共に1940年代のRef.4240シリーズを源流とする、ヒストリークの最新作。本来、ムーンフェイズの有無以外に、ケース造形の違いはないはずだが、同社が“クロウ”(鉤爪)と呼ぶティアドロップラグの造形が、SSケースの“1942”と、4Nゴールドケースの“1948”では明確な違いが見て取れる。1942のほうは正面形状がふくよかで、対して1948はよりシャープなのだ。これが1940年代当時によく見られた、マテリアルごとに細分化され、専業化されていたケース製造業者による“エラー”を意図的に再現したものだとしたら、何とも心憎い演出である。なお、ケースサイドを彩る“トリプルゴドロン”の艶めかしい造形美は、両者ともに素晴らしいものだ。
Historiques Triple Calendrier
1942/1948
ここでもう一度、先に挙げた時計産業内のカルテルに目を向けてみたい。1934〜61年にかけてスイス時計産業が機能させてきたカルテルは、この分野における専業的な水平化を維持したものの、50年代頃から顕著となってくるアメリカや日本といった新興勢力の台頭で、国策として遂行されてきた技術移転防止政策の失敗も露呈させた。経済史の分野になるので詳細は省くが、70年代に向けて段階的に行われていった、法令としてのカルテル撤廃は、スイス時計産業内での自由競争の認可を意味していた。こうした国内事情の変化と、ウォッチデザイナーが台頭してくる時期とは、偶然とは思えないほどの符合が見られるのだ。
ヒストリーク・トリプルカレンダー 1948
(左)Ref.3100V/000R-B422(右)Ref.3100V/000R-B359
1948年製のRef.4240Lがモチーフ。ラグのシェイプがやや鋭角になるなど、40年代当時にはよく見られた素材ごとの揺らぎ感や、良い意味でのファジーさまで作り分けたデザインセンスに脱帽だ。手巻き(Cal.4400 QCL)。18KPG/4N(直径40.0mm、厚さ10.35mm)。3気圧防水。世界限定各200本。ともに387万円。
(左)Ref.3100V/000R-B422(右)Ref.3100V/000R-B359
1948年製のRef.4240Lがモチーフ。ラグのシェイプがやや鋭角になるなど、40年代当時にはよく見られた素材ごとの揺らぎ感や、良い意味でのファジーさまで作り分けたデザインセンスに脱帽だ。手巻き(Cal.4400 QCL)。18KPG/4N(直径40.0mm、厚さ10.35mm)。3気圧防水。世界限定各200本。ともに387万円。
Cal.4400 QCL
2017年初出。センター配置のポインターデイトを主軸とした“トリプルカレンダームーン”は、1940年代を代表する実用コンプリケーションのリメイク。ムーンディスクは2色が用意される。直径29.0mm、厚さ4.60mm。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。
2017年初出。センター配置のポインターデイトを主軸とした“トリプルカレンダームーン”は、1940年代を代表する実用コンプリケーションのリメイク。ムーンディスクは2色が用意される。直径29.0mm、厚さ4.60mm。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。
少し余談になるが、スイス時計産業が完全な自由化を迎えるのは、ASUAGが解体される1984年のことである。また71年に制定され、現在のスイスネス法へと繋がってゆくスイスメイド表記に関する法令は、今日まで残った産業保護カルテルの残滓とも言えるだろう。
ヒストリーク・トリプルカレンダー 1942
Ref.3110V/000A-B426
1942年製のRef.4240をモチーフとしたトリプルカレンダー。こちらはアプライドのアラビックインデックス。
手巻き(Cal.4400 QC)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SS(直径40.0mm、厚さ10.35mm)。3気圧防水。216万円。
Ref.3110V/000A-B426
1942年製のRef.4240をモチーフとしたトリプルカレンダー。こちらはアプライドのアラビックインデックス。
手巻き(Cal.4400 QC)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SS(直径40.0mm、厚さ10.35mm)。3気圧防水。216万円。