モータージャーナリストの山田弘樹氏が、カシオ時計事業50周年の記念モデルにあたるオシアナス「OCW-SG1000ZE」を着用レビュー。タイ出張の相棒として着用した山田氏が感じた、本機開発陣の「『0から1』を生み出すエネルギー」とは?
Photographs & Text by Hiroki Yamada
[2024年12月10日公開記事]
モータージャーナリストが、オシアナスを着用レビュー!
時計専門誌『クロノス日本版』編集部から、とても魅力的なオファーを受けた。カシオ オシアナス「OCW-SG1000ZE」のインプレッションだ。
タフソーラー。フル充電時約18カ月駆動(パワーセーブ時)。Tiケース(直径43mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。世界限定350本。55万円(税込み)。公式ホームページでは完売。
もうあとひと月足らずで2024年は終わってしまうけれど、今年はカシオが時計事業に参入してから50周年という節目の年。そしてオシアナス「OCW-SG1000ZE」は、これを記念する“Zero to One”シリーズのうちのひとつだという。ちなみにこのシリーズのラインナップは2月に復刻されたカシオトロンに始まり、G-SHOCK、エディフィス、BABY-G、プロトレック、そして今回試着するオシアナスの6種類で展開される。
毎度のことながら厳重に梱包されて送られてきたインプレッション用の時計が入った箱を、ワクワクしながらも丁寧にゆっくりと開けて行く。中から出てきたのは、漆黒のイケメン時計だった。
第一印象、そこから変わった見る目
ただ手に取って眺めたその第一印象は、正直あまりポジティブなものではなかった。
漆黒のボディにゴールドの針や、各種インジケーターのトリミングは、「0から1」を生み出すものづくりの精神を表現して与えられたカラーリングだ。とはいえそれにしても、パッと見かなり派手である。
極めつけはダイアルをくり抜いた向こう側に見える日車で、これがブルーとパープルのグラデーションとなっている。そこに光が当たると、12時位置のアワーマーカーやオシアナスの波をモチーフとしたブランドマークとともに、なんともミステリアスな雰囲気を醸し出す。
その強烈なファーストインパクトに突き動かされ、ようやく資料にじっくり目を通すと、しかしそのすべてに理由があることにまず感心させられた。
そして、55万円という価格にも軽い衝撃を受けた。
人間とはまさに現金なもので、相手がそれだけの格式の持ち主だとわかると、見る目がガラリと変わる。そしてこの時計が内包する技術やつくりの良さを、謎解きのようにひとつひとつ理解していくほどに、筆者はすっかりオシアナス「OCW-SG1000ZE」のファンになっていた。
OCW-SG1000ZEの魅力はサファイアクリスタル製ベゼル
この時計でまず何より魅力的なのは、宝石のようにファセットカットされた、きらめく多面体のベゼルだ。
1ブロック4面×12時間分。つまり48面体のカットが与えられたベゼルはその硬質ながらも滑かな風合いから最初、流行りのセラミックス製かと思ったが、なんとサファイアクリスタルの削り出しだという。さらにその完成には、48面すべてに3回の磨き工程を必要とするのだという。なるほどその価格と、350本という限られた生産本数も納得である。
さらにベゼルの表面はブラック蒸着だが、内壁は青くスパッタリング着色されているから、横から光を当てると確かに青黒く光るのだ。なるほど日車にも併せて深淵なグラデーションを施したのは、オシアナスが持つ深海のイメージに由来するのだろう。
とにもかくにもこの蒼く光るベゼル外周12角、総角48面体のベゼルは、オシアナス「OCW-SG1000ZE」の絶対的な“顔”となっている。そしてこの美しさと強いインパクトは、お世辞抜きに世のプレミアム・オクタゴン系ベゼルを持つライバルたちにも負けないカシオのオリジナリティーだと感じた。時計好きとしては、こういうオンリーワンが欲しいのだ。
手首に載せて、使ってインプレッション
さて、本機を手首に載せた印象だが、DLCコートが施されたチタン製のボディとブレスレットは極めて軽い。筆者はチタン製の機械式時計に軽さは認めつつも、なかなかフィット感を得られた試しがないのだが、本機にそれを感じないのは、正しくこれがクォーツだからだろう。機械式ムーブメントでは得られないヘッドの軽さで、腕振り時のイナーシャ(慣性力)がすこぶる小さいのだ。
ブレスレットのクリアランスは、さほど詰められていない。どちらかといえばねじり方向に柔軟に動くタイプだが、ヘッドの軽さがブレスレットのよれを抑えてフィット感を高めている。ライトウェイトスポーツカーと同じく、99gという軽さは正義だ。
惜しいのは、バックルの調整シロが全くないことだ。ブレスレットには微調整用だろう半分サイズのコマが装着されてはいるものの、筆者の手首周り(18.3cm)だと「帯に短し、たすきに長し」であった。結局手首回りよりも、やや余裕を持たせてブレスレットを合わせる必要があり、そこでフィット感が損なわれるのは、超高級ラインとしてはちょっと残念だ。
ブリッジの役目を果たす大ぶりのインデックスのおかげで、視認性は良好だ。暗闇ではカレンダーおよびモードを示すインダイアルやワールドタイム計のせいで2・3・4時、7・8時位置の蓄光塗料が欠けてしまうのだが、そのアシンメトリック具合も見方によっては芸術的で、ハイラインな本機のデザインとしてはアリだと思う。
また、8時位置のモード切り替えボタンで選べる操作が、通常のカレンダー、ストップウォッチ、電池残量(H・M・Lの3段階表示。このモードを選んだ後は自動的にカレンダーモードに針が帰零)の3つに絞られているのもシンプルで使いやすい。
個人的に好きなのは、3時位置のワールドタイム計を利用したストップウォッチだ。いわゆる12時間・60分積算計が一緒になっているから、時間の経過を直感的に把握できる。
ちなみにワールドタイムは、Bluetoothでスマートフォンと接続し、ダウンロードした「CASIO WATCHES」というアプリから選択することで、簡単に設定可能だ。ホームタイムとワールドタイムの時間の入れ替えも、2時位置のボタンを3秒押すだけでアッという間に済ませられる。
今回はタイにあるミシュランタイヤの最新施設「ラム・チャバン工場」に訪れる相棒として本機を選んだ。その時差は2時間ほどだから昼夜の逆転はなかったが、ワールドタイム計には午前と午後を可視化するP/Aインジケーターが隣設されているのも気が利いている。対してメインダイアル用には10時位置に24時間計が用意されているけれど、これは昼夜が直感的に捉えにくく、同じP/A方式でよいと感じた。
新開発のソーラーセル
さて本機のメインディッシュといえば、なんといってもJAXA(宇宙航空研究開発機構)の太陽電池でも使われている技術を応用した、「ガリウムタフソーラー」だ。このソーラーセルは、オシアナスの守備範囲である海を飛び越え、宇宙にまで思いをはせられる高効率充電機構である。
その主役はブルー・パープルの日車ではなく、その下にある三日月型のソーラーパネル。ここにシリコン系太陽電池と比較して、同じ面積で約2~5倍の充電効率を誇る「ガリウム」を用いた。
この太陽電池を製作するのは、JAXAが認定した唯一の国内企業「シャープ(SHARP)」だ。そしてカシオはこの技術をタフソーラーに応用するにあたってシャープと共同開発を行い、まずG-SHOCK誕生40周年記念の「G-D001」に搭載した。その時はまだ円状だったガリウムタフソーラーだが、前述の通り、さらにそのサイズは小径化された。その狙いのひとつは、どこまで時計を小型化できるか? という技術的な挑戦だろう。そしてこの努力は副次的にレアメタルであり高価なガリウムの使用量を減らし、デザインにも自由度を与えた。
ただちょっと攻めすぎた部分もあるのだろうか、筆者の使用環境ではこれがなかなか満充電にはならなかった。
編集部から本機が送られてきた時は、充電状況がアプリ上の確認で1/5目盛りとなっており、そのまま使ってどこまで充電するかを興味深く確かめてみた。晴天に恵まれた3日間をバンコクからパタヤまで自動車で移動しながら、工場見学を2日続け、インドア・アウトドアともに満遍なく使ってみたが、SOC(電池残量)は半分までしか回復しなかった。
とはいえ電欠の心配はまったくなかったし、カシオいわく満充電ではなくとも十分機能するとのこと。もしフル充電にしたい場合は、1週間程度光に当て続ける必要があるという。
ちなみに自動車の場合ハイブリッド車などは、ピュアEVに比べてバッテリー容量が小さい。よって回生ブレーキ(アクセルをオフ時に、モーターの逆回転抵抗で充電しながらブレーキを効かせる技術)もバッテリー満充電時には実質効かせないなど、実に細かな調整が入る場合があるわけだが、もしかしたらガリウムタフソーラーにおいても、そうしたSOCの調整が行われているのかもしれない。
こうした制御のこだわりについても、いつかカシオのエンジニアと話をしてみたいものだ。
「0から1」を生み出すエネルギーを持ったカシオの力作
総じてオシアナス「OCW-SG1000ZE」は、55万円という価格にふさわしい質感とルックスを備えたモデルだと素直に思えた。
最初はあまりの強烈な外観にDLC加工なし、かつシルバーインデックスの廉価バージョンもあれば良いのにと思った。しかしこのブラック×ゴールドの“Zero to Oneルール”があったからこそ、いやそのルールをわずかにはみ出してオシアナスブルーのテイストをも加える度胸が開発陣にあったからこそ、このパッケージングを作り出すことができたのだと分かった。
何度も言うが、本機は力作である。「0から1」を生み出すエネルギーは、それだけのインパクトを持つものなのだと、心から納得した試着だった。