デタッチャブル脱進機は、ユニットごとムーブメントから取り外したうえで、歩度調整を簡便におこなうための装置だったが、それはミーンタイムスクリューがテンワの側面にあったことが大きい。ムーブメントの正面側にマスロットが向く新機構では、“デタッチャブル”の必要性自体が薄れたというわけだ。ひとつのテンワに取り付けられるマスロットは2対4個。アミダの付け根部分への埋め込み構造となっているため、テンワが往復する際の空気抵抗という面でも有利だ。何よりスポーティラグジュアリーの趣きを持った「パイオニア」ならば、クラシカルなチラネジ式よりもキャラクターにマッチしている。
なおHMC 200のテンワには、もうひとつ面白い遊びが施されている。4本のアミダ部分に白いインサート状の“何か”があるのだが、関係者によればこれは“ペイントによる純粋な装飾”とのこと。機能的な新趣向を期待したのだが、タネが分かってみれば、これはこれで“粋な計らい”である。
HMC 200が搭載するヒゲゼンマイは、従来と同様のPE4000製(H.モーザー自社製=プレシジョン・エンジニアリング製のヒゲゼンマイ用素材)だが、同社は今年、非磁性の新素材PE5000も投入している。チタンとニオブを含有したこの素材は、ロレックスのパラクロムに近い特性が予想され、要するにムーブメントの耐磁性を高めることが可能となる。現在のところ「ベンチャー・スモールセコンド XL パラマグネティック」に搭載されるのみだが、将来的にはPE4000を置き換えてゆく見込みとのことである。
機能面でも大きな進化を繰り返す現在のH.モーザー。時代時代でその手法は変わっても、創業者ハインリッヒ・モーザーが示した“進取の気概”はいささかも色褪せていない。時代を牽引するH.モーザーの革新性=開拓者精神は、ますます磨きがかけられてゆくのだ。