ついにNo.1となったApple Watch
別の視点で考えてみよう。
昨年、アップルがApple Watch Series 3を発表した時、年間の売り上げでロレックスを抜いたと発表して話題になった。しかも僅差ではない。ロレックスの年間売り上げの約3割にあたる金額分も、Apple Watchが上回っているというのだ。しかし、この数字だけでは“現象”を正確には把握できない。6月4日から開催されていたアップルの開発者向けイベントで、アップルCEOのティム・クックが「昨期から60%も売上げが伸びた」と発言したからだ。
IDCの調査ではApple Watchは2017年通期で約1770万本売れたという。Apple Watchの平均単価や交換が容易なバンドの売り上げなどを考えれば、確実に6500億円以上の売り上げは確保しているだろう。
ということは、Apple Watchがこのペースで売り上げを伸ばしていくのであれば、その売り上げ規模は今年、年間1兆円に迫る可能性すらある。
これは腕時計の売り上げナンバー2であり、アップルに抜かれるまでトップを独走していたロレックスが持つ年間売り上げのおよそ2倍に相当する数字と考えられる。しかし、こうした比較がそもそも正しいのかどうか、少し落ち着いて考えてみる必要がある。理由はふたつ。
第1にジャンルが異なるということ。スマートウォッチは、スマートフォンへと集まってくる情報サービスの代替的なユーザーインターフェイスだ。腕時計と同じ場所に装着してもらえるよう開発はしているが、腕時計そのものではない。
第2にスマートウォッチには装飾品としての役割がほとんどないということ。もちろん、“旅”をテーマにエレガントなスマートウォッチに仕上げたルイ・ヴィトンの「タンブール ホライゾン」、(おそらく同じプラットフォームを活用しているだろう)サッカーをテーマとして試合の様子を知らせてくれるウブロの「ビッグ・バン レフェリー 2018 FIFA ワールドカップ ロシア™」など、ファッションに寄せた商品もある。
また、タグ・ホイヤーやモンブランの製品はグーグルの開発する「Android wear 2.0(現Wear OS)」プラットフォームを活用しつつ、デザインや仕上げ、盤面デザインなどで差異化を図ろうとしている。
しかし、それでも“情報を表示する”という機能性を優先した四角いディスプレイを搭載したApple Watchが伸びているところに着目したい。
Apple Watchを買っているのは、これまで腕時計に強い興味を持たなかったか、あるいは装飾品としての腕時計というカルチャーを楽しみつつ道具としてのApple Watchを求めている人たちなのだ。
腕時計とスマートウォッチは“手首”という場所を争う間柄ではあるが、そもそも目的、ジャンルが異なるのだ。
だからApple Watchは先日のWWDCで新たに発表、今年秋にリリースする予定の「watchOS 5」で、情報ツールとしての機能性をさらに強化している。通知に対して簡単な応答を、その通知表示の中で行えるようにし、「Siri watch face」という電子秘書機能に注力。ワークアウト機能を大幅強化するなど、従来からの強みとなっていた部分も拡張しているが、“腕に装着するコンピューター”としての性格を強めてきている。
そして低かった洗練度も年を追うごとに高まってきた。
“時を知る道具”と“多様な情報を知り応答する道具”。
そういったパースペクティブで観ると、見える景色も変わってくる。