リニア式表示機構
PANERAI
リニア式のパワーリザーブ表示は、水平に移動する指針によって駆動時間を確認できるという珍しい表示方法だ。2005年にパネライ初となる自社ムーブメントに搭載されたこの機構も、その後は開発されていない。それだけ実用化するのが難しいという証しだ。この機構が搭載されているCal.P.2002は3バレルを持つ。それゆえ、限られたスペースから導き出された解決策が、省スペースで収まるこのリニア式だったと推測できる。いずれにせよ、高い技術力を要する表示機構である。現在購入できる稀少な表示機構搭載モデルを堪能していただきたい。
Ref.PAM00576。ブラウンダイアルに夜光アラビア数字とアワーインデックス、9時位置にスモールセコンドと24時間表示を配し、6時位置にリニア式の水平パワーリザーブ表示を備える。手巻き(Cal.P.2002)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約8日間。18KRG(直径44mm)。5気圧(50m)防水。333万円。
2002年に開発がスタートし、2005年に発表されたパネライ初となる自社設計・自社開発の手巻きムーブメント。3つの香箱による8日間のロングパワーリザーブを実現。リニア式の水平インジケーターによりパワーリザーブを表示。構成部品247個。ムーブメント径13 3/4リーニュ。厚さ6.6mm。キフパレショック耐震機構。
パネライ初の自社キャリバーP.2002。パネライが初めて設計・開発から手掛けた自社製手巻きムーブメントで、2002年から開発をスタートし、2005年に発表された。このキャリバーP.2000系のムーブメントは、同社の専門技術の粋を集めた完成度の高いムーブメントである。手巻き式、自動巻き式の違いはあるが、いずれも3バレルによるロングパワーリザーブを実現している。また、各キャリバーは、2枚の底板と1枚の上板の間に一連の小さな支柱を挟んでネジで固定するサンドイッチ構造を持つ。そのため、個々のコンポーネントを確実に固定できるメリットもある。さらに、P.2000シリーズを搭載する時計は、駆動しているすべての時間にまたがって、6つの姿勢差で検査が行われ、検査をクリアした固体にはクロノメーター以上の精度を証明する認定書が付与される。
キャリバーP.2002は3つの香箱によって約8日間のロングパワーリザーブを実現しているが、なんといってもその巻き上げ残量の表示方法が非常にユニークなのだ。ダイアルの6時位置に配されたリニア式表示機構、すなわち、指針が水平に移動することで主ゼンマイのエネルギー残量を表示するという仕組みである。パワーリザーブの表示方法には、ほかに指針式とディスク式が存在するが、水平に移動する表示方法は珍しい。よく見ると8日間を1日ごとに刻んだ表示で、あと何日間駆動するのかがひと目で分かるのが特徴だ。
ちなみに、このキャリバーP.2002にはリニア式パワーリザーブ表示機構のほかにもGMT機能や12/24時間表示、秒針をゼロ位置に戻すゼロリセット機能など、多くの機構が盛り込まれている。そこにはブランド初の自社キャリバーに対するCEOのアンジェロ・ボナーティ氏の熱い思い入れがあったようだ。
だが、このリニア式表示機構を他社で見ることはまずないだろう。それは、他の方式に比べて実用化が困難だからにほかならない。パワーリザーブ表示針は櫛歯(ラック)を水平に移動して残量を示すのだが、この水平を維持するのが非常に難しいのだ。歯車と櫛歯が精密かつスムーズに噛み合わないと時計自体が止まってしまう危険を孕む。そのため、開発当初は試行錯誤の連続だったようだが、そもそもなぜ他の表示方法を選択しなかったのだろうか? もちろん、ボナーティ氏の特別な思い入れもあったに違いないが、他の方式を選択しようにもムーブメントに十分なスペースがなかったからだと考えられる。というのも、8日間のロングパワーリザーブのための香箱を3つも搭載するからだ。
このリニア式表示機構は実用化こそ難しいが、省スペースという大きな利点がある。ムーブメントを見れば分かるように櫛歯は左右の横の動きだけで済む。したがって、狭いスペースに収められるというわけだ。簡単に追随できる機構ではないからこそ、独創性に加え、稀少性をももたらす表示方法だと言える。