昨年、それまでのコレクション体系を再編し、新たに星雲や星団をテーマとするコンセプチュアルなデザインを取り入れた「Mコレクションズ」を始動させたオリエントスター。その第2弾の先陣を切って発売されたのが「M34 F8 デイト」の限定バージョンだったが、続いて投入されるレギュラーモデルではブランド初となる文字盤の製造技術を取り入れ、コレクションのテーマにふさわしい、深淵な宇宙の青を表現している。
光学多層膜技術によって繊細なブルーを表現した「M34 F8 デイト」のレギュラーモデル。文字盤の繊細なパターンはもちろんのこと、ケースも星座の由来となった英雄ペルセウスをイメージし、ポリッシュとサテン仕上げを組み合わせてソリッドな雰囲気に仕上げている。自動巻き(Cal.F8N64)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径40mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。36万3000円(税込み)。
竹石祐三:取材・文 Edited & Text by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]
光を操る「M34 F8 デイト」の新文字盤表現
フランスの天文学者シャルル・メシエ(1730〜1817年)が作成した星雲・星団・銀河のカタログにおいて、“M34”のナンバーを与えられているのが、ペルセウス座にある散開星団だ。今年3月に先行発売された「M34 F8 デイト」の限定バージョンは、この星団をデザインテーマとするM34コレクションにラインナップされたモデル。星座の由来となったギリシャ神話の英雄をイメージしたディテールを備えるのみならず、ペルセウス座流星群に着想を得たパターンを文字盤に取り入れたことで、力強さと神秘的な表情を宿す作品となった。
この限定モデルは、文字盤色をホワイトにすることで夜明け前の流星群を描いていたが、新たにリリースされるレギュラーモデルはより引き締まった印象を持たせるブルーの文字盤を採用し、真夜中の空を彩るペルセウス座流星群の姿を表現した。確かに、雲ひとつない日の夜空を思わせる、深く澄み切ったブルーに彩色されているが、それはオリエントスターを展開するエプソンの光学多層膜技術なくしては実現し得なかった、文字盤の新しい色調表現なのである。
そもそも人間が色を感じられるのは、錐体と呼ばれる視細胞の働きがあるから。錐体には波長感度の特性が異なる3種類があり、ブルー(B)の感度が高いS錐体、グリーン(G)の感度が高いM錐体、レッド(R)の感度が高いL錐体に分類されるのだが、光が目に入ると、3種類の錐体がそれぞれの波長に応じた信号を、視神経を経由して脳に伝え、その信号の強さの比率によって脳が色を認識する仕組みになっている。
エプソンが開発した光学多層膜技術は、こうした色覚のメカニズムを利用したもの。同社では常々、微細なパターンが施された文字盤に暗い色や濃い色の塗装を行うと、模様が認識しにくくなることを課題にしていたという。そこで、この問題を解決する過程で着目したのが、塗装に比べると段違いに薄く加飾できる光学多層膜技術だった。
特徴は、ほぼ無色透明の膜を何層にも重ね合わせることでブルーの波長だけを反射させ、その色を認識させるという、いわば光の見え方をコントロールする手法。エプソンの開発チームは「絵の具やディスプレイの発色のように色を混ぜ合わせるのではなく、透明の水でも海では青く、火山湖ではエメラルドに見えるようなイメージ」と説明しており、確かにこの例えは分かりやすい。
その製作工程はまず、職人の手によって繊細な模様が彫り込まれた金型に真鍮の板材をプレスし、ベースとなる文字盤を作製。これに下地となる湿式めっきを施し、その上にナノレベルの薄膜を蒸着によって何層にも積み重ねるものだ。意図する色調を生み出すためには、それぞれの膜の厚さを微調整することはもちろん、どのように組み合わせるかを見つけ出すことが難しく、本作のような奥行き感のあるブルーを狙い通りに実現するには、実に数年もの時間を要したという。
多層でありながらも膜は薄いため、ペルセウス座流星群をイメージした独特のパターンはしっかりと浮かび上がり、腕時計を見る角度によってブルーの色調も変化するため、現実の夜空のような移ろいも感じさせてくれる。当然、膜の構成によってさまざまな色調が表現できる技術のため、オリエントスターの文字盤は今後、より写実的な表現を示しながら、新たな感動を与えてくれることだろう。
オリエントスター公式オンラインストア 特集ページ
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