『腕時計のしくみ』の著者・髙木教雄が「お見事」と喝采するモデルとは?【2025年新作ベスト5】

FEATUREその他
2025.04.21

日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は『腕時計のしくみ』『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ【複雑時計編】』などの著者である髙木教雄氏が選んだ5本を紹介。髙木氏が「未来のコレクター」に期待を寄せつつ現地取材したもののうち、No.1に選んだ新作時計とは?


1位:A.ランゲ&ゾーネ「1815」

コレクションに追加された34mmケースの新作は、深淵なブルーダイアルであることも相まって、今年の新作の傾向を象徴する1本である。ムーブメントは、新設計。小さく、かつ薄いが、約72時間駆動をかなえたのはお見事。

A.ランゲ&ゾーネ 2025年新作

A.ランゲ&ゾーネ「1815」Ref.220.028/220.037
手巻き(Cal.L152.1)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWGまたは18KPGケース(直径34.0mm、厚さ6.4mm)。3気圧防水。385万円(税込み)。


2位:グランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」Ref.SLGB003

年差±20秒という超高精度に進化させたスプリングドライブU.F.Aを、直径37mmのブライトチタン製ケースに搭載。小ぶりで軽く傷にも強く、極めて正確──これ以上望むものは何もないデイリーウォッチの完成形と言えよう。

グランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」Ref.SLGB003

グランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」Ref.SLGB003
スプリングドライブ自動巻き(Cal.9RB2)。年差±20秒。34石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径37.0mm、厚さ11.4mm)。10気圧防水。151万8000円(税込み)。2025年6月6日(金)よりグランドセイコーブティックおよびグランドセイコーサロンで発売予定。


3位:ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」

反転式角形ケースによるワールドタイムの登場とは、意表を突かれた。ムーブメントは「デュオ」を最低限の手数でワールドタイマー化していて、信頼性も高い。シティリングを固定するというアイデアも、実にクレバーである。

ジャガー・ルクルト 2025年新作 レベルソ

ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」Ref.Q714256J
手巻き(Cal.834)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KPGケース(縦49.4×横29.9mm、厚さ11.14mm)。3気圧防水。世界限定150本。545万6000円(税込み)。


4位:パルミジャーニ・フルリエ「トリック カリテフルリエ パーペチュアルカレンダー」Ptケース

やや下側にオフセットしたふたつのインダイアルによるミニマルな永久カレンダー表示が、極めてエレガントである。結果、古式ゆかしきグレイン仕上げの美しさが際立った。淡いブルーの表現も、爽やかかつ新鮮に目に映る。

パルミジャーニ・フルリエ「トリック カリテフルリエ パーペチュアルカレンダー」Ref. PFH952-2010002-300181

パルミジャーニ・フルリエ「トリック カリテフルリエ パーペチュアルカレンダー」Ref. PFH952-2010002-300181
手巻き(Cal.PF733)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ptケース(直径40.6mm、厚さ10.9mm)。30m防水。世界限定50本。9万2000スイスフラン。


5位:カルティエ「タンク ア ギシェ」18KYGケース

見た瞬間、拍手をしていた。大好きなモデルが、復刻したからだ。鉄仮面とも呼ばれるふたつの窓によるジャンピングアワー&ディスク式分表示の新作は、1928年の誕生当時の機構と姿とを丁寧にブラッシュアップしてみせた。

カルティエ「タンク ア ギシェ」Ref.CRWGTA0234

© Cartier
カルティエ「タンク ア ギシェ」Ref.CRWGTA0234
手巻き(Cal.9755 MC)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KYGケース(縦37.6×24.8mm、厚さ6mm)。非防水。759万円(税込み)。


総評

W&WGで発表された今年の新作の傾向を表すとすれば、クラシック、小ぶり、ニュアンスカラーといったところだろう。ド派手なコンプリケーションも散見できたが、どちらかと言えば外装の向上に注力されたとの印象が強い。昨年もクラシック路線にグッと寄った傾向にあったが、今年はさらに進んでいたように感じた。ケースサイズも、小径化がより進んでいる。ブルーのダイアルやケースが数多く見られ、トレンドになりつつあるようだが、その色合いは濃度や質感の違いで各社が個性を発揮していた。

5選には入らなかったが、ロレックスによるラベンダーやサンドベージュといった淡い色の表現は実に新鮮であった。それ以外でも、サーモンピンクやミントグリーンのようなニュアンスアラーが例年以上に増えていて、いつにも増して各ブースは華やかだった。ハードストーンダイアルが、いくつものブランドで見られたのは、それぞれが新たな表現を模索した結果なのだろう。

外装への注力を、時計市場が苦境に陥っている結果だと断ずるのは、早計である。実際、多くの時計ファンが、クラシックなシンプルウォッチを欲しているのだから。現実的な価格のシンプルなクラシックウォッチが数多く登場したことは、新たなユーザーの掘り起こしに寄与するであろう。

一般開放日にも会場を訪れたが、子ども連れが意外と多かった。パパやママに抱っこされ、新作をのぞき込む彼らの中から、未来のコレクターが登場するはず。



選者のプロフィール

髙木教雄

時計ジャーナリスト。工学部で培った知見と、圧倒的な取材経験によって裏付けされた原稿が魅力的な業界随一の理論派である。その豊富な知識と鋭い視点で切り込んでいく時計専門誌向けの記事から、一般誌での時計特集、新聞での初心者向け記事など、活躍のフィールドは幅広い。世界文化社から機械式時計の入門書、『腕時計のしくみ』『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ【複雑時計編】』を上梓。


2025年の新作時計まとめ。グランドセイコー、パテック フィリップ、ロレックス、オメガ他、各ブランドのリリースを一挙紹介!

FEATURES

【結果発表】読者が選ぶ! ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025 傑作選 BEST5

FEATURES

2025年 A.ランゲ&ゾーネの新作時計を一挙紹介!

FEATURES