直線と曲線の対比がインパクトを与える。
もしあなたがタイムマシンを持っているとしたら、過去に行ってみようと考えるだろうか。それとも行き先は未来だろうか。未来に何が起きているかに興味があるならば、今回取り上げるビッグ・バン メカ-10チタニウムのことを大いに気に入るはずだ。というのも、このモデルは伝統的な時計技法のデザインスタイルにのっとってはおらず、ネジを多用していくつかの素材を組み合わせ、歯車やレバー類が見えるようデザインされている。その姿が古典文学に出てきそうな神秘さ漂う芸術的なタイムマシンを想起させる風貌だからだ。
ケースの表側から振動している姿が見えるテンワは、メカ-10が載せる自社開発手巻きムーブメントのためだけに開発されたものではなく、自社開発自動巻きクロノグラフとしておなじみのビッグ・バン ウニコにも使用されているものだ。ケースだけに注目すれば、クロノグラフのプッシュボタンがないこと以外は、ビッグ・バン ウニコと双子のように似ている。ケースの直径も45㎜と同じサイズだ。
入り組んだ構造が見せる世界
メカ-10は、複合的要素を持った総合芸術作品と言えるだろう。同作のマジックゴールドケースモデルは2017年に、有名なデザイン賞の〝レッド・ドット・デザイン賞〟で最優秀賞を受賞している。手間の掛かった様子がうかがえるレトロフューチャーなデザインが印象的だが、それは全体を貫く複合性のなせる業だ。ネジを見せるように組み込んだベゼルや、ケースを構成するパーツにブラックの樹脂を使用した点、あるいはストラップ交換用に台形のプッシュボタンを設けてあることなどがそれに当たる。そしてなによりもトランスパレントバックで、かつムーブメントがモダンにスケルトナイズされているので、ディテールに見どころが多いのが特徴だ。多くのパーツを組み合わせた複合的な構造のケースは、かなりの労力とコストが掛かっていることが一目見て分かる。
そして心引かれるのは、各ディテールとも抜かりのない仕上がりになっていることだ。ネジを例に挙げると、「H」をかたどった独創的なネジ頭は立体的に作られており、トップは艶消しにして鏡面に磨いたリングをはめている。このケースにはこうした細やかな手法がいろいろと採られているのだ。ケース側面を見ると5つのエリアから成り立っているのが分かる。パール状の輝きを帯びたチタンのエリアはベゼルを含めて3層あり、その間に黒い艶消しの人工樹脂層が2層挟まれている。加えて、サイドをラバーで覆ったチタン製のリュウズも、黒とグレーでコントラストを効かせている。
ケースに限らず、メカ-10はどのディテールも力を入れてデザインされているモデルだ。〝ワンクリック〟で素早いストラップ交換が可能なウブロ独自のプッシュボタンにも、デザイナーのセンスが光る。上下それぞれのラグ間には台形のプッシュボタンがあるのだが、外周のフレーム上はサテン仕上げ、内側のくぼんだ部分はパール状に仕上げられている。このような細やかさが、ウブロのデザインクォリティを高めているのだ。
素早くストラップを取り替えられるこのシステムは実用的で、実際に取り外しと取り付けが簡単にできる。黒いラバーストラップはストライプ状に溝が入ったデザインだ。チタン製のバックルも、すんなり動くセーフティーボタンがしっかりと働いてくれる。もっとも、バックルは開いた状態でやや短かさを感じるため、腕に通すときに圧迫感があるのは否めない。