パテック チャペックが1842年に製作した「No.535」。ライオンをセンターにしたダマスク様式の刻印のあるイエローゴールド製ケース、オープンフェイス、リュウズによる巻き上げシステムとシリンダー型脱進機を備えたムーブメントを搭載したポケットウォッチである。1844年4月29日に販売されたことを証明するアーカイブ文書が付属。
2018年5月13日にチャペックが、サザビーズのジュネーブ・オークションにおいて「No.535」を入手した。
その落札価格6万5000スイスフランは、7000〜1万スイスフランというエスティメート(落札予想価格)を⼤幅に上回るものであった。チャペックは、20⼈のシェアホルダーと共同で「No.535」を落札。チャペックのCEO、ザビエル・デ・ロックモーレル氏はこの落札に対し、「パテック チャペック製の時計は、市場ではほとんど⾒つけることができない。『No.535』を取得することは、創業者の財産を保護するという我々のコミットメントを実証するものであり、弊社の⼤きなマイルストーンとなる」とコメントした。
パテック チャペックは、1839年から1845年にかけて、ル・ブラッシュのルイ・オーデマ社が製造したステム・ワインディング・システムを採用した。ルイ・オーデマ社は、キーレス(鍵巻きでない)ウォッチを開発した先駆者のひとりと考えられ、パテック チャペックを含むジュネーブの数多くの工房にムーブメントを販売していた。「No.535」のケース径は47.5mmと異例の⼤きさであるが、これは、リュウズ巻き上げシステムのスペースの必要性によるものだと思われる。現代的なリュウズによる巻き上げ機構の発明者として知られるジャン-アドリアン・フィリップが、特許(フランスのパテント番号No.1317)を獲得したのは1845年のこと。1839年から6年間にわたり時計製作を行ったパテック チャペックは年間約200個の時計を製造したと考えられる。「No.535」はリュウズによる巻き上げシステムを搭載した42個のタイムピースのうちのひとつであり、これは現存する最も初期のもののひとつ。オークションを行ったサザビーズの知るところでは、「No.535」はこれまでオークションに出品されたことがないとのことだ。