フレデリック・コンスタントの「ハイライフ ワールドタイマー マニュファクチュール」を2週間程度借りられたので、着用レビューする。本作はマニュファクチュールによって“手の届くラグジュアリー”を実現してきた同ブランドならではの、良心的な価格設定と優れた品質を両立した、満足度の高いワールドタイマーモデルである。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2024年10月15日公開記事]
フレデリック・コンスタント「ハイライフ ワールドタイマー マニュファクチュール」を着用
フレデリック・コンスタントはピーター・スタースと、その妻アレッタによって1988年に創業された。同社は「高品質、スイスメイド、手の届く価格」を理念としていることが、最大の特徴だ。そんな同社はマニュファクチュールによって製品を生産している。2006年に設立されたスイス・ジュネーブ近郊のプラン・レ・ワットに位置する自社工場で、製品のデザイン、開発、組み立て、品質管理に至るまですべて行う体制を整えているのだ。この生産体制によって「高品質な腕時計」を提供する一方で、一部のハイエンドモデルを除き、20万円前後~80万円台という価格帯を実現している。“自社製ムーブメント”の搭載によって高額になる時計が珍しくない中、良心的な価格設定である。なお、日本での知名度は「知る人ぞ知る」だったかもしれないが、2016年にシチズンに買収されたことで、国内での取扱店も徐々に増えていっている。
今回、そんなフレデリック・コンスタントが2021年に発表した「ハイライフ ワールドタイマー マニュファクチュール」を着用する機会を得た。
自動巻き(Cal.FC-718)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.9mm)。5気圧防水。73万7000円(税込み)。
「ハイライフ」はフレデリック・コンスタントの中でもモダンスポーティーなテイストを持つコレクションで、ケースとブレスレットが一体となったようなフォルムを特徴とする。また、すべてのモデルにインターチェンジャブルシステムが搭載されており、工具なしでストラップの取り外しが可能である。さらに、各モデルの色に合わせたストラップも、別途付属している。ハイライフにはさまざまなモデルがラインナップされている中、本作は世界24都市の時間が文字盤上に表示されるワールドタイマー搭載モデル。この機能を象徴するかのように、文字盤中央には地球のモチーフが施されている。
「高品質、スイスメイド、手の届く価格」の三拍子
「安ければ安いほど良い」というわけではない。こと高級時計の世界では、手間が掛かっていたり、性能を突き詰めていたりするがゆえに、高額品となることは珍しくなく、その手間があるからこそ生み出される傑出した腕時計は、何物にも代えがたい付加価値を持つ。とはいえ私のようなしがないサラリーウーマンは、無尽蔵にお金を時計に使えるわけではない。そこで、常に「限られた予算の中で、自分にとって価値を感じられる時計」を探しているわけだが、最近は原材料の高騰や為替の影響もあって高級時計の価格が上昇傾向にあり、予算内で探すことが、なかなか難しくなってきた。
そんな中での伏兵が、まさにフレデリック・コンスタントの「ハイライフ ワールドタイマー マニュファクチュール」であったと言える。
本作の定価は73万7000円(税込み)と、ワールドタイマーを搭載していることを考えると、とても良心的な価格設定だと思う。ワールドタイマーとは各国の都市名が記された文字盤を持つ機構だ。GMTやデュアルタイムほどポピュラーではないということもあるが、ワールドタイマーウォッチは100万円超の価格帯のモデルが少なくない。そもそもスイス製のコンプリケーションウォッチ自体が、100万円以上となりがちだ。一方の本作は70万円台の販売価格となっており、ユーザーにとって非常にありがたい。さらにこの価格にはブレスレットのほか、ストラップも付いているのだからお得感がいっそう強い。時計ブランドの中には、こういった変更用のストラップを付けなくなってしまったところもあるのに、ハイライフでは、この価格の中でブレスレットとストラップ両方を楽しめるのだ。ちなみにインターチェンジャブル式となっているので、工具いらずで付け替え可能だ。
また、外装も複雑な形状をしながら角は立っておらず肌当たりが良いことや、今回はストラップで着用したが、ブレスレットも滑らかで適度な遊びを持っていること、加えてサテンとポリッシュの仕上げ分けはもちろん、バックル部分にペルラージュ装飾を施すなど凝ったディテールを備えることから、つくりの良さに妥協をしない姿勢のもと、製造されていることがうかがえる。
ラバーストラップも柔らかく、使いやすかった。ラバーであるものの、ステッチがあしらわれているため、エレガンスな印象ももたらされている。
ワールドタイマーを備えた自社製ムーブメントCal.FC-718
本作に搭載されるムーブメントは、フレデリック・コンスタントが自社工場で製造している自動巻きのCal.FC-718だ。2012年に「クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール」とともに発表されたムーブメントで、トランスパレント式のケースバックから観賞することができる。サファイアクリスタルの部分が大きいので、ムーブメントの端までを眺められるのが良い。ローターは肉抜きされているため、フレデリック・コンスタントの特徴的な6時位置のテンプの美観を邪魔しない。
なお、ワールドタイマーの操作方法はシンプルだ。一般的なワールドタイマーウォッチ同様に、24の都市名が記された回転式のディスクを回して時刻を合わせる方式であり、かつこのディスク操作も6時位置のポインターデイトも時分針も、すべてリュウズひとつで操作が可能だ。リュウズの2段引きで時刻合わせを、1段引きで都市ディスクと日付合わせを、引いていない状態で主ゼンマイの巻き上げを行うという仕組みになっている。ちなみにワールドタイマーの使い方としては、現在地の都市を12時位置に合わせる、というもの。24時間ディスクが時分針と連動して回転するため、もしほかの都市の時刻を知りたい場合は、この24時間ディスクを見れば良い。
ただ、ハイライフの優美なケースフォルムを守るためかリュウズが小さく、やや操作しづらいと感じた。引き出しづらく、また針回しや主ゼンマイの巻き上げの感触が重いためだ。とはいえ自動巻きで、パワーリザーブも約42時間と標準的であるため、頻繁に操作の必要があるというわけではないだろう。
企業努力が感じられる高級ワールドタイマー
フレデリック・コンスタントの「ハイライフ ワールドタイマー マニュファクチュール」を着用レビューした。
本作は高級感を随所に感じられるワールドタイマーウォッチでありながら、税込み73万7000円という抑えられた価格で販売されており、フレデリック・コンスタントというスイスの時計ブランドの企業努力が感じられる逸品である、ということが今回の着用で分かった。
マニュファクチュールを強みに打ち出す「高品質、スイスメイド、手の届く価格」の三拍子がそろった製品によって、同社が今後ますます時計市場でのプレゼンスを高めていくであろうことは、想像に難くない。