エドックスの「クロノオフショア1 」最新モデルは、もったいぶらずに使いたいダイバーズウォッチだ!【着用レビュー】

2025.01.16

モータージャーナリストの山田弘樹氏が、エドックスの2024年発表モデルである「クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック」を着用レビュー。本機のコンセプトやディテールを解説しつつ、「クロノオフショア1」そのものの魅力をひもといていく。

エドックス クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック

山田弘樹:写真・文
Photographs & Text by Kouki Yamada
[2025年1月16日公開記事]


「冒険者のための」プロスペックダイバーズウォッチ

 エドックスのハイスペックシリーズ「クロノオフショア1」。パワーボートレースの世界観を、高い機能性と優雅なデザインで表現する同社の花形モデルであり、筆者は2024年7月にwebChronosで「クロノオフショア1 クロノグラフ ジャパン リミテッド エディション」をインプレッション(https://www.webchronos.net/features/119146/)した。

 そしてうれしいことに今回も、同シリーズのインプレッションを担当できることとなった。前回との大きな違いは本機がクロノオフショア1のスタンダードなカタログモデルであり、中身が自動巻きの機械式ムーブメントだということだ。

エドックス クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック

エドックス「クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック」Ref.01128-3NOCA-BUIDN
自動巻き(Cal.EDOX011/セリタSW500ベース)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径45mm、厚さ16mm)。500m防水。63万8000円(税込み)。

 ところで現行クロノオフショア1はこのモデルから、「冒険者のための」プロスペックダイバーズウォッチを改めて名乗った。優美なパワーボートレースのイメージに加え、プロユース・ツールウォッチとしてのイメージを高めようとしているのだ。

 その最も象徴的な機能が、ボディ9時位置の側面に装着されたブランド初のベゼルロックである。この機能は潜水時におけるベゼルの、正方向への不意な回転を防ぐ機能であり、逆回転防止ベゼルと併せて使用することで、完全にベゼルが固定される。

エドックス クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック

ボディサイド9時位置に搭載されているベゼルロック機能。12時方向にスライドさせることでベゼルが固定される仕様である。この状態から6時方向にスライドするとロックが解除される。解除されたベゼルは、通常の逆回転防止ベゼルとして機能する。

 ロックシステムは大ぶりで操作性が良く、これを10時位置にある飽和潜水用のオートヘリウムエスケープバルブ側にスライドさせると、カチッという明瞭な手応えとともに、8時位置に「LOCK」の文字が表れてベゼルを固定する。50気圧の防水性からも分かる通り、この機能は到底筆者のような一般人には関係ないが、だからこそこうしたハイスペックを手首に載せると気分が上がるのは、みなさんご承知の通りだ。そして装着時に視認性を高めるオレンジ(もしくはレッド)のカラーリングも、普段使いにカジュアルさを与えてくれる。


ディテールをレビュー

 もう少し本体を眺めよう。

 ケースは直径45mm、厚みは16mmとゴツくて大きめ。素材は医療器具にも採用されるという316Lステンレススティールで、向かってケース左側には前述したオートヘリウムエスケープバルブ、そして右側にはクロノグラフのプッシャーおよびリュウズがねじ込み式で装着されている。そして風防には、厚さ3mmのサファイアクリスタルガラスが採用されている。

エドックス クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック

ケースに合わせて大振りに設計されたリュウズ、ブッシャー、ベゼルロック機能は操作しやすく、いかにもツールウォッチといった様相だ。

 ダイビング用の目盛りが刻まれるベゼルは、高硬度なハイテクセラミックス製。ボディの素材によって共振度合いが違うのか、これを回した操作感はチタンボディの“ジャパン リミテッド エディション”よりもやや落ち着いていたが、基本的にはカチカチと軽く回るタイプだ。これは好みの問題だが、そこにもう少し、音で言えば“チキチキチキ……”といった目の細かさや緻密さを与えられると、高級感がグッと増すと思う。スポーツカーで言えばブレーキのタッチや、ハンドリングの初期操舵感といったところか。ベゼルを回したときの質感は、ダイバーズウォッチの顔として大きな役割を担っていると筆者は考えている。

エドックス クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック

外周に向かってブルーの濃淡が変化するグラデーション仕様のダイアル。この見返しの部分には、タキメーターがあしらわれている。

 ブルーが爽やかなラッカーダイアルはフチに向かうに従いそのグラデーションが色濃くなり、スーパールミノバのアワーマーカーを囲むシルバートリムが、深淵に光りを添える。アラビア数字「1」の大きなインデックスが、クロノオフショア1のトレードマークとして、その存在感を力強く示しているのはこれまで通りだ。

 クロノグラフの配列は12時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計を配置。9時位置のスモールセコンドにサークルのトリムがないのも、よく考えられている。なぜならこのスモールセコンドの仕様によってふたつの積算計が、より目立って視認性が高まるからだ。そして3時位置には、デイ・デイトの小窓が配置される。

 サファイアクリスタルガラスは無反射コーティング加工がなされており、かつ各積算計の針の外周と、クロノグラフ秒針の先端がオレンジに着色されているため、クロノグラフ使用時にその針の位置を素早く捉えることができる。この配色が、ベゼルロック機能とトーンをそろえているあたりもキュートだ。

 スタート/ストップボタンの感触は、パチッとメリハリがある。帰零ボタンはそれよりややスプリング剛性がソフトに感じたけれど、どちらにしても機能重視の触感だ。

エドックス クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック

プッシャーおよびリュウズはねじ込み式で、このねじ込みを解除しないと引き出したり操作したりはできない仕様となっている。

 誤操作を防ぐねじ込み式プッシュボタンとリュウズはややぽってりしており、もう少しエッジが立っていたら、さらに精悍さが増しただろう。スクリューロックを締め込む感覚もちょっと甘めで、実際には締まり切っているのだが、トルクが掛かり切る感触があるとなおいい。

 ちなみにそのリュウズには、エドックスが1965年という早い段階で考案した「ダブル・Oリング」の基本機構が、今なお受け継がれている。


ケースバック側の眺め

エドックス クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック

本機のケースバックはトランスパレント式で、ムーブメントを観賞することができる。歯車やブリッジは5Nガルバニックで処理した融解めっき、ローターにはラッカーを塗布したブラックパラジウム・ニッケル合金のめっき処理がなされている。

 ムーブメントは、ETA7750とも並ぶ縦型3つ目タイプのクロノグラフムーブメント、セリタ製のCal.SW500をベースに仕上げたCal.EDOX011。軸受けは25石と多く、2万8800振動/時の振動数で、約48時間のパワーリザーブを備える。ケースはシースルーバックだから、プレミアム感のあるカッパーカラーの歯車やブリッジ、EDOXのロゴを配したローターの動きが楽しめる。

 針合わせの感触に非凡さはなかったが、針戻しの微調整もしやすく、針飛びせずに時刻合わせができた。極めて実直なユニットだと思う。

エドックス クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック

バックル部分にはペルラージュ装飾が施されている。

 両開きのDバックルを解錠し、さらに小穴側のバックルを開くと、ラバーベルトのサイズの調整は簡単に行える。ふたつの定革・遊革(といってもラバーだが)にゴツ目のベルトを通すのは相変わらず面倒だったが、いったんはめてしまえば意外に手首へのフィット感が高いのも以前インプレッションしたモデルと同じだ。本機は借りている時計だからできないが、ストラップを切って尾錠位置を詰めていけば(調整用シロがあとふたつある)、さらに着け心地を高められるだろう。

 ラバーベルト仕様だけあり、その重量は158g(実測値)と、ゴツめなダイバーズクロノグラフウォッチの割に、ほどよく重さが抑えられている。ステンレススティール製のボディであるがゆえ腕振りの際はヘッドを振られるが、ベルトのラグ側が時計の重量および慣性重量をガッチリと受け止めてくれるから、もちろんピッタリ目もいいが、緩めにはめても装着感は悪くない。そしてゴムにうっすら熱が入ると、着け心地がさらにこなれて行く。


筆者の考える「クロノオフショア1」の魅力

エドックス クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック

筆者の山田弘樹氏によると、写真のクルマはホンダ シビック「RS」。「1.5L直列4気筒ターボはモーターを積まないピュアガソリン仕様で、なんとトランスミッションは6MTのみ! 時計でいうと『手巻き』で勝負! というところでしょうか(笑)。出力は182PS/240Nmと、『タイプR(330PS/420Nm)』よりアンダーパワーですが、サスペンションもほどよくスポーティーでむしろワインディングでは扱いきれる楽しさが魅力。シャシーが魅力的なのは、『クロノオフショア1』と一緒ですね」とのこと。

 なお、この「クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック」は、極地探検プロジェクト「アナンタ・エクスペディション2」を実施する、海洋環境保護を目的とした非営利組織「ウェイク・アース協会」の要請を受けて共同開発されたモデルだ。

 ウェイク・アース協会は当時若干20歳だったティボー・ダシューが設立した組織だが、これに呼応するかのように本機も、全体的な見た目がとても爽やかで若い。

 プロユースならではの大きく見やすいダイアルとボディは威張り感がなく、実にエネルギッシュ。エッジが少々甘めでも、ポリッシュされたねじ込み式リュウズやプッシャー、そしてボディにはその荒さをはねのける輝きがある。これぞ若さだ。

『クロノス日本版』の取材記事(https://www.webchronos.net/features/127530/)いわく、エドックスが本機でISOダイバーズの認定基準を満たさなかったのは、クロノオフショア1の特徴的なデザインを崩したくなかったことと、これに準じることで高騰してしまうコストを抑えるためだったという。であればなおのこと筆者は、このスタンダードモデルにも“ジャパン リミテッド エディション”のようなクォーツモデルを加えて欲しいと思った。クロノグラフダイアルの配列は変わってしまうかもしれないが、このブルーグラデーションとオレンジ針のカラーリングでクォーツがあればとてもいい。

 なぜなら63万8000円(税込み)という、自動巻きクロノグラフとしての本機の価格は、為替を考えれば十分適正なのだが、両モデルを通して筆者はクロノオフショア1で、機械式に強くこだわる理由が感じられなかったからである。むしろ30万円を切る価格帯でオートヘリウムエスケープバルブを持ち、50気圧の防水機能を有するタフなボディが手に入るクォーツモデルに、大きな魅力を感じてしまったと言い換えた方がいいだろう。

 クルマに例えればクロノオフショア1の魅力は、エンジンよりもシャシー性能の高さにある。そのカジュアルかつプロユースのタフさを身に着けて、実際にも、もったいぶらずに使う。前回インプレッションした“ジャパン リミテッド エディション”と同じ結論になってはしまったが、やはりそれが本機の魅力を最大限に引き出す方法であり、ひいては毎日の生活をリフレッシュするきっかけにもなりそうだと強く感じた。


Contact info: ジーエムインターナショナル Tel.03-5828-9080


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