名作コマンダーに加わった新作。実用時計を得意とするミドーだけあって、細部への配慮は抜かりない。高い視認性を備えたビッグデイトに、ベゼルを絞ることで実現した極めて大きな文字盤、取り回しを良くするため、あえて短く切られたラグなどの実用的なディテールを持つ。自動巻き(Cal.80)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS+ローズゴールドPVD(直径42mm、厚さ11.97mm)。5気圧防水。11万8000円。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
日本再参入を果たした実用時計の雄
エントリークラスの雄でありながらも、2015年の再参入まで日本市場から遠ざかっていたミドー。そんな同社が100周年を迎えた2018年、「コマンダー ビッグデイト」を皮切りに、数々のアニバーサリーモデルを投入する。スウォッチ グループならではの物堅い作りに加えて、歴史を感じさせるプロダクトの数々は良質な実用時計を好む愛好家にも、きっと響くに違いない。
1918年に創業されたミドーは、長らく実用時計の雄だった。ムーブメントにエボーシュを使う点ではスイスの他メーカーに同じだったが、同社は、腕時計の実用性に非凡な注意を払っていた。例えば、30年代後半の防水に関する特許。今やどのメーカーも、防水性を高めるためにリュウズのチューブにパッキンを加える。当たり前すぎて先駆者が誰かはあまり知られていないが、実はこの特許取得者こそミドーだったのである。もっとも、当時の素材は加工しやすく、防水性を保てるコルクだった。
堅牢な実用時計を作る、というミドーのあり方を確立したのが、1934年にリリースされた名作「マルチフォート」だった。自動巻きのエボーシュを厚い防水ケースに包んだ本作は、「出かけると(ゼンマイが)巻ける」という軽快なキャッチコピーもあって、世界的なヒット作となった。売り上げの5割以上が、時計に実用性を求めるアメリカ人だったという事実が、ミドーのキャラクターをよく物語っている。
加えて、ミドーには手の届く価格の良質な実用時計のみならず、もうひとつの魅力があった。外装のバリエーションが多彩だったのである。好例は、60年代の「パワーワインド ダイバーズ 1000」だ。ラッカーを多用したカラフルな文字盤は、このモデルに手頃な価格のダイバーズウォッチというだけでないユニークさをもたらした、と考えれば、往年のミドーを収集するコレクターが多いのも納得ではないか。
現在、ミドーはスウォッチ グループの傘下にある。では、大グループの一員となって、ミドーのあり方は変わったのか。答えは否だろう。
「コマンダー ビッグデイト」は直径42㎜という大きなケースに、ビッグデイトを搭載した新作である。ベゼルを細く絞り、文字盤を拡大したのは視認性を高めるため。そして、ケースサイドをケースバック側に絞り、ラグを短く切ることで、サイズを感じさせない〝軽さ〞を得た。そこへ、約80時間のパワーリザーブを持つ自動巻きムーブメント、キャリバー80を搭載する。また、ベゼルを極めて細く絞ったにもかかわらず、5気圧の防水性を備える。時代は変われど、実用性を求めるミドーらしいモデルだ。
デザインの追求も、やはりミドーの魅力であり続ける。例えば、「マルチフォート」をリモデルした「マルチフォート デイトメーター リミテッドエディション」。直径40㎜というサイズを感じさせないのは、リュウズを大きくして、デザインのバランスを取ったため。仮に汎用品の小ぶりなリュウズを使っていたら、デザインのバランスは破綻したに違いない。コストを考えると、専用のリュウズは採用すべきではないが、ミドーはあえて採り入れたのである。こういった細部への配慮は、「コマンダー シェイド スペシャル エディション」も同様だ。アクリル製のボックス型風防の中心部には、よく見ると〝Mido〞の刻印がある。かつての風防に刻まれていた刻印を、ミドーは忠実に再現したのである。
優れた実用性とユニークなデザイン、言い換えると細部へのこだわりに満ちたミドー。加えて、日本ではまだ取り扱い店舗が少ないことも大きな魅力だ。と考えると、気兼ねなく使える実用時計を求める愛好家にとって、ミドーは間違いなく、考慮すべき選択肢のひとつになるはずだ。確かに同じ価格帯で、優れた実用時計を探すのは難しくない。しかし、ミドーの時計には、今も昔も、実用時計という枠では測れない面白さがある。