【2024年新作時計ベスト5】カルティエやエルメス、フランク ミュラーなど、柴田充は時代の空気感を反映した時計を選出

2024.04.25

ジャーナリストをはじめ、時計業界の著名人たちに2024年に発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回はライターの柴田充が時代の空気感を反映した新作の中から、特に気になったという時計をピックアップ。エルメス、カルティエ、フランク ミュラーなどが選出された。


エルメス「エルメス カット」

ポスト“ラグスポ”のトレンドを探るなか、エルメスの新作に新たな水脈を感じる。ケースフォルムに加え、ネヴィル・ブロディを思わせるフォントもエッジが効いてる。クリッパーを思わせるという担当者談にもいたく同感。

©Joël Von Allmen
エルメス「エルメス カット」
自動巻き(Cal.H1912)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRG×SSケース(直径36mm)。10気圧防水。216万7000円(税込み)。(問)エルメスジャポン Tel.03-3569-3300


カルティエ「サントス デュモン リワインド」

近年カルティエはヘリテージの新たな解釈に抜きん出る。細部のモダンなリファインはもとより、ミニサイズなどそのベクトルは多彩。反時計回りのギミックは、時間の既成概念を覆し、その色にも官能的な夢を見る。

カルティエ サントス デュモン リワインド

カルティエ「サントス デュモン リワインド」
手巻き(Cal.230MC)。Ptケース(縦43.5×横31.5mm、厚さ7.3mm)。日常生活防水。世界限定200本。583万4400円(税込み)。2024年6月発売予定。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00


フランク ミュラー「マスター ジャンパー」

カルティエにお株を奪われた感のあるフランク ミュラーだが、本来の独自技術で新たな美を創出する。シンボルであるビザン数字を自ら封じ、しかも針までもなくす。際立つのは研ぎ澄まされたケースフォルムだ。

フランク ミュラー マスター ジャンパー

フランク ミュラー「マスター ジャンパー」Ref. CX38MJ 5NAC
手巻き。18KPGケース(縦55.7×横38mm)。日常生活防水。予価1485万円(税込み)。(問)フランク ミュラー ウォッチランド東京 Tel.03-3549-1949


IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」

ここ数年、パーペチュアルカレンダーが気になる。それはアニュアルカレンダーのような実用性とは異なる、永遠という時への憧憬もあってのことだろう。透明感漂うデザインはまるでその思いを映し出す鏡のようだ。

IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」Ref. IW505701
自動巻き(Cal.52640)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約7日間。Ptケース(直径44.4mm、厚さ14.9mm)。5気圧防水。要価格問い合わせ。(問)IWC Tel.0120-05-1868


グランドセイコー「エボリューション9 コレクション 手巻メカニカルハイビート36000 80 Hours モデル SLGW003」

これにはスイスの名門ブランドも舌を巻くだろう。いまだ手巻きの新たな価値観を創出できてはいないのだから。対して情緒や感性を具現化することで独自の世界観を打ち出す。出遅れた機械式でもようやく肩を並べた。

グランドセイコー エボリューション9

グランドセイコー「エボリューション9 コレクション 手巻メカニカルハイビート36000 80 Hours モデル」Ref.SLGW003
手巻き(Cal.9SA4)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。ブリリアントハードチタンケース(直径38.6mm、厚さ9.95mm)。3気圧防水。145万2000円(税込み)。2024年8月9日(金)発売予定。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617


総評

 規模はさらにスケールアップし、ライブステージなど街を挙げての盛大なお祭り騒ぎは、時計がそれだけスイスの重要な産業であることをあらためて知らしめる。その一方で、暗澹たる世界情勢や超大国市場の落ち込みなど安穏としていられない状況も映し出す。はしゃぎながらも酔い切れない気分。そうした時代の空気感を受け、パーペチュアルカレンダーのような永遠の時の探求心や、文字盤のカラースキームにも色のもたらす精神性を求めるようだ。

 今回挙げたのはそんな中で気になった5本であり、とくに順位はない。これ以外で目を引いたのは、パテック フィリップのカラトラバ。ウッドマルケトリーでボードを抱えて波打ち際を歩くサーファーを描く。王者にふさわしいマリンウォッチのエスプリだ。そしてロレックスの「ロレックス ディープシー」はコレクション初のフルYG仕様で登場した。重さは圧巻の322gで、これだけ重ければ実際のダイビング時にはウェイト代わりになるだろう。いずれも現実離れした存在感がショーを盛り上げる。旧バーゼル勢の面目躍如、負けてない。

 さてごった返す会場でオアシスのように感じたのはグランドセイコーのブースだ。木漏れ日の陰影を映し出し、時の移り変わりを表現する。まさに「パーフェクトデイズ」だ。ヴィム・ベンダースにしろ、「枯れ葉」を撮ったアキ・カウリスマキにも通じる、平穏な時への希求が感じられる。浅草駅の地下街で一杯やりたくなった。



選者のプロフィール

柴田充

柴田充

1962年生まれ。時計をはじめ、クルマやファッションなど男性の趣味の世界をテーマに、ライフスタイル誌や時計専門誌で編集執筆。


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