時計の重心位置は、金属製のブレスレットが付くと大きく変わる。重心を決める要素は、時計とブレスレットに変わるからだ。一般的に、重い時計に重いブレスレットが付いていれば、重心は腕に近くなり、装着感は改善される。逆に重い時計に軽いブレスレットを付けると、重心の位置は上がり、装着感は悪化するだろう。時計とブレスレットの重さのバランスが優れた例には、ロレックス「エクスプローラーI」、オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」、パテック フィリップ「ノーチラス」、IWC「マークXVIII」などが挙げられる。
なお重心が高い時計でも、装着感を改善できる場合がある。自動車で言うところの、太いタイヤを履かせた場合だ。時計でいうと、裏蓋が広くて腕との接地面積が大きく、加えて太くて曲がりの良いストラップを持つ場合である。実際いくつかのメーカーは、時計のサイズに対して太いストラップを付けて着け心地を改善している。好例は、ベル&ロスの「BRシリーズ」だろう。この時計は重いが、裏蓋が完全に平らな上、ストラップが広いため装着感は快適である。またジラール・ペルゴ「ヴィンテージ 1945」のように、裏蓋を腕に沿うように湾曲させて、装着感を改善した例もある。
装着感を左右する時計固有の条件として、まずはケースの仕上がりがある。最近、多くの時計が角張ったデザインを持つようになった。好む人は少なくないが、角が立ちすぎていると、肌に傷をつけたり、シャツの袖を痛める可能性がある。とりわけブレスレットやストラップに付くバックル(留め金)や、ケースの裏側などは、一流の時計メーカーであっても作りが荒い場合がある。角を触ってみて、痛いと感じたら買わない方が良いだろう。
そしてもうひとつの固有の条件が、アレルギーである。現在の時計は、ケースやブレスレットに金属アレルギーが起こりにくい素材を使うようになった。しかし何がアレルゲンになるかは、人によって大きく異なる。アレルギーを起こしにくい素材を挙げると、ステンレススティールの316Lと904L、チタン、そして完全にアレルギーフリーなのはサファイアクリスタルとセラミックである。最近真鍮やブロンズ素材を使ったケースが増えているが、金属アレルギーが起こりやすい人は避けるべきである。
また人によっては、革アレルギーを起こす場合がある。そういう人は、アレルギーフリーのストラップを選んだ方が良い。現在大手メーカーのストラップには、アレルギーフリーを謳ったものも増えつつある。