2007年頃から北米市場向けに作られていた“限定復刻版”が、独立したコレクションとして系譜を重ねてゆくのは09年から。ヒストリークの先陣を切った“アメリカン 1921”は、やや大ぶりなクッションケースに、懐中時計用のレピーヌキャリバーを45度傾けて搭載したドライバーズウォッチが原型だ。腕時計にアレンジされる際に、搭載ムーブメントこそサボネットスタイルで新規設計されたものの、大径ムーブメントらしい存在感は受け継がれた(ちなみにアメリカン 1921は、Cal.4400 ASが初搭載されたモデルだ)。しかし17年に追加された“スモールサイズ”は、同じムーブメントを搭載しつつ、ケースの凝縮感を大きく高めている。近年のヴァシュロン・コンスタンタンは、スモールサイズの展開に注力するが、そのどれもが素晴らしいデザインの密度を伴っている。大径ムーブメント時代の先駆けとなったアメリカン 1921と、その構成要素をそっくり受け継いでリデザインされたスモールサイズが、共に破綻のないバランスを維持しているという事実は、同社デザインチームの力量を示す証左となるだろう。
Historiques American 1921
ヴァシュロン・コンスタンタンの腕時計が、初めて総合的な〝ウォッチデザイナー〟の手に委ねられるのは、創業222周年の準備に奔走していた時期である。1977年に発表された「222」。手掛けたのは当時新進気鋭のヨルグ・イゼックだ。その後は87〜2000年にかけて、同じくフリーランスのデザイナーとしてディノ・モドーロが参加し、1996年の初代オーヴァーシーズや、ラウンドケースの旧マルタなど、新時代を担う(現代からすればひと昔前の)主要コレクションを構築していった。しかし本質的な意味で、同社のデザインが体系化されてゆくのは、98年からデザイン・マネージャーを務めたヴァンサン・カウフマンの功績が大きい。85年にジュネーブの装飾美術学校を卒業したカウフマンは90年に入社し、当初は生産管理部門や商品開発アシスタントを務めた。ある資料によれば、モドーロの社内コーディネーター役として初代オーヴァーシーズにも携わったという。その実績を買われてか、同社初となるインハウスのデザイン・マネージャーを経て、2008年からはデザイン・ディレクターの要職にある。なお2010年からは彼の上に、同じく1990年入社のクリスチャン・セルモニがアーティスティック・ディレクターとして就任している。ただしセルモニの任務はデザイン部門も包括するものの、コレクションの長期的な戦略を総合的にプロデュースすることにあり、あくまで実戦部隊の指揮官はカウフマンだ。
(上)ヒストリーク・アメリカン 1921・36.5mm
Ref.1100S/000R-B430
2017年末に追加された待望の36.5mmケース。ラージサイズと同様のムーブメントを搭載しつつ、ケースの凝縮感が大きく高まった。
手巻き(Cal.4400 AS)。18KPG/5N(幅36.5mm、厚さ7.25mm)。3気圧防水。322万円。
(下)ヒストリーク・アメリカン 1921
Ref.82035/000R-9359
2009年に登場したヒストリークの初作。原型はレピーヌキャリバーを載せたドライバーズウォッチだったが、サボネットスタイルの腕時計用ムーブメントに合わせて、インダイアル配置にアレンジが加えられている。
手巻き(Cal.4400 AS)。18KPG/5N(幅40.0mm、厚さ8.06mm)。3気圧防水。391万円。
Ref.1100S/000R-B430
2017年末に追加された待望の36.5mmケース。ラージサイズと同様のムーブメントを搭載しつつ、ケースの凝縮感が大きく高まった。
手巻き(Cal.4400 AS)。18KPG/5N(幅36.5mm、厚さ7.25mm)。3気圧防水。322万円。
(下)ヒストリーク・アメリカン 1921
Ref.82035/000R-9359
2009年に登場したヒストリークの初作。原型はレピーヌキャリバーを載せたドライバーズウォッチだったが、サボネットスタイルの腕時計用ムーブメントに合わせて、インダイアル配置にアレンジが加えられている。
手巻き(Cal.4400 AS)。18KPG/5N(幅40.0mm、厚さ8.06mm)。3気圧防水。391万円。