今や全モデルが入手困難!  F.P.ジュルヌの 2025 年新作モデルを紹介

2025.04.07

独立時計師のフランソワ-ポール・ジュルヌによって、1999年に創立された時計ブランドがF.P.ジュルヌだ。マイクロブランドであるがゆえに少量生産であることに加えて、世界中の時計愛好家から高い人気を集めており、今やそのすべてのモデルが入手困難な状況である。手に入れられるかどうかは別として、F.P.ジュルヌが手掛ける新たなタイムピースを楽しみにしている時計愛好家は少なくない。本記事では、2025年に打ち出された同ブランドの新作時計について紹介する。

F.P.ジュルヌ「クロノメーター・フルティフ」


2025年新作「クロノメーター・フルティフ」

 筋ジストロフィーの研究支援を行うための支援を募るオンリーウォッチの、2024年に開催された第10回目に出品された「クロノメーター・フルティフ・ブルー」は、世界で初めてタンタル製のケースとブレスレットを採用したモデルとして、時計好事家の注目を浴びた。そして今年、F.P.ジュルヌのライン・スポーツコレクションに新たに加わったモデルが、タングステンカーバイトを採用した「クロノメーター・フルティフ」だ。

クロノメーター・フルティフ

F.P.ジュルヌ「クロノメーター・フルティフ」
手巻き(Cal.1522)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約56時間。タングステンカーバイトケース(直径42mm、厚さ9.5mm)。3気圧防水。要価格問合せ。

 タングステンカーバイドは非常に硬い素材で、ビッカース硬さ約1350、モース硬度9と、サファイアやルビーに近い硬さを備える。また、硬いだけでなく高弾性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐熱性、耐酸化性、耐薬品性が高く、生体適合性も備える素材である。身近な適用例が、これらの優れた機械的特性を利用した金属加工用工具である。工具用の鋼材とも言えるタングステンカーバイドで外装を製作するにあたって、従来の切削加工をはじめとした各種加工の知見とは異なる知見が必要になることは容易に想像できる。

 この素材を扱うことで大きな役割を果たしたのがジュネーブ郊外のメイランに工房を構えるボワティエ・ジュネーブだ。ボワティエ・ジュネーブはモントルジュルヌ社の傘下として2012年に統合されており、F.P.ジュルヌのケース製作を引き受けている。ボワティエ・ジュネーブとフランソワ-ポール・ジュルヌは最新世代の加工用工具をはじめとしたツールを用いて加工トライを繰り返し、タングステンカーバイドをF.P.ジュルヌの基準に合致する品質のケースおよび3連リンクのブレスレットへ仕立てるための技術を獲得したのである。

F.P.ジュルヌ クロノメーター・フルティフ

高密度で耐久性のあるケース・ブレスレットを実現したのがタングステンカーバイドだ。炭素とタングステンを高温(1400〜2000度の温度下において)で反応させることで得られる。フランソワ‐ポール・ジュルヌが、この新しい時計について語った際、次のように説明した。「私はケースを設計し、ムーブメントを組み込むことを視野に入れて、マニュファクチュールのデザインチームと協力して、ケースの全体的な内外寸法について確認し、それに合うムーブメントの設計を行いました」。その後、ボワティエ・ジュネーブで働くエンジニアと機械担当スタッフが、ケースのミドル部分全体の加工を担当。彼らはサンドブラストとポリッシュ仕上げを担当した。もちろん、同じプロセスが、新たに開発したブレスレットにも施された。厳しい基準を設けた金属加工技術の進化のおかげで、これらの専門職人は、タングステンカーバイドで作られた平らな 3 列リンクを設計するという課題を完全に克服した。

 この特別なケースに組み合わされるのは、鏡面研磨を施したアンスラサイトグレーのグラン・フー エナメル文字盤である。この文字盤も、F.P.ジュルヌの傘下であり、高い技術力が知られるカドラニエ・ジュネーブによって製造される。ホワイトゴールドのベースにエナメルを塗布して800度以上で焼成するグラン・フー エナメルは、均一な色調を得難く、厚さの不均一がひび割れの原因となるため、高い技術が必要な手法である。品質基準に合致する文字盤のベースが完成すると、本作ではそこに数字と分の目盛りをレーザー刻印によって刻んでいる。第三者から見た際の視認性は低いが、この時計の所有者は光の当たる角度を変えることでしっかりと視認できる仕上げとなっており、本作を手にする人に向けた特別な仕掛けであるのだ。またこの仕様は、本作のモノクロームなデザインを引き立てつつ、グラン・フー エナメルの質感を最大限に楽しむことができる意匠と言えるだろう。

 搭載されるのは、18Kローズゴールド製の手巻きムーブメントCal.1522である。注目は、F.P.ジュルヌとしては初となるインラインギアトレインを採用する点だ。3時と9時を結ぶ水平線上に輪列が配置され、それを挟むようにふたつの香箱が取り付けられる。この構成によりムーブメントの上下でシンメトリーなデザインとなっていることも注目点だ。また、時計裏面の12時位置にはパワーリザーブ表示を備え、6時位置にはムーンフェイズ表示が与えられる。

 


2025年新作「クロノメーター・スヴラン」

 F.P.ジュルヌを代表するコレクション、「クロノメーター・スヴラン」にも、新しいモデルが追加された。

クロノメーター・スブラン

F.P.ジュルヌ「クロノメーター・スヴラン」
手巻き(Cal.1304)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約56時間。18KRGケース(直径40mm、厚さ8mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。

F.P.ジュルヌ「クロノメーター・スヴラン」
手巻き(Cal.1304)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約56時間。Ptケース(直径40mm、厚さ8mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。

「至高(SOUVERAIN)のクロノメーター」という名称を持つ本コレクションは、19世紀のマリンクロノメーターから着想を得たという。マリンクロノメーターのようにパワーリザーブインジケーターを文字盤に備えており、その文字盤は見やすく、それでいて伝統的なギヨシェ装飾が施されるなど、優美な意匠ともなっている。今回、そんなクロノメーター・スヴランに深みのあるブルー文字盤が加わった形だ。18Kローズゴールド製ケースとプラチナ製ケースの2種で登場している。

真鍮ではなく、18Kローズゴールドで製造されたムーブメントCal.1304。プレスリリースに画像はなかったが、おそらく他のクロノメーター・スヴラン同様、トランスパレントバックからこのムーブメントを鑑賞することができるのだろう。

 搭載するムーブメントは「クロノメーター・ブルー」にも搭載されている、手巻きのCal.1304。ふたつの香箱がシンメトリーに配されたことを特徴とするムーブメントで、さらに輪列を文字盤側に配置しているため、ケースバックから鑑賞した際、この香箱や大きいテンプが動く様を確認することができる。



Contact info:F.P.ジュルヌ東京ブティック Tel.03-5468-0931


最もF.P.ジュルヌ「らしい」、高精度な手巻きの「Cal.1304」【傑作ムーブメント列伝】

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時計愛好家の生活 J.K.さん「F.P.ジュルヌの時計はシャツの袖にすっと収まる薄さが絶妙です」

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F.P.ジュルヌの文字盤とケース製造を担う、カドラニエ・ジュネーヴとボワティエ・ジュネーヴが新社屋に移転

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