使い勝手は快適そのもの
我々、クロノスドイツ版編集部は、基本的にフォールディングバックルよりシンプルな尾錠派なので、使い勝手にも好感が持てる。リュウズについても、日付表示機構がないためだけでなく、ストップセコンド仕様でねじ込み式ではないので操作しやすいのだ。
オリジナルモデルもすでにストップセコンド機構を備え、日付表示を断念してはいた。その搭載ムーブメントは公式クロノメーターの手巻き自社製キャリバー478BWSbr。しかし、外観ががらりと変わった後続モデルでは自動巻きムーブメントを使用、名前もジオマティックとなった。そして、現行のジオフィジック 1958に搭載されているのは、自社開発の自動巻きムーブメント898/1。これは公式クロノメーターとして認定されているものだ。公式クロノメーター機関による試験のみならず、自社内での独自の基準に則った1000時間コントロールと呼ばれるテストが実行されている。約6週間にも及ぶこのテストは、C.O.S.C.の基準よりもさらに厳しい。まず、C.O.S.C.ではむき出しのムーブメントだけが試験対象になるが、1000時間コントロールでは時計としてケーシングされた状態でテストが行われる。さらに、試験姿勢は6姿勢。C.O.S.C.では5姿勢だ。その上、精度はムービングマシンに掛けた時と一致していなければならない。これらをクリアしてようやく、出荷されるようになっている。
キャリバー898/1は、有名なキャリバー889に手を加えて派生したものだ。振動数は2万8800振動/時、ローターにセラミックス製のボールベアリングを仕込んだモダン仕様だ。パワーリザーブは約43時間と、最近の多くの新型ムーブメントより上を行っている。フリースプラングのため、緩急調整はテンワに取り付けられた専用のバランス・ウェイトで行う。より細やかな調整が可能なので、精度も向上している。
ケースの裏蓋はスクリューバック、加えて軟鉄製インナーケースに格納されるにもかかわらず、ムーブメントにはさまざまな装飾仕上げが施されている。地板にはペルラージュ、ブリッジにはコート・ド・ジュネーブ、ローターにも弧を描いてコート・ド・ジュネーブが入り、ステンレススティールパーツはサテン仕上げだ。ブルーのネジやエングレービングの文字が金色になっているのも美しい。しかし、いくつかのパーツは面取りされているが、そこを鏡面に磨いてまではいない。バネ類も一部は薄い板バネが使われている。それでもムーブメントとしては期待を裏切ることなく、中の上クラスには収まっているだろう。
精度は、腕に着用時の日差はプラス2秒。歩度測定機に掛けると、全姿勢で2秒から7秒の進みが見られたが、各姿勢間の差はかなり少ない。24時間後に計測した平均日差がプラス4秒というのは、クロノメーター規格の範囲内だ。水平姿勢から垂直姿勢にしたときの振り角落ちが、35度だったのも十分低い値といえる。
ジオフィジック 1958の価格は95万円。マニュファクチュールの限定モデルとしては見合った金額だろう。ジャガー・ルクルトの他のいくつかのモデルを見ても、価格設定はこんな感じだ。世界800本限定であることを考慮すると、まずまずの価格と言える。
穏やかな印象と耐磁という抵抗力に基づく、気品と実用のコンビネーションは、日常生活において役立つだけに非常に魅力的だ。歴史的なモデルにおいて、デザインだけではなく、コンセプトが引き継がれたのは喜ばしい限り。レトロデザインもディテールまでよく練られたオリジナルに沿っているが、普段使いの上でのすべての要求を満たしているのもお手のものといった感がある。それくらい弱点がほとんどないに等しい。予算との折り合いに悩むこともあろうが、最終的にはエレガントでありながらパワフルに立ち向かえる骨っぷしの強さという構造の魅力がすべてを凌駕するだろう。