時計専門誌『クロノス日本版』副編集長の鈴木幸也が、A.ランゲ&ゾーネのCEOであるヴィルヘルム・シュミットをインタビュー。誕生30周年を迎えた「ランゲ1」が、ランゲ1たる理由とは?
Photograph by Yu Mitamura
鈴木幸也(本誌):取材・文
Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]
A.ランゲ&ゾーネのCEO、ヴィルヘルム・シュミットをインタビュー
A.ランゲ&ゾーネCEO。1963年、ドイツ生まれ。アーヘン大学で経営学を学んだ後、BPカストロール、BMWを経て、2011年より現職。ブランドの長期的発展を見据え、工場とブティックの拡充を図ったうえで、基幹コレクションの整理を行う。また、既存の顧客だけでなく、30代以下の若い顧客が増えたと腕時計作りに対して自信を見せた。ブランド価値を維持する姿勢は、時計関係者からの評価が高い。
「ランゲ1」誕生30周年を祝して来日したA.ランゲ&ゾーネCEOのヴィルヘルム・シュミットは言う。「ランゲ1は30年前に誕生したモデルですが、デザインは全然変わっていません。ムーブメントは2015年に一度だけ変わりました。ムーブメントを切り替えた理由は、自社製のヒゲゼンマイを搭載したムーブメントを使いたかったからです。それで新型ムーブメントを開発したのです」
ひとつのモデルが誕生してから30年を経て、これだけ変わらないことも珍しい。
「普通、中身のムーブメントを変えると、外側の外装のデザインも変わりますよね。でも私たちはあえてランゲ1の外装デザインをこの30年間変えてこなかったのです。ランゲ1はどこから見ても一目でランゲ1と分からないといけない。それこそが、ランゲ1がランゲ1たる理由なのです」
2024年に誕生30周年を迎えた「ランゲ1」。一目でブランドとモデルを認識できるアウトサイズデイトと、アシンメトリーな構成の文字盤が特徴。現行モデルは、2015年に新型ムーブメントを搭載してリニューアルされたもの。手巻き(Cal.L121.1)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWGケース(直径38.5mm、厚さ9.8mm)。30気圧防水。610万5000円(税込み)。
CEOが、個人的に大事な3つのモデル
この30年を振り返った時、CEOとしてブランドにとって大事なモデルを3つ挙げるとしたら、それは何か?
「個人的なことを言うと、『ダトグラフ・アップ/ダウン』が腕に着けた時のフィット感が非常に良いと思っています。実はダトグラフ・アップ/ダウンは、私がこの会社に勤務して、最初に手掛けた企画だったので、個人的な思い入れもあって、すんなり挙げることができました。さらに、もう1モデル挙げるとするならば、それは『グランド・コンプリケーション』です。これは、スイス製の時計ではなく、ドイツ製の時計として最も複雑な時計だからです」
そして、迷いながらも最後のひとつとして挙げたのが「オデュッセウス」だ。「新しいデザインを既存のコレクションの中に導入していくということは、とても難しいことです。しかも、すでに市場にあるものと似ていてはいけないのです」
オデュッセウスは、まったく新しいモデルなのにブランドのコアコレクションとして瞬く間に市場に受け入れられましたね。
「いえ、そうだとは思っていません。オデュッセウスは、ちょうど5年前の〝今日〞発表しています。すなわち、オデュッセウスは誕生してからまだ5年しか経っていないのです。むしろ『ツァイトヴェルク』のほうが確立されたコレクションだと思います。2009年の誕生から2024年で15年を迎えましたから。そういう意味で、ランゲ1やツァイトヴェルク、そしてダトグラフは、決して他にはないデザインですね。非常に個性的でユニーク。現在は、時計が市場に溢れていますから。その中にあっても一目でどこのブランドのデザインなのかすぐに分かるという意味でも、やはりランゲを体現しているのはこの3つだと思います」