リンドン・ベインズ・ジョンソン大統領
リンドン・ベインズ・ジョンソンも、トルーマンやアイゼンハワー同様にヴァルカンのクリケットを所有していた。ヴァルカンはそれぞれにこの時計を贈っていたのだ。ジョンソンは1964年にニューズウィークの表紙を飾った時に、クリケットを着用していた。ジョンソンは当時のヴァルカンの社長に宛てて謝意を表す手紙を出し、その中で「非常に価値のあるもので、着けていないと何か忘れているような気がする」と述べている。ジョンソンはまたロレックスの時計も好きだったようだ。特に「プレジデント」のニックネームを持つデイデイトには愛着があったようである。中にはロレックスがアイゼンハワーの在任中にデイデイトをプレゼントしたことに、その名が由来すると言う人もいる。
ジョンソンは、自身の友人たちにもロレックスを贈っている。1973年には、1955年に心臓発作を起こしてからずっと主治医をしているJ.ウィリス・ハーストにゴールド製のロレックスをプレゼントしている。おそらく自分の死期が近いことを悟っていたのか、ハーストに急いでこの贈り物をして、自分で宝飾店に持ち込みエングレービングをしてもらうよう頼んでいる。ジョンソンはそこに"To JWH/Love LBJ"と刻んでほしいと伝えた。このような依頼を受けてハーストは困惑して躊躇していた。するとジョンソンは自ら店に手紙を書き、メッセージの刻印を依頼し、その直後に亡くなったのである。
ジェラルド・フォード大統領
ジェラルド・フォードが大統領の任に就いていたのは1970年代半ばにピークを迎えたLEDデジタルウォッチ全盛の時代だった。普段はデジタルの時計、ハミルトンのパルサーを着用(現在パルサーブランドはセイコーの傘下にある)。1974年にニクソンの辞任を受けて大統領に就任した頃のワシントンポスト掲載の写真に、この時計を着けた姿が見られる。ハミルトンは世界初のLEDデジタル時計、パルサーを1972年に発表。多くのセレブリティやフォードをはじめとした政治家がこのハイテクガジェットに魅せられた。フォードは自分のパルサーをとても好んでいた。それはこのモデルが計算機搭載仕様で世に出てきた時、妻のベティに1974年の自分のクリスマスプレゼント用に見つけてほしいと頼んだことからもうかがえる。
ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ大統領
1989年に第41代アメリカ合衆国大統領に就任したジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュはずっと自分の時計をうまく使っていた。中でも最も有名な逸話のひとつに、ブッシュが再選で少し遅れをとっていた1992年10月15日のビル・クリントンとロス・ペローとのテレビ討論会での出来事がある。その間、まるで討論に飽きて、何かもっと大事なことが他にあるかのように自分の時計を2度見たことがあった。何年後かのテレビインタビューで当時のことを聞かれたブッシュは、飽きたのではなく続いていた討論が終わるのを待ちきれなかっただけだと認めた。「しょうもないことが終わって嬉しそうに見えたかい?」と自己防衛のために誇張して尋ねている。討論が終わって、ブッシュは「あと10分でこれが終わる」と思ったとインタビュアーに答えている。
ビル・クリントン大統領
ビル・クリントンはホワイトハウスを離れてから確実に時計好きになっていった。彼の着用していた時計はパネライPAM0089 ルミノール GMT、フランク ミュラー、ロジェ・デュブイだけでなく、コボルド・シール、そしてゴールド製のカルティエのバロン ブルー。スイスのウォッチメーカー、クインティングはクリントンが自社の「ジュネーブの鳩(Dove of Geneva)」を着用している写真をウェブサイトに公開している。クインティングは「ジュネーブの鳩」をクリントンだけでなく歴代スイス大統領のうち4人とアルジェリア大統領にも贈呈している。これら全員の写真がウェブサイトにアップされているのだ。
クリントンはずっと時計好きだったわけではない。大統領選の最中、そして大統領就任当初は常に同じ時計、控えめなタイメックスのアイアンマン・トライアスロンを着用していた。いつも同じ時計を着けているクリントンに対して批判的な声を浴びせた人もいる。ワシントンポストのコラムニスト、ジェーン・ウェインガーテンはタイメックスのことを「レンガのように分厚く、ヘルニアのようにハンサムな、プラスティックのデジタルウォッチ」と表現したのだ。1992年の選挙戦の前後にオメガが行った広告キャンペーンはクリントンに、タイメックスはやめて、もっと高価な時計を着けたほうがいいと思わせていった。そして、ついにクリントンはそれを実現した。1994年フランスで行われたD-Day(ノルマンディー上陸作戦)50周年の式典に出席したクリントンは、フランスの時計会社リップのレザーストラップの付いたアナログ式腕時計を手にすることになる。
ジョージ・W・ブッシュ大統領
2001年に第46代アメリカ合衆国大統領に就任したジョージ・W・ブッシュの、直球で分かりやすい人柄は時計にも表れている。選挙戦の最中とその後は、タイメックスが「世界で最も使いやすいアラームウォッチ」と謳ったiコントロール・アラームウォッチを着用した(きっと時間に正確なブッシュ自身も気に入っていたに違いない)。アラームをセットするにはベゼルを回してセットしたい時間に合わせ、4時位置のリュウズを引くだけでよかった。
2007年6月のアルバニアへの外遊中に、群衆と握手をしていた際に手首から魔法のように消え失せた時計が何であったかは未だに分かっていない。当時、一部では時計が盗難に遭ったのではと噂されたが、ホワイトハウスはブッシュが時計をポケットに入れたと発表しており、手首から滑り落ちて群衆の足元で踏みつけられたわけではなかったようだ。
バラク・オバマ大統領
選挙戦中、バラク・オバマはよくタグ・ホイヤーの1500シリーズ、白文字盤のクォーツモデルを着用していた。これはタグ・ホイヤーの熱心なファンであるジェフ・ステインが、オバマが多くの写真でこの時計を着けているのを確認している。
2007年夏、オバマは自身の誕生日(8月4日)に3人のシークレットサービスメンバーから贈られた、大きめのヨーグ・グレイ、ブラック文字盤のクロノグラフを着用している。この時計にはシークレットサービスの刻印が入っている。おそらくこの時計が、オバマがエレン・デジェネレスの「エレン」ショーに出演した際に手首から落ちた時計であろう。この時、オバマは自身のダンスのスキルを披露している。
アクシデントはオバマが乳がん撲滅キャンペーンのイメージカラーであるピンク色のサンドバッグにパンチしていた時に起こった。オバマはすぐに時計を拾い上げ、ポケットに入れた。ロンドンのデイリー・マールによると、2015年3月、オバマはヨーグ・グレイのクロノグラフを外し、フィットビットのサージを代わりに着けるようになる。大統領のポストを退いた後はロレックスのチェリーニを着ける姿が散見される。
ドナルド・J・トランプ大統領
45代大統領のドナルド・J・トランプは何年も公私にわたってラグジュアリーウォッチとつながってきた。なんと、自身の名をクォーツウォッチの名称として貸し出してもいるのだ。「ドナルド・J・トランプ シグネチャー コレクション ウォッチ」はeBayで500USドルで販売された。しかしドナルド・トランプの時計にまつわる最も大きな話題は、1999年2月24日にオークションハウスのアンティコルムと高級時計店トルノーによってニューヨークで行われた「著名人」オークションに遡る。コンセプトは著名人が自身の時計を1本寄付し、その時計やポップカルチャーの記念品に興味がある人なら誰でも競り落とせるというものであった。オリジナルカタログの表紙(下)を見ると、俳優やコメディアン、トークショーの司会者やミュージシャンなど幅広い著名人が参加しているのが分かる。アーノルド・シュワルツェネッガー、ジェリー・セインフェルド、レオナルド・ディカプリオ、ウーピー・ゴールドバーグやダスティン・ホフマンはすぐに分かった。しかし当時、ドナルド・トランプは少しでも「大統領」的なものを得ようとして、最終的には元俳優でのちに大統領となったロナルド・レーガン所有であったコリブリの腕時計を7000USドルで競り落としているのである。同じオークションに、トランプはイエローゴールド製のユニバーサル・ジュネーブのセナ・クロノグラフを寄付している。