賛否両論あるものの、 自らの道を貫く。A.ランゲ&ゾーネの2024年発表モデルを振り返り

2024.12.27

時計専門誌『クロノス日本版』編集部が取材した、時計業界の新作見本市ウォッチズ&ワンダーズ2024。「外装革命」として特集した本誌でのこの取材記事を、webChronosに転載する。今回は「ダトグラフ」25周年を迎えて、コスメティックチェンジながら、非凡な完成度の2作を発表したA.ランゲ&ゾーネを取り上げる。

奥田高文、三田村優:写真 Photographs by Takafumi Okuda, Yu Mitamura
鈴木裕之、広田雅将(本誌):取材・文 Text by Hiroyuki Suzuki, Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Chronos Japan Edition(Yukiya Suzuki, Yuto Hosoda)
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]


A.ランゲ&ゾーネの2024年発表モデルを振り返り

A.ランゲ&ゾーネ

(左)A.ランゲ&ゾーネ「ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”」
こちらは全部のせ。サファイアクリスタル製の文字盤を保持するため、パワーリザーブ表示が省かれている。あえてグリーンに発光するC1を選んだのは、白く発光するグレードだと輝度が高すぎるから。価格はさておき、完成度は圧倒的だ。手巻き(Cal.L952.4)。57石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。18Kハニーゴールドケース(直径41.5mm、厚さ14.6mm)。3気圧防水。世界限定50本。要価格問い合わせ。
(右)A.ランゲ&ゾーネ「ダトグラフ・アップ/ダウン」
ティノ・ボーベが言う「初めて手に取る人にとって、最も好ましい組み合わせ」を実現した新作。レギュラーでおかしくない完成度を持つが、あくまで限定版。あえてケースにPtを選ばなかったのは、初めての人には重いという判断からか。手巻き(Cal.L951.6)。46石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWGケース(直径41mm、厚さ13.1mm)。3気圧防水。世界限定125本。要価格問い合わせ。

 2024年は「ダトグラフ」の発表から25周年に当たる。さぞやすごい記念モデルが出るのでは、と予想していたが、お披露目されたのはコスメティックチェンジの2作のみだった。ティノ・ボーベは率直に語る。「新しいモデルも作れなくはなかった。でも、顧客を待たせる中で新作を作るのはどうかと考えた。それに高い完成度を持つ時計に手を加える理由が見当たらなかった」。もっとも、A. ランゲ&ゾーネは注意深くふたつのモデルを選んだ。ハニーゴールドケースを持つ“ルーメン”はいわばダトグラフの“全部のせ”、そしてブルーカラーの「ダトグラフ・アップ/ダウン」は、初のダトグラフユーザーには最も好ましい組み合わせだろう。

 正直、今年の方向性は筆者の好みとは全く異なる。しかし、明確な理由があってあえてコスメティックチェンジに留めるあたりが、A.ランゲ&ゾーネたる所以なのかもしれない。もちろんいずれの完成度も非凡だ。


アントニー・デ・ハスをインタビュー

 A.ランゲ&ゾーネにとって、2024年はふたつのアニバーサリーが重なる年だ。ひとつは1994年のブランド復活と同時に登場した「ランゲ1」の30周年、そしてもうひとつが1999年に発表された「ダトグラフ」の25周年だ。前者は10月に大々的なセレモニーが予定されているというから、今年のW&WGはダトグラフイヤーということになる。同社の新作発表は例年寡作で、昨年は1本のみだったが、今年は2本のダトグラフがお披露目された。前年比200%の新作数だ。

[A.ランゲ&ゾーネ/商品開発ディレクター]Anthony de Haas(アントニー・デ・ハス)
1967年、オランダ生まれ。スイスの時計学校を卒業後、セイコーオランダに入社。1997年に入社したIWCでアフターサービスを担当した後、2002年、ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)に入社。A.ランゲ&ゾーネに招聘され、2004年に入社。2005年以降、同社のすべての製品の開発を統括する。そのモットーは「過去の焼き直しはしないこと」と言う。

 まずは「ダトグラフ・アップ/ダウン」のリミテッドモデル。メカニズムの基本は、2012年に発表された約60時間パワーリザーブのCal.L951.6を搭載するが、ケースに18KWGを採用するのは今回が初の試み。ダイアルはブルーが組み合わされている。配布されたメディアリリースでも「現代に至るまで、トップクラスのクロノグラフを設計・製造することは、精密時計製作における最大の課題」とコメントする商品開発ディレクターのアントニー・デ・ハスは、次のように語った。

「アップ/ダウンに関しては、特に何も手を加えていません。その必要はありませんからね。ダイアルの色味も“アワーブルー(私たちの青)”と呼んでいる、古くから使い続けてきたPVD加工によるものです。あまり鮮やかな色ではありませんが、エレガンスとは少し控えめなものです。我々が求めているのはタイムレスであることです」

 一方、「ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド 〝ルーメン〞」は、過去最長となったモデル名が示すように、ダトグラフ史を彩ってきたバリエーションモデルを1本に凝縮させたような内容だ。興味深いことに、ダイアル外周部に存在していた、ディスク式のパワーリザーブインジケーターが姿を消している。

「過去の18KWGケースやPtケースでは、メタル製ダイアルを採用していましたから、9時と12時にサポート材を設けるだけで十分な強度が確保できました。しかしルーメンではサファイアガラス製ダイアルを用いるため、ダイアル外周部の全体を保持するようなサポート材に変更しています。これは通常のQPモジュールにもあるプレートですが、パワーリザーブインジケーターと両立させることはできません。例えば裏側に移設するというようなことも検討したのですが、全体的なバランスを考慮して白紙にしました。こうした調整は時計全体に及びます。例えばルーメンを構成するC1グレードのスーパールミノバの発光色がグリーンなのは、輝度が高すぎないようにするため。キャリッジが収まる部分の地板にペルラージュを打たず、ブラスト仕上げとしたのも審美性のためです。ペルラージュにはvキズ隠し”の意味もありますから、こちらのほうが難易度は高いのです」

 とはいえ今回のダトグラフはあくまでもエクステンションだ。本当の“隠し球”は10月を待たなければならない。


Contact info:A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845


オニキスダイアルでプラチナケース、購入を悩むファンが続出しそうな「ランゲ1」誕生30周年を記念した4つの限定モデル

NEWS

極上の仕上がりを達成した A.ランゲ&ゾーネ「ダトグラフ・ハンドヴェルクスクンスト」限定エディション

NEWS

「一目でランゲ1だと分かること。それがランゲ1たる理由」。A.ランゲ&ゾーネのCEOをインタビュー

FEATURES