創設した、「カルティエ ウォッチ インスティテュート(IHC)」。同ブランドは才能を育て、サヴォアフェールを継承することを目的に、独自のインスティテュートを有しているが、この研究センターはカルティエのマニュファクチュールの弟子と職人に対して門戸が開かれたもので、設立以来、時計製造における若き才能を見出し、支援する拠点となっている。コースはウォッチメイキング、ポリッシング、マイクロエンジニアリング、機械学が用意され、これまで200人近い研修生が訓練を積み、また、毎年およそ100人のスタッフが、専門特化型の講座や実地研修を通じて、自らの専門技術を深めているという。このインスティテュートの存在は、1847年の創業依頼、専門技術の継承と保存を推し進め、伝統を守りつつも新たな技能開発を促進してきたカルティエの、先駆的な取り組みの結果であると言える。

 この取り組みを発展させるために、1995年、この研究センターは「カルティエ ウォッチ メイカーズ オブ トゥモロー」賞を創設した。

カルティエ タイムクロック

© CARTIER
1995年に設立され、今年で28回目を迎える「カルティエ ウォッチ メイカーズ オブ トゥモロー」賞。スイス、フランス、ドイツ、ベルギーから時計職人養成の学生(見習い生やESマイクロテクノロジー技術者を含む)が、毎年異なるテーマの下に、新たな解釈をしたムーブメント作品を制作。6名の受賞者は、卓越した技術と大胆な創造性が評価され、ウォッチメイキングの伝統を革新する精神をたたえられ、表彰される。

 この賞は次世代のウォッチメイキングを担う人材の育成を目指しており、若い時計職人を対象に(と言っても、応募資格に年齢制限は設けられていない)、毎年特定のテーマに沿ったムーブメントの新しいアイデアを募集する。

今年はデスククロックのムーブメントをベースに制作

 今年のカルティエ ウォッチ メイカーズ オブ トゥモロー賞のテーマは、「Shifting the Balance Reading and Perceiving Time Differently(均衡を崩し、新たな時のとらえ方を追求する)」だ。伝統的な時刻表示にとらわれない、自由な発想が求められるテーマとなっている。

 応募者は、1世紀以上前からカルティエにとって、象徴的な時計作品であるペンデュレット(デスククロック)のムーブメントをベースに制作を行う。

 今年のテーマは、カルティエの時計製造における、最新の動向を反映したものだ。4月にスイス・ジュネーブで開催されたウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで、同ブランドは「カルティエ プリヴェ」コレクションから「タンク ア ギシェ」をリリースした。1928年に発表されたオリジナルモデルにインスパイアされた本作は、針を持たず、プレートに備えられたふたつの小窓によって、時・分を表示させるジャンピングアワーおよびドラッギングミニッツ機構を搭載したモデルだ。

© CARTIER
2025年にカルティエが発表した「タンク ア ギシェ」。18KYG、18KPG、18KWG、プラチナ製ケースの4種がラインナップされた。プラチナ製ケース(写真右)のみ200本の限定生産となっている。

 この独創的な意匠は、カルティエの卓越した時計製造技術によって支えられており、まさにカルティエの伝統の真髄を示すものとなっている。今年発表されたタンク ア ギシェ以外にも、カルティエは大胆なデザインと革新的な技術が融合した腕時計を生み出してきた。

カルティエ ペンデュレット

© CARTIER
カルティエが得意とする「ミステリークロック」は動力機構が見えず、まるで針が宙に浮いているかのような文字盤を備えることを特徴とする。2枚の透明ディスクに針を取り付け、このディスクがクロック台座や懐中時計や腕時計の場合はケース側面、あるいはベゼルなどに組み込まれたムーブメントが作動することで、実現している。カルティエは最初のミステリークロック「モデルA」を、1912年に手掛けた。ジャン・ウジェール・ロベール=ウーダンが考案した作品から着想を得て、カルティエの創業者であるルイ=フランソワ・カルティエと時計職人モーリス・クーエによって制作された。

カルティエ マス ミステリユーズ

© CARTIER
ミステリークロックの、「何もないように見える場所に浮く時刻表示」を、腕時計で表現した「マス ミステリユーズ」。驚くべきことに自動巻き機構であるため、ムーブメントと一体化したローターも浮いているかのようにユニークな動きをする。針を浮かせて見せるために、文字盤は6枚のサファイアクリスタル製ディスクで構成されている。

応募後のスケジュールについて

 カルティエ ウォッチ メイカーズ オブ トゥモロー賞への応募希望者は、ヨーロッパ中央時間で2025年10月31日(金)までの期間、専用サイト(https://apply.prixcartiertalentshorlogersdedemain.cartier.com/submit)を通じて応募書類を提出する必要がある。この応募書類はプレゼンテーション動画、プロジェクト説明書、スケッチを含んでいる。

 募集対象者はスイス、フランス、ベルギー、ドイツの初等職業訓練を受けている3年目と4年目の見習い時計職人、および高等職業訓練ウォッチメイキング課程の1年生と2年生だ。前述の通り、年齢制限はない。応募者はフランス語、英語、ドイツ語のいずれかの言語で会話および筆記ができることが求められる。

 応募審査後の12月上旬に、5名の時計専門家から成る審査員団が、6名の時計技術者と6名の見習い時計職人を選出。選出された12名の候補者は、3カ月間にわたって最大80時間を費やして、プロジェクトの制作にあたる。この期間中、候補者が自ら選んだカルティエ外部の専門家による、個人指導を受けることができる。期間終了後、候補者は最終試作品と開発ログブック(スケッチと写真を含む)を提出。12名のファイナリストは、2014年にスイスのラ・ショー・ド・フォンに設けられたメゾン デ メティエダールにおいて、各自のプロジェクトを審査員団に向けて発表。翌年春に、授賞式が開催されるというスケジュールになっている。

 なお、審査員団は、以下のメンバーで構成される。

・ロイ・ダビドフ:Roy & Sacha Davidoff SA共同創業者、ヴィンテージウォッチ専門家
・パスカル・ルプウ:「カルティエ コレクション」ディレクター
・ナタリー・マリロニ:国際時計博物館アシスタント キュレーター
・パスカル・ラベスー:高級時計財団副会長、時計収集家・専門家
・カリ・ヴティライネン;独立時計職人

© CARTIER
次世代を育成するために創設された、「カルティエ ウォッチ メイカーズ オブ トゥモロー」賞。今年はどんな新しいアイデアが生み出されるのだろうか。

 詳細は、公式サイトを確認しよう。

公式サイト

http://prixcartiertalentshorlogersdedemain.com/

FAQ

https://www.prixcartiertalentshorlogersdedemain.com/en-US/faq

「明日のウォッチメイキングを築き上げ得る、自由な表現の場」

 この賞について、シニア ヴァイスプレジデントであり、チーフ オペレーティング オフィサーのカリム・ドリシは次のように述べた。「この賞は30年間にわたり、若き才能を発掘・育成するとともに、ウォッチメイキングに情熱を傾ける人々に、この専門分野の卓越性の伝統を受け継ぎながら、独自のアイデアを表現する機会を提供するメゾンのコミットメントを体現してきました。第28回となる2025年は、『Shifting the Balance』というテーマの下、時間の新たな可能性を切り開く、革新的な解釈を期待しています。メゾンのパイオニア精神に根差したこの賞は、技術、イノベーション、大胆な創造性が融合して、明日のウォッチメイキングを築き上げる自由な表現の場となります」。



Contact info:カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00


なぜカルティエ「サントス」と「タンク」は老若男女に勧められるのか。鍵を握る多彩なデザイン性を解説

FEATURES

2025年 カルティエの新作時計を一気読み!

FEATURES

ミステリークロックはどのような時計か。仕組みや主なモデルを紹介

FEATURES