本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る/第2回『スマートウォッチとはいったい何か?』

iPhoneの機能を活かしたアプリがリリースされ、そこからインスピレーションを得てiPhoneが進化。さらにアプリは進化したiPhoneに……。ハードウェアとソフトウェアが相乗効果で発展してきたことが今日のiPhone人気を築き上げた。 “プラットフォームとしての魅力”をiPhoneに与えることに、アップルが常に注力してきたことがこの現象へつながった、と本田氏は指摘する。

なぜiPhoneは成功を収めたのか?

 今やApple Watchは手首に装着するスマートフォンそのものとなったが、違う点もある。iPhoneの魅力の本質とは、ハードウェアそのものではなく、新たなインスピレーションを呼び起こす“プラットフォームとしての魅力”であるように思う。

 別の言い方をすると、iPhoneという製品がここまで大きな市場を作り、Androidスマートフォンなどのフォロワーを生み出した理由は、それ自身が便利であること以上にアプリケーション開発者たちの“遊び場”となったことが大きい。

 iPhoneにインスピレーションを得て、内蔵のカメラや各種センサーを使いこなして作られた各社のアプリは、いずれも初期段階では稚拙で不完全だったが、新しい可能性も持っていた。そのキラリと光る可能性に再びインスピレーションを得て、ハードウェアはさらに進化し、または別の新たなアプリの発明へとつながる。アップルというメーカー単独ではなし得なかった領域まで可能性を広げるため、アップルは開発者に対して「より良い遊び場」を作ろうと努力してきた。それがiPhoneに成功をもたらしてきたわけだ。

Apple Watchはスマートフォンそのものだった

 Apple Watchは、iPhoneの遊び場を拡張し、“リストウォッチの中にまで入り込んでいく”だけなのかと思っていたら、どうやらiPhone同様、Apple Watch単独でもアプリケーションが動き、何らかの価値を引き出す世界を作ろうとしているようだ。

 もちろん、スマートフォンとスマートウォッチは、ディスプレイのサイズも操作性もまるで違う。現時点でApple Watchは、iPhoneほど大きなアプリ市場を生み出しておらず、iPhoneのAppStoreほどの盛況は得られていないのが事実だろう。しかし、理想へとは一歩ずつ近付いている。

 僕が毎日、Apple Watchを装着してみようと思いはじめたのは、Series 3がスマートフォンそのものを目指していたからだ。“これはすでに時計ではない”と腑に落ちた瞬間、僕はスマートウォッチ=腕時計という呪縛・固定観念から解かれ、その可能性を探ってみたいと考えるようになったのである。

本田雅一(ほんだ・まさかず)
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。