本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る/第5回『wena wristという存在』

wena wrist proと同時に発表され、2018年3月より発売されている「wena wrist active」。シリコンラバー製のバンドにはGPSと光学式心拍センサーが搭載されており、移動時の平均速度や心拍数、睡眠状態のログデータが計測可能だ。ヘッドの着脱が容易なため、ランニングや睡眠時など、腕時計を着けていたいと思えない場面では「wena wrist active」単体で使用できる点が魅力的。オープン価格。

wena wristの課題

 wena wrist proと名付けられた第2世代モデルは、バンドを構成するコマをコンパクト化しただけでなく、その形状にもこだわっている。腕にフィットしやすく、快適性を損なわないデザインを見れば、彼らを“たかが電機屋”と馬鹿にはできないはずだ。実際、装着感が大幅に向上しており、見た目にもヘッドとのサイズバランスが良く、自然さを増した。

 通知機能も有機ELを用いたディスプレイが搭載されたことで、スマートフォンを取り出して情報を確認すべきか否か、第1段階での取捨選択がやりやすくなっている。

 辛口なことを言えば、相変わらずSuicaへの非対応が続く(もっとも、これは彼らだけの責任ではないのだが)ことに加え、シルバーとブラックだけのカラーバリエーションは、組み合わせる製品をやや選ぶ。

 またバンドはコマ留めるピンの固定にCリングを用いているため、この手の作業に慣れていないユーザーにとって、コマ調整が少々難しい。筆者は普段使用しているwena wrist proのバンドを自分で調整したが、そもそも道具を持っていない人には無理だろう。メーカーも時計店でのコマ調整を推奨している。

 さまざまな選択肢の中からこの方法をベストとして選んだようだが、バンドをヘッドに付ける際は手だけで容易に装着可能なだけに、少々惜しいと感じるのは筆者だけではないだろう。また、いくつかの時計本体部に付け替えて使う場合、ヘッドのサイズによって微妙にサイズ感が変化してしまう。

 とはいえ、先代からの改良は着実なものであり、筆者の指摘も些細なものだ。そして今後、wenaは海外での展開も検討しているようだ。日本ではSuicaへの依存度が高く苦労しているが、海外では別の電子マネー/電子決済システムが普及しており、むしろwena wrist proを訴求しやすい環境にある。そして、この完成度ならば、海外へと打って出る価値があろうというものだ。

 しかし、筆者がより注目するのは同時発表されていたwena wrist activeだ。さらに“ガジェットとしての要素を強めた”というwena wrist activeは、ラバーバンドの留め具にすべての機能を詰め込みつつ、GPSと心拍計を取り込んだ。これによりランニングなど、スポーツ/フィットネスへの本格的な活用が望めるようになった。

 wena wrist activeが、より彼らのオリジナルのコンセプトに近いと感じるのは(なお筆者が感じているのであって、彼らがそう話しているわけではない)、この製品がヘッド……すなわち、腕時計本体部を簡単に取り外せるよう設計している点にある。

 つまり、バンド単体で使うことを想定しているのだ。

 ヘッドを取り外せば、当然ながら大幅に軽量化が可能となり、運動時に使いやすくなるのはもちろん、睡眠時の記録を取るためにも利用できる。スマートウォッチの中には睡眠トラッカー機能を持つものもあるにはあるが、大きなヘッドを装着してでも、眠りの状況をトラッキングしたいというユーザーはそう多くないはずだ。

 ヘッドの脱着を容易にし、バンドだけでも機能できるようにしたことで、彼らの“腕時計のバンドだけで必要な機能を実現する”というコンセプトが活きてくる。実際、売り上げは好調とのことだ。しかし、wenaというブランドがさらに飛躍するには、クリアしなければならない課題も少なくない。

 彼らの課題は、アプリや連携サービスの“深化”。それに数年、あるいは10年といった中長期で、どのように進んでいくのかのビジョンが見えにくいことだ。あらゆるものがネットワーク化され、社会や市場が変容するだろう2020年以降の世界観の中で、既存の腕時計文化との親和性が命のwenaは、どのような方向に進むのか。

 次回はwenaのコンセプトをモチーフに、腕時計バンドを基本としたウェアラブルデバイスの可能性について考えてみることにしよう。

本田雅一(ほんだ・まさかず)
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。