時計愛好家にとって、“刺さる”モデルの作り手としておなじみのロンジン。今回着用レビューする「ロンジン マスターコレクション」も、そんな時計好きのための1本として取り上げようと思った。しかし使っていくうちに、本作は時計に興味があってもなくても、「なんとなく腕時計が欲しい」といったライトなユーザー層にも響く、「分かりやすく良い腕時計」だということを伝えたくなった。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2024年11月5日公開記事]
190周年記念モデルのデザインを踏襲する「ロンジン マスターコレクション」
1832年に創業したロンジン。1867年にスイス・サンティミエに自社工場を構え、この地が「Les Longines(細長い原野)」と呼ばれていたことが、ブランド名の由来となった。本工場は設立以降、製造する時計の文字盤に「翼を持つ砂時計」をあしらってきた。現在も同じ場所で時計製造を手掛けるロンジンは、この象徴的なロゴも、採用し続けている。
現在ロンジンは、長い歴史の中で培ってきた高度な時計製造技術を強みに、上質な腕時計を良心的な価格設定で販売している。時計愛好家からの指示が厚いのは、そんなブランドの「時計づくりへの姿勢」が大きく影響しているのだろう。2022年にリリースされた「ロンジン マスターコレクション」の190周年記念モデルも、そんなロンジン人気をいっそう高めたと言える腕時計である。日付表示を持たないクラシカルな文字盤にはブレゲ数字インデックスがあしらわれ、ブルースティールのリーフ針と相まって、エレガントなドレスウォッチに仕上がっている。しかも、定価は30万円台だ。
このデザインの人気の程をうかがわせるのが、その翌年にスモールセコンドを備えた新作モデルが追加されたこと。さらに2024年、いっそう多彩なバリエーションが用意されることになる。そのうちのひとつが、このRef.L2.357.5.70.2だ。
自動巻き(Cal.L888.5)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径34mm、厚さ9.2mm)。3気圧防水。41万9100円。
これまでのロンジン マスターコレクションの、190周年記念モデルのデザインを有した腕時計は、ケース径40mmまたは38.5mmであった。しかし本作は、小径の34mm。また、ステンレススティール製ケースに18Kローズゴールドキャップをあしらっており、この素材のコンビネーションに合わせて、インデックスと針もローズゴールドカラーに。加えてアリゲーターストラップは優しい色合いをしたブラウンを装っており、既存のモデルと比べて、優美な印象を強めている。
明確に区別されてはいないものの、34mmというケースサイズやデザインから、レディース向けコレクションとして位置付けられる本作を、時計愛好家ではなく、女性の視点からレビューしていきたい。
50万円以下で購入できる、ラグジュアリーなレディースウォッチ
前述の通り新しいロンジン マスターコレクションは、2022年に登場した190周年記念モデルを踏襲したデザインを持つ。本デザインで初めて18Kローズゴールドを使用したということに加えて、190周年記念モデル由来の、手が込んでいることを感じさせるディテールを備えており、ラグジュアリーな1本となっている。
初めて190周年記念モデルの文字盤を見た時は、驚かされた。サンドブラスト仕上げが施された文字盤上にはブレゲ数字のインデックスが載せられたのもすでに述べているが、このエングレービングが、まるで職人の手作業で彫られたかのような出来栄えなのだ。
私のスマートフォンで撮影した写真だと伝わりにくいと思うので説明すると、このインデックスは深く彫り込まれており、しかも優美な造形を備えるブレゲ数字が採用されているというのは、一般的にはレーザーなどで実現することが難しい仕様だ。そのため、こういったディテールを備える腕時計というのは、高価格帯がほとんど。しかしロンジンは、本作を41万9100円という販売価格で提供する。価格を考えれば手作業ではなく、微細加工機を用いている。最先端技術によって、手間のかかった高級時計製造を思わせるディテールを与えるというのは、手作業とは違った時計製造技術やノウハウ、そしてユーザーフレンドリーであることへの情熱が必要となってくる。そんなロンジンの姿勢に共感するからこそ、時計愛好家は同ブランドの製品に強く引かれているのだ。
もちろん初めて腕時計を購入する、あるいはなんとなく良い腕時計が欲しいなと思っているユーザーにとっても、本作は良い選択肢になるだろう。特に、レディースの高級腕時計で50万円前後という価格帯での競合はそう多くないことから、これくらいの予算で検討しているユーザーには好適だ。最近は原価高騰や為替の影響も手伝って、海外ブランドの定番レディース向け高級腕時計というと、100万円超えが当たり前といった状況だ。「なんとなく良い腕時計」を探すには、やや高く感じられるのではないだろうか。一方、時計市場にはよりベーシックな価格帯のレディースウォッチもラインナップされているが、「50万円前後の予算で高級腕時計を買いたい」といったニーズに対して、そういったカジュアルなラインが完全に応えてくれるとは言い難い。本作は、その“はざま”を埋めつつ、しっかりとラグジュアリーな要素をも備えるという、ありそうで少ないレディース向け高級腕時計のポジションを担っているのだ。
毎日使いたくなる腕時計
本作は見た目や時計市場でのポジショニングにおけるアドバンテージのみならず、実用面にも優れていた(もっとも、現在各メーカーがラインナップしている現行モデルの多くが実用的と言って良いが)。
直径34mm、厚さ9.2mmと小ぶりなケースは手首によくなじみ、肌あたりも良い。ちなみにロンジンの腕時計は径が大きくても、全長が短く、モデルにもよるが厚みが抑えられているため、手首回り14.7cmの自分であっても、例えば同じ190周年記念モデルの径40mmのモデルでも、着け心地がよいと感じる。
防水性は3気圧と、水仕事や突然のゲリラ豪雨の時には心もとないが、日常的に気を付けて使う分には、不便は感じないだろう。
視認性もよく、強い光源下でも針やインデックスが見にくいといったことはなかった。ドレッシーなスタイルであるため、蓄光塗料は施されていない。
バックルはDバックルで、しっかりと手首をホールドする。新品の革ベルトであったため、写真だと少し手首から浮いてしまっているが、使い続けていくとなじむだろう。この革はマットなアリゲーター製。革ベルトは使い続けていくうちに良い風合いになっていくのが面白く、そんな使い込まれた革は、本作のクラシカルな雰囲気によく合うだろう。コレクションにはメタルブレスレットタイプもバリエーションとして存在しているが、革ベルトのモデルを購入する女性は、ぜひ革のお手入れセットも一緒に用意してほしい。
トランスパレント式のケースバックからのぞくCal.L888.5
もうひとつ、従来多かったレディース向けの高級腕時計とは異なる特徴がある。自動巻きムーブメントを搭載しており、かつそのムーブメントがケースバックからのぞいているのだ。薄く小さなケースを与えやすいなどの理由で、レディース向けの高級腕時計というとクォーツ式が多い中、本作はほかの「ロンジン マスターコレクション」や「ロンジン レジェンドダイバー」などにも搭載される、信頼性の高いCal.L888.5を採用している。
なお、Cal.L888はもともとETA2892A2という、長年さまざまな機械式時計に採用され、その実用性を担ったムーブメントの進化版だ。振動数を落とすことでパワーリザーブ(主ゼンマイの持続時間のこと)を延長させ、さらにシリコン製のヒゲゼンマイとフリースプラングテンプを搭載させているのである。女性向けの小径ケースは男性向けと比べてパワーリザーブが短くなりがちだが、本作は約72時間。さらにシリコン製ヒゲゼンマイであるため磁気にも強く、日常使いに心強い味方となる。
リュウズは小さくはないが、少し引き出しにくいと感じた。とはいえ、使用中に主ゼンマイはよく巻き上がっており、パワーリザーブが約72時間ということも相まって、日常的に愛用するなら、リュウズを使う機会はそう多くないだろう。
価格に対して満足度の高い、“ラグジュアリー”なレディースウォッチ
190周年記念モデルのデザイン、そして作り込まれたディテールを備えつつ、径34mmのケースに18Kローズゴールドキャップをあしらった、新しい「ロンジン マスターコレクション」を着用レビューした。
当初本作を手に取った時は、「また時計愛好家が喜びそうな新作が来たぞ」と思った。しかしレビューしていく中で、腕時計にそこまで詳しくない層にとっても大いに購買意欲をそそられる腕時計であり、とりわけサイズといいデザインといい時計市場でのポジショニングといい、女性に手に取ってほしい1本であると考えを改めた。一度、ショップで実機を見てみて、手首に載せてみてはいかがだろうか。