新世代ムーブメントの搭載は、ユーザーにどんなメリットをもたらすのだろうか。まず挙げられるのは、耐衝撃性と信頼性が向上した点である。また、巻き上げ効率も改善され、ボールベアリングで支持されたローターにより、香箱にはより早くエネルギーが蓄えられる。パワーリザーブはこれまでの約48時間から約70時間に延長されたが、これは、香箱の壁を薄くしてこれまでよりも長い主ゼンマイを格納したことによる効果である。さらに、スイスレバー脱進機よりも効率が15%向上した革新的なクロナジー エスケープメントも、これに貢献している。エネルギー効率の向上は、ガンギ車とアンクルの形状を変更し、スケルトナイズされたフォルムによって軽量化が図られたことで実現した。
また、ニッケルとリンの合金を使用し、LIGAプロセス(フォトリソグラフィー、電鋳およびモールディングを組み合わせた工程)で製造されたガンギ車は、磁束に影響されない。新しくなった天真も、耐磁性の向上に貢献している。ニオブとジルコニウムの合金で出来たブルーのパラクロム・ヘアスプリングは、パラフレックス ショック・アブソーバー同様、すでに他のモデルで知られており、両持ちテンプの軸方向のアガキは、これまでのように2個ではなく1個のネジで微調整される。微調整をテンワの内側に取り付けたマイクロステラナットで行うフリースプラングテンプと、ブレゲ式エンドカーブにより、ヒゲゼンマイは制約されることなく自由かつ均等に伸縮することができる。
今回のシードゥエラーでも、他のオイスターモデル同様、新型ムーブメントはステンレススティール製の裏蓋に隠れて見ることができない。にもかかわらず、ロレックスは仕上げや装飾に手を抜いておらず、部分的に透かし彫りされたローターやローター受けにはサンブラッシュ仕上げが、また、スティール製部品にはヘアライン仕上げが施されている。また、面取りされたエッジやポリッシュ仕上げのネジ頭なども見ることができる。
ロレックスは2015年にすべてのモデルに対し、精度に関するより厳しい独自の規格を導入した。スイスクロノメーター検査協会(C.O.S.C.)の定める精度基準を満たすだけでなく、ロレックスの時計師たちはムーブメントを作動させた状態で、さらに高い精度で微調整しなければならない。許容された日差はマイナス2秒/日からプラス2秒/日の間で、実際の着用状態を再現できるシステムを使用したシミュレーション・テストが行われている。
ロレックスが自らに課した厳しい基準は、秀逸な結果として表れている。今回のテストウォッチは着用時、プラス0.5秒/日というごくわずかなプラス傾向で、歩度測定器によるテストでもロレックスが規定する狭い許容範囲内に収まる優れた結果を見せた。計算上の平均日差はプラス0.2秒/日と、驚くべき数値である。最大姿勢差は4秒と悪くはなかったが、クロノスドイツ版編集部の評価基準に照らし合わせると、残念ながら満点には達しなかった。
ここまで新作シードゥエラーのメリットばかりを述べてきたが、価格はどうだろうか。新作のシードゥエラーは税別108万円で、旧モデルよりも9万円高く、115万円のロレックス ディープシーに迫る価格設定で、81万円のステンレススティール製サブマリーナー デイトからはさらに遠のく価格帯に入ってしまった。この差額は、新型ムーブメントを搭載し、ケース径の拡大した新しいシードゥエラーに十分見合うものとはいえ、同じく新型ムーブメントを搭載したデイトジャスト 41(ステンレススティール製、ジュビリーブレスレット)が71万円で手に入ることを考えると、コストパフォーマンスの点ではこれらのモデルの方が優れていると言えるだろう。
とはいうものの、現時点で新作のオイスター パーペチュアル シードゥエラーを購入できたなら、それは幸運と言うほかない。したがって、新作のシードゥエラーを購入できたユーザーは、その価値を堪能してほしい。だが、状況はコスモグラフ デイトナの時ほど深刻ではなく、人気の急騰は今後、沈静化すると見られている。
新しいオイスター パーペチュアル シードゥエラーは、ロレックスのダイバーズウォッチの中で最も美しく、そして最先端の技術を搭載した腕時計である。機能性と日常使いにおける利便性のバランスが絶妙で、長いパワーリザーブを備えた新型ムーブメントにより、着用しなくても約3日間、動き続ける。サイクロップレンズの採用によって、シードゥエラーがオリジナルモデルにもはや忠実ではないという意見もあるかもしれないが、歴代のシードゥエラーの中で最も優れているだけでなく、ロレックスがこれまでにリリースしてきたダイバーズウォッチの中で最良の腕時計であることは、間違いない事実である。