2024年はカシオ計算機にとって時計事業参入50周年にあたるとともに、オシアナスの誕生20周年という節目でもあった。そんな20周年の記念モデルとして登場した「OCW-S7000SG」を着用レビューしている最中、時計愛好家の集いがあったため、彼ら・彼女らに本作を見せてみた。普段、幅広い価格帯の機械式時計を愛でているユーザーらに、本作はどう映ったか? 著者・鶴岡のレビューと併せて紹介する。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka
[2024年12月9日公開記事]
オシアナス「OCW-S7000SG」は江戸切子ベゼルをまとった1本
2024年は、カシオ計算機が時計事業に参入してから50周年という節目の年になる。1974年に同社初の腕時計として登場した「カシオトロン」の復刻からはじまり、“SKY and SEA”や“Zero to One”といった、特別なコンセプトに基づいた限定シリーズをリリースするなど、このアニバーサリーイヤーを祝うさまざまな取り組みがなされていた。
そんな2024年は、オシアナスにとってもひとつの節目となる。2004年に誕生したこのブランドは、今年で20周年を迎えたのだ。前述した“SKY and SEA”と“Zero to One”の2シリーズからも、オシアナスの特別モデルは登場していたが、このシリーズはあくまで「カシオ時計事業50周年」のためのもの。オシアナス20周年を祝う腕時計としては、別途10月に4種のモデルが打ち出されており、そのうちのひとつが今回着用レビューする「OCW-S7000SG」である。
タフソーラー。フル充電時約19カ月駆動(パワーセーブ時)。Tiケース(直径42.8mm、厚さ9.8mm)。10気圧防水。27万5000円(税込み)。公式ホームページでは完売。
本作の最大の特徴は、江戸切子ベゼルだ。カシオはハイエンドラインを中心に、自社の腕時計に日本の伝統工芸技法を取り入れた特別な意匠を取り入れており、オシアナスの江戸切子モデルもそのうちのひとつに当たる。2018年から、東京で江戸切子の製造・販売を行う工房、堀口切子の三代秀石(しゅうせき)・堀口徹による監修の下、江戸切子の技法である「千筋」を、職人が手作業でひとつずつカットしてパターンを入れたベゼルをあしらった特別なオシアナスを発表してきた。
驚かされるのが、この江戸切子ベゼルは硬度の高いサファイアクリスタル製であるということだ。オシアナスは複雑な造形を備えたサファイアクリスタル製ベゼルを有するモデルを定番品でもラインナップしているが、基本的には加工の難しい素材のため、全工程を機械でカットを行う。しかし、同シリーズのサファイアクリスタルベゼルは江戸切子職人の手で最後の切り子模様が入れられているのだ。江戸切子職人によるハンドメイドというだけでも稀少だが、それがより難しいサファイアクリスタルで行われている点は、同作に高いプレミアム感を付与している。
職人技を落とし込むというコンセプトや、その職人技で他社にはない唯一無二の造形を備えた江戸切子ベゼルはブランド20周年を祝うのにふさわしい。このベゼルカラーに合わせて、針や9時位置のインダイアルの外周も、グリーンで彩られている。
ちなみに、小誌『クロノス日本版』編集長の広田雅将がパーソナリティーを務める「BEST ISHIDA presents クロノス日本版 Tick Tock Talk♪」というラジオ番組が毎週土曜日25時から、TOKYO FMで放映されている。そのゲストとして登場してもらった、お笑いコンビTake2の東貴博が、番組のアフタートークでオシアナスの江戸切子モデルを「欲しい腕時計」として挙げていた。ただ、数量限定ということもあり、過去のモデルを入手するのが難しい。今回着用レビューするOCW-S7000SGも、すでに公式ホームページでは完売しているが、まだ一部店舗に在庫が残っている可能性もあるとのことなので、興味がある欲しい人は店頭在庫を探してほしい。
特別感あふれる江戸切子ベゼル
すでにオシアナスは何度か着用レビューさせてもらっている。この「Manta S7000」シリーズも、2024年1月に発売された「OCW-S7000D」でレビュー(https://www.webchronos.net/features/106544/)した。だから、すべてではないものの、オシアナスの美点は理解しているつもりである。それでも、このOCW-S7000SGを手にした時、これまでとは違った特別感を覚えた。
この特別感は、やはり江戸切子ベゼルによるものだろう。暗めのグリーン蒸着が施されたサファイアクリスタル製ベゼルは思ったよりも落ち着いた印象ながら、しっかりと江戸切子のカッティングが施されており、他社はもちろん、カシオ製品でもほかにはない独創性を感じられる。ひとくちに江戸切子モデルと言っても、パターンが表現しているものはモデルによって異なり、本作では「海原を力強く進む船の航跡」を表現しているのだという。
両面に切り目を切れることで、奥行きも生み出されている。なお、このベゼルは光の当たる角度が変わると少し青みを見せる。ギリシャ神話に登場する海の神「オケアノス」をネーミングの由来とするこのブランドの、コンセプトカラーである「オシアナスブルー」も楽しめるというわけだ。
腕時計の風防以外にサファイアクリスタルを使う手法は、他の時計ブランドでも行っている。一方でこの素材は前述の通り硬度が高いために加工が難しく、こういった製造コストゆえに、販売価格は高額になりがちだ。しかし本作は、手の込んだ職人技をこの高硬度の素材で表現しつつ、20万円台という価格に抑えている(後述するが、しかもチタンを外装に用いて)のだから、感心させられてしまう。ちなみに以前、オシアナスの50周年記念モデルを取材(https://www.webchronos.net/features/125306/)した際、オシアナスのサファイアクリスタルを手掛ける国内メーカーの話を聞いた。開発陣側の難しい提案にも、ポジティブに協力してくれるサプライヤーとのことで、そんな協力者がいるからこそ、この価格で凝ったサファイアクリスタルベゼルを顧客に提供できるのだろう。
掛け値なしに良い実用腕時計
すでに何度かオシアナスは着用レビューしていると述べた。特にOCW-S7000SGは、ほんのわずかに厚みが異なるものの、今回の江戸切子モデルと外装や機能は同じで、もう本作が、いかに優れた実用腕時計であるかは、何度も記してきた。
本作のケース径は42.8mmと、決して小さくはない。しかし厚みは9.8mmに抑えられていることに加えて、チタン製であるがゆえに軽量(ホームページでの総重量は81g、私の手首回り14.7cmに合わせてコマを外した状態では70g)なため、極めて快適な装着感を実現している。全長47.5mmと、大きすぎず私の手首幅に収まることや、ブレスレットのコマ同士の遊びが適切なことも相まって、装着後、すぐに手首になじんだ。
また、このチタンで出来たケースとブレスレットは複雑な造形を持ちながらも角は丸められており、触って指が痛くなるということはない。しっかりと作られている証しである。
カシオウォッチのデザインにおける進化と挑戦を語る際、CMFという用語が出てくる。「C」=「カラー」「M」=「マテリアル」「F」=「フィニッシュ」を意味しており、この3つの要素を追求した製品開発を行っている。本作を見ていると、色、素材、仕上げ、すべてにおいて高品質な出来映えとなっており、このCMFを、そしてCMFに掛けるオシアナス開発陣の情熱を感じ取ることができるのだ。
優れた装着感と、着用を続けていて疲れないというのは、実用腕時計として優秀な要素であり、その点をクリアした本作は、掛け値なしに良い実用腕時計と言える。
もちろんソーラー電波ウォッチのため、標準電波が受信できる地域では常に正確な時刻表示をしてくれたり、スマートフォンに専用アプリ「CASIO WATCHES」をダウンロードすれば、Bluetoothで接続して、スマートフォン上でのワールドタイムをはじめとした(ワールドタイムを使う機会は私にはなかったが)各種設定を行えたりすることなども、本作の優れた実用性として挙げられる。
江戸切子モデルを時計オフ会に持っていってみた!
何度も着用レビューしているがゆえ、「装着感が良い」とか「つくりが良い」とか、同じことばかりに言及してしまう(本当に、このふたつがオシアナスの最たる美点だと思っているために)。そこで今回、着用中に、Twitter(現X)で知り合った時計愛好家7人とのオフ会が開催されたため、本作を持っていき、彼ら・彼女らの意見を募ってみた。なお、この7人の所有する腕時計は機械式がメイン。価格も数万円〜100万円超と、幅広い。
まず、軽さと薄さに驚き!
一様に驚かれたのが、その軽さと薄さだ。本作が光発電クォーツ式腕時計であるがゆえだろう。もちろん機械式時計にもチタン製モデルはあるし、ブルガリの「オクト フィニッシモ」など、驚かされるような薄さの自動巻きモデルなども存在する。しかし、ブレスレットモデルでこれだけの軽さ・薄さを両立しているというのは、稀有な存在だ。まず、この話題でひとしきり盛り上がった。
また、興味深かったのが、女性の時計愛好家であるK氏からの反応だ。オシアナスは男性がターゲットだと思うものの、女性である私にとっては着け心地がよく、真剣に購入候補にしている。だから、同じく女性であり、さらに私よりも手首回りの細い(手首だけじゃないけど)K氏の反応が上々であったことが、うれしかった。
「すごく軽いし、手首の幅からはみ出さない。キラキラしているのも良い。あと、バックルが長すぎないのが、私はうれしいんですよね」
この「バックルが長すぎない」というのは、盲点だった。時計のケースが手首幅より大きすぎない方が良い、というのは、webChronosでも編集部や別のライターが言及しているが、確かにバックルもあまりに長いと、装着感を大きく左右する。おまけに本作はバックルも薄いので、デスクワークの時も邪魔にならない。
外装の出来映えと価格設定にも驚き
外装のつくりが良い、という点でも、盛り上がった。複雑な造形や、その造形から醸し出される立体感、そして、この造形をチタンで作り上げつつ、江戸切子のサファイアクリスタル製ベゼルを備えてこの価格(税込みで27万5000円)ということに、私と同じく、感心させられたようだ。普段、高く作り込まれ、価格もその分高くなった機械式時計を愛用しているからこそ、本作のいわゆる「コスパの良さ」に、驚かされるのだろう。
また、時計師のA氏は、時計師ならではの視点での感想をくれた。「ブレスレットの裏側の処理がすごいですよね。あと、このコマって、ひとつにつき4つのパーツで構成されてて。真ん中のコマが溶接と思いきや、別体となっているだけでも手が混んでいるのに、その噛み合わせも良くて。思うにシャープなデザインのために、あえてパーツを分けたのかなと」。うーん、さすが時計師ならではのコメントだ。
そのほかでは「ワールドタイム用の都市名が記された文字盤のフランジ部分に、あえて角度を付けているのが良い」「文字盤がすごい、ソーラーウォッチと思えない」「プッシュボタンも薄いから、サイドの薄さがよく分かる」などの声をもらった。
機能面では分かりにくさも
外装に関してはポジティブな反応ばかりだった本作。しかし、機能面では分かりにくさもあったようだ。
まず、インダイアルが多くて、どれがどの表示だか説明するのに、自分自身も苦労した。本作のメイン機能はローカルタイムの時刻表示のほか、ワールドタイムとストップウォッチが搭載されていることがポイントだ。リュウズを引いて、Aボタンを押すことでモード切り替えを行い、このモードに合わせて表示の役割が変わることを説明したところ、納得してもらえたが、今回の機械式時計愛好家には「ノンデイト最高」といった、ミニマルを愛する人々が多かったこともあり、「何を表示しているのか分からない」といった反応だった。
ただ、面白かったのが前述した時計師・A氏の話。彼の友人がオシアナスを所有しており、モバイルリンク機能のユニークな使い方を教えてくれた。
オシアナスには、Bluetooth通信によって、スマートフォンとリンクできる機能が搭載されている。専用アプリ「CASIO WATCHES」をダウンロードすることで、このスマートフォン上でモード切り替えやワールドタイム設定、自動時刻修正などができ、取扱説明書を見ながら時計で操作するよりも、容易に各種設定が行える便利な機能だ。このアプリ上で、「時計の名前」を設定できる。A氏の友人は、この名前を“推しキャラ”の名前にすることで、アプリの通知で“推し”から連絡が来たような感覚や、推しが側にいるような雰囲気を味わうというのだ。「実用性」とはまた違うものの、私も帰宅後、所有するフルメタルG-SHOCK「GMW-B5000D」でやってみた。
機械式時計愛好家も納得のオシアナス 江戸切子モデル!
オシアナスの20周年記念モデルとして打ち出された、江戸切子ベゼルを備える「OCW-S7000SG」を着用レビューしたうえで、さらに時計オフ会にも持っていって、意見を募った。このオフ会では総じて外装面での評価がとても高く、改めてオシアナス製品の美点を理解したレビュー期間だった。
ちなみにオフ会で、S氏が「仕事の人のための腕時計であり、働く人のための腕時計だと思う。G-SHOCK含めて、カシオウォッチ全般に言える」と述べた。確かに本作は、江戸切子ベゼルという特別な意匠を備えつつも、毎日を頑張って働くユーザーに寄り添う製品だと思う。仕事中に着用する腕時計を探しているなら、初めて腕時計を購入するユーザーも、すでに何本か所有しているユーザーも、一度オシアナスをお試しあれ!