多彩なバリエーションをそろえるオリエントスターの中で、2023年に新設された「Mコレクションズ」と、そこにラインナップされる主要モデルを紹介する。この新コレクションは従来のオリエントスターのデザインコードを引き継ぎつつ、星雲や星団、銀河にちなんだモデル名とデザイン、コンセプトを有する点が特徴である。
Text by Yukaco Numamoto
[2024年4月30日掲載記事(2024年12月13日更新)]
2023年、オリエントスターに新設された「Mコレクションズ」
オリエントスターは多彩なモデルを展開している。また、一部のレディース向けの小径モデルを除いて、それぞれのモデルは12時位置にパワーリザーブ表示を持っていたり、ダイアル側がスケルトナイズされた仕様になっていたりと、ファンなら一目でオリエントスターだと分かる“デザインコード”がある。
一方で「いつも同じデザイン」では決してなく、さまざまなキャラクターを備えたモデルが展開されてきた。これらのモデルは従来、「クラシック」「コンテンポラリー」「スポーツ」などといったコレクションに振り分けられていた。しかし2023年、主に10万円以上のモデルを対象に、コレクションを再編。新たに「Mコレクションズ」を設けた。
2023年に登場したRef.RK-BZ0001S。誕生当初はスポーツコレクションとして展開されていたが、現在はM34に区分されている。自動巻き(Cal.F8N64)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。26万4000円(税込み)。
オリエントスターという名は、“輝ける星”と呼ばれる機械式時計を作るという思いから付けられている。Mコレクションズは天文学者のシャルル・メシエが作成した、星雲、星団、銀河の分類であるメシエカタログの中の、分類記号の頭文字である「M」を取って命名されている。すなわち、オリエントスターのコンセプトを、より色濃く反映したコレクションと言える。
さらに、Mコレクションズは「M45」「M34」「M42」の3つのラインナップを擁する。これらはメシエカタログに示された各星雲、星団、銀河に対応するもので、それぞれに通ずるストーリーを反映したモデルが並ぶ。本記事では、このストーリーと各モデルの特徴に注目して紹介してゆこう。
2024年に発表された、「M34」コレクションの最新スケルトンモデル。2022年発表モデルをベースに、ダイアル外周にブルーグラデーション、ベゼルにグレーIPを与えている。手巻き(Cal.F8B61)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.8mm)。5気圧防水。日本限定200本。39万6000円(税込み)。
さまざまなバリエーションが展開される「M34」
M34はペルセウス座に位置する散開星団であり、オリエントスターのM34は、ギリシャ神話に登場する英雄ペルセウスにちなんだコレクションだ。ラグや時分針は鋭く精悍で、ペルセウスが持つ剣から着想を得たものとなっている。なお、従来の区分では、コンテンポラリーに位置する。
M34の中でも最新の「M34 F8 デイト」は、3大流星群として知られるペルセウス座流星群をテーマとしており、ダイアルには、ペルセウス座を中心に流星群が放射状に夜空に幾筋も降り注ぐことをイメージした手彫りの型模様が施され、本作のアイコンとなっている。
自動巻き(Cal.F8N64)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。36万3000円(税込み)。
レギュラーモデルとなるブルーダイアルは、一般的な塗装と異なる手法によって発色されている点が特徴だ。本作のような型模様を見せながら塗料によって色を載せようとすると、例えばクリアブルーの塗装を施す必要があるが、塗膜が厚くなると繊細な型模様が潰れてしまう。そこで本作では、青色に見える波長の光を多く反射する光学多層膜を施して、青色に見せている。この技術は、レンズなどの光学機器に用いられるものに近く、セイコーエプソンの技術的なバックボーンの広さと深さが垣間見られるものとなっている。
搭載されるムーブメントは新型となる自動巻きのCal.F8N64である。21年にオリエント70周年を記念して発表され、オリエントスターの技術的シグネチャーとなっているシリコン製ガンギ車を搭載する点が特徴である。軽量なガンギ車の採用により作動の効率化が図られており、パワーリザーブは約60時間となる。また、長い針を駆動するためのトルク改善も施されている。
自動巻き(Cal.F7F44)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径40mm、厚さ13mm)。10気圧防水。14万3000円(税込み)。
「M34 F7 セミスケルトン」も、オリエントスターらしいモデルだ。「M34 F8 デイト」と同じく、シャープながら力強いラグや真っすぐに伸びたペンシル型の針を備えつつ、オリエントスターのアイコンともいえるスケルトナイズされた文字盤を備えており、9時位置からテンプがのぞいている。また、写真のモデルは白蝶貝とグラデーションによって表現された、神秘的な文字盤が特徴だ。
前述の通り、M34は多彩なバリエーションが存在しているので、これからのモデル展開が楽しみにもなるコレクションといえる。
エレガントかつクラシカルな「M45」
M45はおうし座の一角をなすプレヤデス星団を指し、日本では「すばる(昴)」として知られている。狭い範囲に星が密集した散開星団と呼ばれる珍しい構成を持ち、秋から春先にかけて肉眼でも星の集まりが明るく見えることが特徴だ。そのため、枕草子の他、世界各国の記録や物語に登場している。オリエントスターのM45は、このすばるにちなんだもので、星々の集まりを感じさせるモデルをラインナップしてきた。なお、従来の区分ではクラシックコレクションとなる。
今回ピックアップする「M45 F7 メカニカルムーンフェイズ リミテッドエディション」は、月とすばるが重なる「掩蔽(えんぺい)」の中でも、欠けた月が重なることで明るいすばるの星々を月の影が隠す様子をテーマにしている。
自動巻き(Cal.F7M65)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.8mm)。5気圧防水。国内限定200本。33万円(税込み)。コードバン替えバンド付きは34万1000円(税込み)。
この天体ショーを再現するダイアルはモノトーンでシンプルに見えるが、手の込んだ手法が用いられている。まず、ダイアルベースに型押しによる細かな凹凸を設ける。その上に、グラデーションを含めた塗装を施した後、クリア塗料による厚みのあるラッピング層を載せている。このラッピング層を研磨することによって平面でありながら奥行きを感じさせる仕上がりを生み出しているのだ。そしてさらに、立体物に印刷するタコ印刷と呼ばれる手法で、複数回にわたってローマンインデックスを印字する。これにより印刷が層となり、ラッピング層の上に浮かぶような立体的なインデックスが生み出されている。
ダイバーズウォッチなら「M42」
M42はオリオン座の散光星雲で、肉眼でも観察可能なほど明るいことが特徴である。ギリシャ神話の勇者オリオンは、海神ポセイドンの子とされており、「オリエントスター M42」はそこから着想を得たダイバーズウォッチコレクションとなっている。このM42のうち、2022年に登場した「M42 ダイバー 1964 2nd エディション F6 デイト 200m チタン」を取り上げよう。
自動巻き(Cal.F6N47)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。Tiケース(直径41mm、厚さ14.3mm)。200m防水。18万7000円(税込み)。
本作のベースは、1964年に登場した「カレンダーオートオリエント」である。カレンダーオートオリエントはミラーブラックダイアルにドットとバーのインデックスの組み合わせが特徴のモデルで、リュウズガードを持たないケースからはダイバーズウォッチ黎明期を感じさせるシルエットを備えていた。本作はそのデザインを引き継ぎつつ、12時位置にパワーリザーブ表示が追加されている。
ケース径41mm、厚さ14.3mmとそれなりのボリューム感がありつつ、チタン製とすることで113gと軽量な仕立てとなっており、さらに、ISO 6425規格に示された200mスキューバ潜水用防水時計の要件を満たした現代的な性能を有する。特殊ダイバーズウォッチを作り慣れているセイコーエプソンの血脈が感じられる手堅い仕上がりである。
クラシカルなテイストと、ストイックなツールウォッチらしいボリューム感、そして着用感の良さに直結する軽量さを兼ね備えた魅力的なモデルであると言えるだろう。
Mコレクションズの、そしてオリエントスターの“これから”が楽しみ!
2021年にブランド誕生70周年を迎えたオリエントスターが打ち出す、新たなる定番Mコレクションズ。既存モデルを再編するのみならず、24年に入ってからも意欲的に新作が追加されている。“輝ける星”として、時計市場でのオリエントスターのポジションを、いっそう押し上げる存在になってほしいものだ。
参考サイト:https://www.orient-watch.jp