H. モーザー「パイオニア・センターセコンド・オートマティック」/ Overview H.Moser & Cie. シャフハウゼンが育んだ進取の気概【第3回】

2017.07.04

ブランド初となるSSケースの展開に合わせて、再設計されたセンターセコンド自動巻きムーブメント「HMC 200」。脱進機周りが完全に再設計され、テンワはチラネジからマスロットによる調整に変更。振動数もよりハイビート化されている。機能とは直接関係ないが、アミダ部分に施された白いペイントは斬新な試み。幅の異なるコート・ド・ジュネーブ装飾を重ねてゆく、“モーザー・ダブルストライプ”も美しい。

 デタッチャブル脱進機は、ユニットごとムーブメントから取り外したうえで、歩度調整を簡便におこなうための装置だったが、それはミーンタイムスクリューがテンワの側面にあったことが大きい。ムーブメントの正面側にマスロットが向く新機構では、“デタッチャブル”の必要性自体が薄れたというわけだ。ひとつのテンワに取り付けられるマスロットは2対4個。アミダの付け根部分への埋め込み構造となっているため、テンワが往復する際の空気抵抗という面でも有利だ。何よりスポーティラグジュアリーの趣きを持った「パイオニア」ならば、クラシカルなチラネジ式よりもキャラクターにマッチしている。

 なおHMC 200のテンワには、もうひとつ面白い遊びが施されている。4本のアミダ部分に白いインサート状の“何か”があるのだが、関係者によればこれは“ペイントによる純粋な装飾”とのこと。機能的な新趣向を期待したのだが、タネが分かってみれば、これはこれで“粋な計らい”である。

 HMC 200が搭載するヒゲゼンマイは、従来と同様のPE4000製(H.モーザー自社製=プレシジョン・エンジニアリング製のヒゲゼンマイ用素材)だが、同社は今年、非磁性の新素材PE5000も投入している。チタンとニオブを含有したこの素材は、ロレックスのパラクロムに近い特性が予想され、要するにムーブメントの耐磁性を高めることが可能となる。現在のところ「ベンチャー・スモールセコンド XL パラマグネティック」に搭載されるのみだが、将来的にはPE4000を置き換えてゆく見込みとのことである。

 機能面でも大きな進化を繰り返す現在のH.モーザー。時代時代でその手法は変わっても、創業者ハインリッヒ・モーザーが示した“進取の気概”はいささかも色褪せていない。時代を牽引するH.モーザーの革新性=開拓者精神は、ますます磨きがかけられてゆくのだ。

「HMC 200」に搭載される新型のテンワ。これは削り出された直後の状態で、まだ素材のベリリウム・カッパーの色が露出している。この後、ロジウムコーティングとアミダ部分のペイントを経て、さらに裏側を削るようにしてバランス調整(片重りの調整)が施されて完成となる。

H.モーザーのテンワは、ベリリウム・カッパーの丸棒から切削で仕上げられる。CNC切削機の前に貼られているのはテンワの仕様書。ホワイトペイントの部分は、機能に無関係なため、図面には描かれていない。


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