本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る/第7回『スマートウォッチの市場規模』

本田雅一:文
Text by Masakazu Honda

テクノロジーの分野で、知らぬ人はいないほどのジャーナリストが、本田雅一氏だ。その本田氏が、腕に着ける装置「ウェアラブルデバイス」を語る。第7回目はApple Watchを中心するスマートウォッチの市場規模についてだ。

ウェアラブルデバイスの台頭がもたらしたもの

 カジュアルならばコレ、アクティブならコレ、フォーマルならコレ、などテック系ジャーナリストなのに、いつの間にかいくつもの腕時計を取り替えながら使うようになっていた。Apple Watchが登場し、フォッシルがウェアラブルデバイスメーカーのミスフィットを買収するなどの動きがある前は、10年に1本の腕時計も買っていなかった僕がこれだけ多くの腕時計を所有するようになるとは、自分自身が信じられない。

 なぜなら、僕自身がもともと腕時計不要論者だったからだ。

 携帯電話が高機能化しながら普及していった2000年代のニュースをひっくり返せば、若年層が腕時計をしなくなってきた……なんて話が山ほど掘り起こされるだろう。“時を知る”という部分に焦点を当てるのであれば、腕時計が不要であることは明らかなように思えたのだ。

 そんな「腕時計市場はなくなるに違いない」と思っていた僕の手元には、さまざまな種類の腕時計が、おそらく10本以上は存在する。こんなことになってしまった理由は、ウェアラブルデバイスのムーブメントが盛り上がったことをきっかけに、再度、腕時計というアイテムを見直したからだった。

 あまりにもファッションとかけ離れた初期のウェアラブルデバイスやスマートウォッチを試用しながら「これを身に着けて人前に出たくない」と素直に思ったのが、腕時計を複数種類持つようになったきっかけだ。

「人前に出る時には、服装やその場、あるいは自分の主張やセンスに合う腕時計を身に着けたい」

 ただ、それだけのことなのだ。そこに“機能性”といった動機は微塵も存在しない。なぜなら——繰り返しになるかも知れないが——時を知る機能を持つ携帯型デバイスは、すでに世の中に普及していたからだ。言い換えれば、実用ツールとしての腕時計は、携帯電話を持ち歩くことが当たり前になったときに死刑宣告をされていたことになる。

 しかしグローバルな時計市場をみると、高級腕時計、あるいはファッションに根差したブランドの腕時計市場は底堅い。スマートウォッチの登場で最も大きな影響を受けたのは高級時計メーカーでも、ファッション性を前面に押し出したブランドでもなく、実用品としての腕時計を提供している企業だった。