“ラ・シティ”の名が与えられたケースを持つ、スピークマリンの新作「リップルズ・スケルトン」。新しい外装、新しいムーブメントを備えることで、傑出したラグジュアリースポーツウォッチへと進化する。
「リップルズ」の最新作。デザイナーのステファン・ラクロア-ガシェいわく「リップルズの円と四角を融合したケースは残しつつ、ほかにはないモデル」を目指した。なお、ムーブメントも外装も、新設計である。自動巻き(Cal.SMA07)。27石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約52時間。SSケース(直径40.3mm、厚さ6.3mm)。5気圧防水。596万9700円(税込み)。
鶴岡智恵子(本誌):取材・文 Text by Chieko Tsuruoka (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年11月号掲載記事]
スケルトン専用に仕立て直された薄型機
薄い外装と、そこに与えられたサテン仕上げとポリッシュ仕上げのコンビネーションという、いわゆるラグジュアリースポーツウォッチのスタイルを備えたスピークマリンの「リップルズ」より、ケース厚を30%薄くし、かつスケルトナイズした「リップルズ・スケルトン」が登場した。いっそう腕なじみがよく、よりル・セルクル・デ・オルロジェ製のムーブメントを堪能できるようになった本作は、リップルズが持つ“ラ・シティ”(都会的な)と名付けられたケースの独創性をより強調する。
本作を手に取った時、その作りの良さに所有欲をくすぐられた。“ラ・シティ”の複雑な造形を薄型ケースで実現し、かつブレスレットも薄く、しなやかに仕立てており、コストと手間がかかっていると分かる。こういった手間を惜しまず製造してこそ、ラグジュアリーな腕時計だ。さらに本作のスケルトン化のために、輪列を再設計した専用ムーブメントが製造されている点も、魅力のひとつだ。
スピークマリンは、このコストのかかるスタイルを本作で実現するのみならず、従来モデルよりもスペックアップさせた。スペックを向上させたと言える変更点は、大きく3つある。ひとつはケース素材を従来の316Lスティールから、審美性を備えた904Lスティールへ改めたこと。もうひとつはバックルに最大4mmの微調整機構を搭載したこと。さらに、厚さがわずか3・25㎜の新開発ムーブメントを搭載させ、“ラ・シティ”の意匠に合わせて肉抜きしたわけだが、このムーブメントが3万6000振動/時のハイビート設計で、日差±5秒という精度をも両立していることだ。3mm台の厚さでこれだけのハイビートという機械式のムーブメントは、ほとんどない。なお、パワーリザーブは従来と同じく約52時間。防水性も5気圧が保たれている。
本作はこの薄く、高性能で、それでいて美観も備えたムーブメントを開発したル・セルクル・デ・オルロジェの存在なくしては実現しえなかっただろう。このムーブメント製造会社はルイ・ヴィトンなどとも協業している。スピークマリンも2015年より出資しており、同社とともに、ムーブメント開発を行ってきた。
そして、もともと非凡な存在であったリップルズを、さらなる高みへと誘った“ラ・シティ”、英語表記で“The City”というエッセンスを際立たせたデザイナーの存在もまた欠かせない。本作が発表されたジュネーブ・ウォッチ・デイズ2024で、本作を含む歴代リップルズをデザインしたステファン・ラクロア-ガシェから話を聞く機会を得た。
「リップルズ・スケルトンのデザインを完成させるまでに、100枚のデッサンを描きました。スケルトンにするということは、文字盤側とケースバック側の両面を見なくてはならず、これが大変な仕事でした。また、ブリッジの存在も、課題のひとつでした。ブリッジは(ムーブメントのパーツを固定するという)技術的な役割があります。その役割を損ねないよう、コンテンポラリーに、ほかにはないデザインに、ということに挑戦しました。結果として完成したこのモデルのデザインを、私は誇りに思っています」
さらりと都会的な印象が与えられたリップルズ・スケルトンはその実、傑出したノウハウの集結をもって、生真面目なまでに作り込まれた〝ラグスポ〞なのだ。