PELAGOS
「サブマリーナー」の系譜を継ぐ本格派ダイバーズウォッチ
ダイバーズウォッチとしての基礎体力を磨き上げたのが、ペラゴスである。錆びにくくて軽いチタン製のケースとブレスレットを持つほか、500mの防水性能があり、自社製ムーブメントの搭載によって精度も向上した。チタン×SS製とは思えない良質な仕上げも、本作の大きな魅力だ。
ヘリウムエスケープバルブを持つ、本格的なダイバーズウォッチ。チタン製のため軽くて取り回しも良い。自動巻き(Cal.MT5612)。26 石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。Ti×SS(直径42mm)。500m防水。C.O.S.Cクロノメーター。43万円。
同社は自社製ムーブメントの開発を進め、2015年には、新型自動巻きのMT5612を完成させた。この、シリコン製のヘアスプリングに、フリースプラングテンプ、そして約70時間という長いパワーリザーブを誇る自動巻きは、ETAの代替機という枠を超えた、第一級の基幹ムーブメントだった。併せてブライトリングとの提携により、チューダーは優れた自動巻きクロノグラフムーブメントも手にしたのである。
かつてウイルスドルフが目指した、ロレックスと同じ信頼性を持ちながら、価格以上の価値を持つという理想。それは自社製ムーブメントの開発で、いよいよ果たされたと言ってよいだろう。
さらにチューダーは、時計好きをくすぐるようなディテールを各コレクションに与えた。例えば、ブラックベイのリベットブレス。板を折り曲げて左右から蓋をするリベットブレスは、1960年代のチューダーが好んだものだ。同社はこれを、今の加工技術で再現してみせた。重くないのに、適度な剛性感があるリベットブレスレットは、新生チューダーを象徴するディテールといえるだろう。同じく、標準装備されるストラップにも、ツートーンのファブリックやアンティーク処理をした「エイジドレザー」を採用するなど、普通の実用時計とはひと味違ったテイストを与えた。もちろん、チューダーだから、実用時計として使える品質は守っていることは言うまでもない。
愛好家ならば、2018年に加わった「ブラックベイ GMT」と「ブラックベイフィフティ-エイト」は見逃せないモデルだろう。前者は、チューダーのアイコンである通称「スノーフレーク針」に、赤青ツートーンのベゼルを持つGMTウォッチ。レトロなデザインもさることながら、単独操作が可能な12時間針が、極めて優れた使い勝手をもたらす。一方の後者は、大ヒット作のサイズ違い。ケース径の縮小により好ましい凝縮感が加わったほか、ベゼルトップの差し色が銀から金に変わった結果、アンティーク感がより一層強調された。フィフティ-エイトという名前が示す通り、その佇まいは、まるで1958年製のオイスター プリンス サブマリーナーだ。
実用時計を求める向きには、ペラゴスという選択肢もある。このモデルも、69年のサブマリーナーRef.7016/7021を思わせるデザインを持つが、それ以上に、実用品として非凡な完成度を持つ。例えばケースとブレスレット。現在多くのダイバーズウォッチはステンレス素材を使うが、本作は軽くてさびにくいチタン製だ。現在、スイス製のダイバーズウォッチで、チタン製のケースとブレスレットを持つモデルが、どれほどあるだろうか。加えてベゼルのトップはアルミではなくセラミックス素材に変更され、目盛りにはホワイトのルミネッセンスが施された。直径42㎜というケースサイズに加え、500mという高い防水性能を持つペラゴスは、決して薄い時計ではない。しかし、より軽いチタンケースと、微調整可能なバックルにより、装着感は想像以上に快適だ。今や愛好家好みの時計を作るチューダーだが、ペラゴスが示す通り、その本質は何も変わっていないのである。
さて、そのチューダーが、満を持して日本上陸を果たす。展開するコレクションはスポーティーなブラックベイシリーズとペラゴス、1970年代の歴史的なクロノグラフを再解釈したヘリテージクロノに限られるが、いずれもチューダーの魅力を体現したものばかりである。日本の消費者は、世界で最も厳しい目を持つと言われている。しかし、現代のチューダーは、間違いなく時計愛好家のお眼鏡にかなうはずだ。
(中)ペラゴスのバックルには、自動調整スプリング機構が備わる。右のドット3つは、微調整の位置を示すもの。3段階の調整が可能だ。それから先の
ドットは、無段階のエクステンションを示す。強い水圧がかかると、自動的にブレスレットは収縮する。
(右)バックルに内蔵されたエクステンション機構。これ自体は他のダイバーズウォッチに同じだが、エクステンションを支えるベアリングは、スティール製ではなく、なんとコストのかかったセラミックス製である。