実際に着用
着用1日目。わたしは気品溢れるこの時計に敬意を表すべく、ちょっとしたカラーコーディネートを試みてみた。ベージュのサマーニットに同じくベージュのスリッポン。グローブ・トロッターのアタッシェはフルオーダーで仕立てた僕の愛用の品。センターにはしらせたボルドーカラーのストライプが、オクト ローマのブラウン文字盤とストラップに実によくマッチするではないか! 時計でこれほど昂揚するのは久しぶりだ。
ストラップをピンバックルに通す。インプレッションでもっともドキドキする瞬間だ。ここで初めて気がついたのだが、バックルはケースのフォルムに合わせた、実に立体的かつ複雑な形状だ。調べるみると、ちゃんと「アーディヨン・バックル」という名前が付いている。この価格帯のモデルにしては、極めて手の込んだバックルの造作といってよいだろう。幅広のストラップとラグの形状も手伝ってか、最初に身につけた瞬間から、付け心地は快適そのもの。おろしたての時計にありがちな、ストレスはまるで感じられない。
自動巻き(ソロテンポ Cal.BV191)。2万8800振動/時。約42時間のパワーリザーブ。SS(直径41㎜)50m防水。68万円(税別)。
ちょうど日差しが強い暑いさなかにインプレッションを開始したのがよかったのか、光を反射してキラキラと光沢を発するケースの素晴らしさに驚いた。これでファセットが110面もあったらどんな光りかたをするのだろう? 遠目にこの時計をしている人がいたら、さぞかし綺麗に見えるだろう。デザイナーも遠目のイメージを意識してデザインしたに違いない。なおかつ、前面に出ているベゼルはサテン仕上げなので、必要以上の主張はしない。
日中の視認性は完璧だ。なおかつ、暗所であってもブラウンにシルバーのインデックスと針の組み合わせなので、実に良好に時間の読み取りができる。これは嬉しい発見だ。また、一段下げてディスクをレイアウトしているデイト表示窓は「慎ましやか」という雰囲気がぴったりなほど小さく、日付を確認するという目的以外には、ほとんど視界に入ってこず、なおかつディスクがブラックなので、夜は完全に〝埋没〟する。わたしはデイト表示不要派なので、このアンダーステートメントさには大いに賛成である。
老舗ジュエラーの手による高級機械式時計の入門編なれど、「ブルガリ・ブルガリ」や「スクーバ」のようにメジャーすぎない、つまり控えめなテイストの1本が欲しいと思った時、わたしは真っ先にこの「オクト ローマ」を薦めるだろう。搭載する自社製の「ソロテンポキャリバー」の素性の良さも含め、68万円の投資は間違いなく実り多いものとなるに違いない。