【86点】ブランパン/フィフティ ファゾムス バチスカーフ フライバック クロノグラフ

2014.12.03

徹底分解。「フィフティ ファゾムス バチスカーフ フライバッククロノグラフ」の部品の数々。

分解

黒いゴールドローターを取り外すと、ブリッジに内蔵されたボールベアリングでローターが支持されている構造がよく見える。エッジに面取りとポリッシュ仕上げを施したローターブリッジは、ネジを外せば簡単に取り外すことができる。ローターを取り外すと平坦なブリッジが残るのは、このムーブメントがもともと手巻きムーブメントとして設計されていたことを示す名残である。ローターブリッジの下側は装飾されていないものの、露出したブリッジを見ると、見えない場所にまで仕上げを怠っていないことが分かる。美しいサークラージュ仕上げは、すべてのブリッジで見つけることができる。ローターブリッジは2枚のプレートで構成されており、さらに分解することができる。2枚のプレートの間には、トランスミッションホイールと、両方向巻き上げ用の2個のリバーサーが取り付けられている。リバーサーはスムーズに動くように支持されており、ローターと連結されている巻き上げ車にふたつの板バネで押し付けられるようになっている。回転方向に応じて、巻き上げ車のひとつがトランスミッションホイールあるいはリバーサーと噛み合い、その間、もう一方の巻き上げ車がリバーサーのひとつを押しのけるように動かす仕組みである。こうして、ムーブメントは両方向に巻き上げられるようになっている。

次に大きなブリッジを取り外すと、すべてのクロノグラフホイールが見えるだけでなく、ガンギ車や4番車も見ることができる。これはやや珍しい構造だが、クロノグラフ機構がどれほど深くムーブメントに統合されているかを示すもので興味深い。クロノグラフと脱進機構のブリッジが分離されていたほうが、脱進機構のみ個別にテストできるため、メンテナンスの観点から言えば楽だったかもしれない。
クロノグラフを作動させる最新式の垂直クラッチでは、4番車の軸上にディスクが取り付けられているが、このディスクは軸に固定されておらず、板バネのひとつがこのディスクを4番車の方へ押すことで両者が連結される仕組みになっている。クラッチを切り離すため、片方のディスクの縁がテーパーにカットされている。プライヤーのように閉じるふたつのレバーがひとつのディスクをもう一方のディスクから分離する動作をすることでディスクの動きが連動せず、クラッチが切り離される。
垂直クラッチは、クロノグラフ秒針を瞬時に始動させることができる。その点、伝統的な水平クラッチは、クラッチが噛み合う時にふたつの歯がぶつかり合うため、針飛びが発生する可能性がある。その代わり、垂直クラッチの場合は、機構の多くがブリッジの下に隠れて見えなくなってしまうという美観的デメリットがある。
リセット時にクロノグラフ針を帰零させるメカニズムも興味深い。ワンピース構造の長い帰零レバーが秒・分・時の積算カウンターのリセットカムを押すことで、すべてのカウンターが同時に元の位置に戻る仕組みだ。リセットボタンからの動力は、たったひとつのジョイントを介して伝わるようになっている。そのため、リセットに必要な動力はごくわずかで済み、軽い押し心地のクロノグラフプッシャーが実現した。スタート/ストップボタンも操作がスムーズである。これは、コラムホイール式の制御であることに起因する。垂直クラッチとコラムホイールを採用したキャリバーF385は、まさに時代の最先端を行くムーブメントと言えよう。

まだ分解されていないのは、ふたつのブリッジのみとなった。その下には、香箱と秒針位置合わせメカニズムが装備されている。組み立てられた状態では見ることができないにもかかわらず、香箱は両面ともサークラージュ仕上げで美しく装飾されている。
キャリバーF385では、2013年に発表されたバチスカーフのクロノグラフ非搭載モデル同様、ヒゲゼンマイがシリコンで出来ている。シリコンは反磁性を備えた素材で、磁力に引き寄せられることはなく、わずかながら弾き返す性質を持つ。つまり、シリコンを使えば磁束の影響から時計を守ることが可能になるのだ。ただ、ブランパンは残念ながら、どの程度の磁束まで耐性があるのか、はっきりとしたデータは公開していない。ゴールドの調整ネジを備えたチタン製テンワも、耐磁性能に寄与するだろう。ゴールドはシリコン同様、反磁性の素材だが、チタンは常磁性なので、磁束の有効範囲にある場合は磁力に引き寄せられてしまうものの、チタン自体が磁気を帯びることはない。ブランパンは、スウォッチグループの兄弟ブランド、オメガから技術的なサポートを受けている。オメガは、通常とは異なる素材をムーブメントに使用することで耐磁性を追求するパイオニアとして名高い。

ムーブメントには、ブランパンが自ら6姿勢すべてで微調整を行っていることを示す刻印が入っている。この刻印は、高速で振動するテンプとともに、高い精度への期待をいやが上にも高めてくれる。それはそうと、ムーブメントを分解する前に、我々は歩度測定機で精度安定試験を行っていた。