Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2018年7月28日、スウォッチ グループのCEOであるニック・ハイエック氏は、スイス・チューリヒの地方紙である「ノイエ・チューリヒャー・ツァイトゥング(Neue Zürcher Zeitung)」のインタビューで、2019年3月に開催される国際時計見本市、バーゼルワールドに参加しないことを明言した。理由として、彼は5000万スイスフラン(約56億円)という高額な出展料と、バーゼルワールドのメリットが薄れたことを挙げた。
オメガの商品開発担当副社長であるジャン=クロード・モナション氏も、筆者からの照会に対して、スウォッチ グループが2019年のバーゼルワールドに参加しないことを認めた。また、7月30日の午前9時(スイス現地時間)、スウォッチ グループは社内に対して、公式に不参加のアナウンスを行った。
ここ数年、オメガなど、スウォッチ グループ傘下の一部メーカーはハイエック氏に対して、バーゼルワールドに参加せず、代わりに各国での新商品紹介イベント開催を希望していた。関係者曰く「ハイエック・ジュニアはバーゼルワールドに留まる意向を持っていた」が、一転して、不参加を決定した。
バーゼルワールドに参加するメーカーは、2016年に1500社を超えたが、17年はおよそ1300社に減少し、今年は公式に発表されていないが、約650社(以前『クロノス日本版』では850社と書いたが、実数はさらに少なかった)まで減少した。主な理由は、ハイエック氏が述べた通り、出展料が高騰したこと、そして参加のメリットが薄れたためだ。かつて、時計メーカーは売上の大半をバーゼルワールドでの商談会によっていた。しかし、現在ではその割合が5割を切っているメーカーもある。加えて、ドバイなど世界各地で時計の見本市が開催された結果、バーゼルワールドの重要性は年々下がっていた。
対してバーゼルワールド事務局は出展料の引き下げや、事務局長の更迭などで対処したが、今回、スウォッチ グループの全面撤退を招くに至った。
現在、スウォッチ グループはバーゼルワールドを支えるビッグブランド、通称「ビッグ5」(ロレックス、パテック フィリップ、スウォッチ グループ、ショパール、LVMH グループ)の一角を形成している。同グループの脱落は、バーゼルワールドの運営に大きな影響を及ぼすだろう。
なお、著名なジャーナリストであるギズベルト・L・ブルーナー氏は、「2020年にはバーゼルワールドが終わる」と明言したが、スウォッチ グループ以外のビッグ4は、まだ方向性を示していない。また、かつてスウォッチ グループ(当時はSMHグループ)が、バーゼル・フェア(現バーゼルワールド)を一時離脱したものの、6年後に復帰したことを考えれば、スウォッチ グループの離脱=バーゼルワールドの終焉と考えるのは早計だろう。
ともあれ、世界最大の国際時計見本市がどういう方向に向かっているのかは、随時、『クロノス日本版』本誌とウェブで報告したい。
Contact info: バーゼルワールド公式サイト https://www.baselworld.com