ボール ウォッチの「ロードマスター M モデル A」を実機レビュー。同社らしい堅牢さに新開発のアラームムーブメントを携えて登場した本作は、使って楽しいフレンドリーなアラームウォッチだ。
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2024年11月23日公開記事]
ハイスペックアラームウォッチ、「ロードマスター M モデル A」誕生!
2024年10月に突然発表された、ボール ウォッチの「ロードマスター M モデル A」。ボール ウォッチらしいタフな外観は、見慣れたロードマスターそのものだが、本作は単なるカラーバリエーションやマイナーチェンジではない。なんと、新開発のアラームムーブメントを搭載しているのだ。
現行ではあまり見なくなったアラームウォッチ。ハイエンドなブランドではまだラインナップにあるが、手の届きやすい価格帯となると、一部のブランドを除いてセカンドハンドマーケットをあたるしかない。そうだとしても、すでに日本国内でのサポートが終了しており、修理の際にスイス本国へ送らなくてはならないモデルも少なくなく、付き合い方に頭を悩ませる。いつかは欲しいアラームウォッチ。ただしそのハードルは案外高い。
そんなハードルを一気に下げてくれたのが、ロードマスター M モデル Aだ。そのムーブメントの開発には、およそ3年もの期間を要したという。決して巨大なマーケットとは言えない機械式時計。その中でもニッチなアラームウォッチの開発に踏み切り、さらにこれだけの年月を掛けるのだから、同社の本気度たるや相当なものであっただろう。
さて前置きが長くなったが、今回はその話題作の実機レビューをお届けしたい。5000Gsの耐衝撃性や100m防水など、同社らしい高レベルな基本スペックを備えつつ、3つのタイムゾーンを同時に表示可能なGMT機能など、多機能性を誇る本作。その魅力はアラームだけではない。
新開発のアラームムーブメントを搭載した「ロードマスター M モデル A」。もちろんボール ウォッチらしく、堅牢性は折り紙付き。自動巻き(Cal.RR7379)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径41mm、厚さ15.2mm)。100m防水。世界限定333本。88万円(税込み)。
多機能性と視認性を両立させるブラックダイアル
ブラックのダイアルは、一見してシンプルながらも複雑な構成を持つ。中心にはアラーム用のマーカーを配したディスク、その外周には赤いGMT針を取り付けた細いリング、そしてそのさらに外側にはインデックスの並ぶリング、最外周のフランジには24時間表記。多機能性を実現しながらも煩雑に見えないのは、複雑機構を有したモデルを多く手掛けるボール ウォッチだからこそのバランス感覚がなせる業だろう。
針とインデックスには、お馴染みの自発光マイクロ・ガスライトが搭載されている。多くの時計で用いられる蓄光塗料は、明るい場所で光を蓄え、それを暗所で解放している。光を放出しきると視認性は失われる。一方で自発光マイクロ・ガスライトは、文字通り自ら光を放っているため、暗所でも光が途中で途切れてしまうことがない。
それぞれの針は、インデックスや目盛りにしっかりと到達している。見た目にピシッとした感じがあって良いが、分針に限っては目盛りを完全に覆い隠してしまっており、時刻の正確な読み取りを妨げている。分針をもう少し細くするか、スケルトン加工をするなどの工夫があれば、より見やすくなっただろう。
ブランドロゴは、ダイアルではなくサファイアクリスタルにプリントされている。恐らく、アラーム設定用のディスクが回転するため、ダイアル上にブランドロゴを収めることができなかったのだろう。通常はあまり気にならないが、斜めから時刻を読み取ろうとした際には、ブランドロゴとミニッツマーカーが重なり、視認性が若干損なわれる。アラームとGMTをディスクではなく針で示すようにすれば解決するかもしれないが、その場合はセンター同軸に5本の針が重なることとなり、厚みの増加は避けられない。そう考えれば、本作の仕様にも合点がいく。
サファイアクリスタルの周囲には、24時間表記のツートンカラーベゼルが配されている。レッドとブラックのセラミックスを組み合わせることで、日中と夜間を直感的に判別しやすくしている。ベゼル上の目盛りにはスーパールミノバが塗布され、暗所でも容易に読み取ることが可能だ。このベゼルは両方向に1時間単位で回転し、フランジの24時間表記やGMT針と組み合わせて、最大3つのタイムゾーンの時刻を同時に表示することができる。ベゼルの操作感には適度な固さを持たされ、不用意に動いてしまうこともないだろう。
904Lステンレススティール製の堅牢な外装
ケースとブレスレットに採用されているのは、スーパーステンレスと称される904Lステンレススティールだ。この素材は、クロムやモリブデン、ニッケル、銅などの含有量を高めた高品質なステンレススティールであり、優れた耐食性や堅牢性、光沢性を備えている。時計の外装に用いるには理想的な素材であるが、その加工には高度な技術を要するため、採用しているブランドは一部に限られている。
本作の外装の仕上げは、全面ヘアラインで統一されている。筋目はかなり細かく施されているため、しっとりとした輝きが上品さを感じさせる。ケースのエッジはしっかりと立たせつつ、ブレスレットのエッジを面取りによって和らげることで、メリハリの効いた造形が生み出されている。
ケースとブレスレットは一体になるようデザインされ、ラグ側面からネジによって結合されている。ブレスレットはH型のコマによって構成され、可動域も大きい。バックルは両開き式だ。閉じる時はパチンと押し込み、開く時はプッシュボタンを用いる。微調整機構はないものの、取り外し可能なコマには、半コマも用意されているため、手首回りぴったりに合わせやすいはずだ。
ケースバックはシースルー、かつねじ込み式である。そのため、ムーブメントの鑑賞性と防水性を十分に備えている。アラームムーブメントの中には、裏蓋の内側に生えたピンをハンマーで叩く方式も存在するが、その場合はシースルーにもねじ込み式にもできない。本作はムーブメント外周のゴングをハンマーで叩く方式を取っているため、そのような制約がない。
ふたつのリュウズで操作するアラーム&GMT機能
本作には、2時位置と4時位置のふたつのねじ込み式リュウズが備わっている。2時位置が時刻調整用であり、ねじ込みを解除した段階で主ゼンマイの巻上げ、1段引きで日付のクイックチェンジとGMT針の調整、2段引きで時分針の調整を行うことができる。時針を単独で動かすことはできない。
4時位置のリュウズはアラーム用だ。こちらはねじ込みを解除した状態でアラーム用のゼンマイを巻き上げることができる。しばらく巻き上げてみたが、巻き止まりはないようだ。1段引きでアラーム設定用のディスクを反時計回りに回転させることが可能であり、アラームを鳴らしたい時間に合わせれば、セット完了である。その際、リュウズを押し込んでしまうとアラームがオフになるので注意したい。防水性が気になるかもしれないが、アラームオンの状態でも30m防水が確保されているとのことだ。
あとはセットした時間になれば、ハンマーが激しくゴングを叩き、ユーザーに知らせてくれる。シースルーバックから鑑賞できるアラームの作動は、まさに圧巻。なお、音についてはボール ウォッチの公式ホームページで視聴することができるため、気になる方はぜひそちらをチェックしていただきたい。なお、防水時計でありながらも音はクリアに聞こえる。公式の説明によると、ダイアルのフランジに12カ所のノッチを設け、通音性を高めているとのことだ。
リュウズの操作は明快で使いやすいが、ふたつのうちどちらが時刻調整用でどちらがアラーム用であるかが分からなくなってしまうこともあった。アラーム用のリュウズには、トップにベルのマークを刻印するなど、視覚的に判別しやすい工夫があれば、さらに使いやすかっただろう。
心地よい装着感を実現する低重心な設計
実際に手首に装着してみると、意外にも装着感が優れていることに驚く。意外というのは失礼かもしれないが、約15mmの厚みを持ったステンレススティールケースのスポーツウォッチとなれば、ヘッドの重量も重くなり、一般的に装着感は損なわれやすい。本作では裏蓋が薄く重心が低いことと、ブレスレットのコマに厚みを持たせていることで、重量バランスが良好に保たれているのだろう。長時間着用していても腕への負担を感じさせない。
視認性に関しては、先述した通りサファイアクリスタルにプリントされたブランドロゴが若干気になるものの、インデックスや針とブラックのダイアルとのコントラストが高く、非常に優れている。
日常のワンシーンにアナログな温かみを
本来繊細なアラームウォッチながら、ボール ウォッチらしいタフなスペックを備えた、まさに“使える鳴り物時計”である本作。税込み88万円という戦略的な価格設定も魅力だ。
本作に宿る温かみは、決して無機質な電子アラームでは味わえない。機械式アラームは、日常を少し豊かにしてくれるアイテムなのだ。商業的な勝機がどの程度あるのか、筆者には想像できないが、そんなアラームウォッチの新規開発に踏み切ったボール ウォッチの英断に拍手を送りたい。
本作のアラームは、構造上何時何分ぴったりに設定することはできない。これを不便と取るべきだろうか。筆者の考えは逆だ。そのアバウトさは、ゆったりとした時間の流れを楽しむためのひとつの機能である。叶うならば、スマホを置いてこれ1本を腕に自由気ままな旅に出てみたい。電子の世界から解放され、ゴングを叩く金属質な音で目を覚ますことができたなら、どれだけ清々しい朝を迎えられるのだろうか。