高級機械式腕時計ブランドのクストス。顧客に寄り添いながら一歩一歩、高みを目指す

FEATURE本誌記事
2024.08.09

大胆なトノー型ケースに一風変わった素材や色使いで、強いキャラクターが際立つクストス。しかし、ブランドの姿勢からは、顧客に寄り添った、誠実かつ堅実な方針が見えてくる。

クストスのコレクション

ステファン・クンツが持参したコレクションの一部。左の2本が「チャレンジ シーライナー クロノ」、中の2本が「チャレンジ シーライナー P-S オートマティック セラミック」、右がブルーの「チャレンジ シーライナー トゥールビヨン サファイア」だ。トノー型ケースであるにもかかわらず100mまたは50m防水を備えている。このケースは特殊な接着剤によって気密性が保たれており、裏蓋側の4カ所を除くネジは装飾なのだという。
Photograph by Mika Hashimoto
Text by Chieko Tsuruoka (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]


素材使いから見る、クストスのブランド方針

 2005年に創業したクストス。ラテン語で「時の守護神」を意味するこの時計ブランドは、大ぶりなトノー型ケースをベースに、多彩な色使いや時計としては珍しい現代素材を用いたモデルをラインナップしてきた。同ブランドからは、強いキャラクターが感じられる。しかし、マネージングディレクターであるステファン・クンツがコレクションを前に、生き生きと語った内容からは、顧客に寄り添う誠実さと、堅実に成長しようとする姿勢がうかがえた。

(左から)クストスのチーフデザイナーであるアントニオ・テラノヴァと、CEOのサスーン・シルマケス。フランク ミュラーグループのCEOであるヴァルタン・シルマケスを父に持つサスーン・シルマケスは、2004年に時計作りに着手した。この時、デザイナーとして迎え入れたのがアントニオ・テラノヴァであり、翌2005年に共同でクストスを設立する。

 彼が広げた新作を含むコレクションは、いずれも大きなインパクトを持つ。ハイライトはサファイアクリスタル製ケースを持つ「メトロポリタン P-S スケルトン サファイア」と「チャレンジ シーライナー トゥールビヨン サファイア」だ。とりわけ後者は、ブランドにとって初めてブルーに色付けすることに成功したサファイアクリスタル製モデルとあって、インタビュー中に彼が手ずから解説した。

「クストスは前衛的なブランドです。これまでチタンや鍛造カーボンといった、(腕時計にとって)真新しい素材を採用してきました。3年ほど前から、サファイアクリスタルに注力しています。サファイアクリスタルは、あらゆる方向からの光を取り入れ、時計をきれいに見せるためです。しかしこの素材は硬度が高く、製造に手間がかかるうえに、ステンレススティールケースと同じ工作機械は使えないため、専用設備が必要です。また、切削後のサファイアクリスタルは乳白色であるため、透明になるまで研磨します。この研磨にも、大変な技術が要されます。こういった(製造に)大変な手間がかかる素材を使ってでも、技術を高め、実現したい製品を作り上げていくというプロセスを私たちは採っているのです」

メトロポリタン P-S スケルトン サファイア

メトロポリタン P-S スケルトン サファイア
サファイアクリスタルをケースに用いたモデル。オープンワークされた文字盤と相まって、さまざまな角度から内部構造を観賞できる1本だ。自動巻き(Cal.CVS410)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。サファイアクリスタルケース(縦51×横42mm)。50m防水。638万円(税込み)。

 その硬質さゆえに、風防やケースバック以外にサファイアクリスタルを使った腕時計は限られている。しかし、クストスの強みは「この素材をケースに使っている」ということに留まらない。「クストスは、サファイアクリスタル製ケースを持ったモデルを量産できるということが強みです。こういった(特別な素材を使った)モデルは、ごく少量生産という場合が多いですね。しかし我々は、2年半で400個程度、安定して(サファイアクリスタル製モデルを)生産する体制を実現しました。高品質を常に追求しながらも、ユーザーに迅速に製品を届けられるよう、工夫と努力を重ねているのです」。

 こういった顧客に寄り添った“チャレンジ精神”と、この精神を具現化する高い技術力が、時計愛好家の関心を引き、根強いファンを獲得している。最後に、クストスの今後の展望について聞いた。

チャレンジ シーライナー クロノ

チャレンジ シーライナー クロノ
2024年新作モデル。豪華なヨットの世界観と、レガッタレースの活発なテイストを意匠に落とし込んでいる。搭載する自動巻きムーブメントCal.CVS857にはレガッタ機能が付加されている。自動巻き(Cal.CVS857)。パワーリザーブ約48時間。SS×18KRGケース(縦53.7×横47.5mm)。100m防水。423万5000円(税込み)。発売時期未定。

「ステップバイステップで成長していくつもりです。現在の年間生産本数が1200〜1500本程度ですが、3〜5年後には2500本くらいまでに上げていくことが目標です。とはいえ私たちは現在、マーケットを開拓している途上にあります。この開拓の状況によって必要生産数は変わっていきますよね。状況を見ながら、目標を再設定したり(必要に応じて)設備投資したりして、少しずつ大きくなろうと考えています」

 インパクトの強い製品群とは真逆とも思える、堅実な姿勢を持ったクストス。もっともステファン・クンツの話では、今後サファイアクリスタルの内製化も視野に入れているとのことで、野心的な挑戦への意志も見え隠れする。そんな「攻め」の姿勢があればこそ、あまたの時計ブランドの中で、クストスは強いキャラクターを確立しているのだろう。

チャレンジ シーライナー P-S オートマティック セラミック

チャレンジ シーライナー P-S オートマティック セラミック
ホワイトセラミックスのケースを有する爽やかな新作モデル。オープンワークの文字盤に加えて、3時側と9時側のケースサイドに4つの開口部が設けられており、内部機構を見せる設計となっている。自動巻き(Cal. CVS410)。パワーリザーブ約42時間。セラミックス×18KRGケース(縦53.7×横41mm)。100m防水。予価434万5000円(税込み)。発売時期未定。



Contact info: フランク ミュラー ウォッチランド東京 Tel.03-3549-1949


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