(右)やや細身に仕立てられたベゼル。外周の刻みも30から40に増やされた。
ディテールを改めて見てみたい。
ムーブメントの変更に伴い、ケースの厚みは増した。対してシャネルは、ミドルケースを大きく絞り、湾曲させることで厚みを感じさせないように配慮した。古典的な手法ではあるが、裏蓋を持たない一体型ケースでは有用だ。また、ステンレススティール製のケースバックを廃した結果、より金属アレルギーが起こりにくくなったのも見逃せない。
シャスタン氏が語るコンテンポラリーとは、メリハリのある造形と解釈できそうだ。彼はそれを「リデザインにあたって、オリジナルの大胆さを生かしたかったため」と説明する。例えば、文字盤中央のデザイン。内側に施したダイヤモンドカットは細身になり、レイルウェイトラックは5分ごとの刻みが太くされた。ブレスレットも同様だ。ひとつひとつのコマは長くなり、代わりに薄く仕立てられた。そして、各コマの湾曲が強調され、装着感が改善された。弓管の中ゴマも長くなったが、腕に載せて違和感はない。
(右)「SWISSMADE」表記が文字盤上から見返しに移された。
今のシャネルらしい、そしてシャスタン氏らしいのが、細部の手の入れ方である。ここ数年、J12はディテールを改善してきたが、さらに詰まった印象を受ける。例えば時分針。旧作ではわずかに太さが異なっていたが、今や同じ太さに揃えられた。また、デイト窓の内側の処理がメッキに改められた結果、文字盤がすっきり見えるようになった。以前はデイト窓周囲のラッカーがややぼってりしていたが、今や歪みは完全にない。
インデックスも変わったように感じるのは、素材を改めたため。旧作ではデルリンを用いていたが、本作ではインデックスまでセラミック(!)となった。ボー氏曰く「あえてセラミックを使ったのは、耐久性を高めるため」。確かに、セラミック製のインデックスは退色に強いだろう。前作と違って接着による貼り付けになったが、「テストは十分行いました。耐久性はまったく問題ありません」(ボー氏)とのこと。リュウズの張り出しも、前作に比べてぐっと抑えられた。確かに大きなリュウズは、J12にスポーティーな要素を与えたが、ややもすると時計を大きく見せてしまう。そこでカボションの高さを抑えることで、全体のプロポーションを整えたのである。
オリジナルのJ12を手掛けたエリュは、かつてこう述べた。「精密さという時計業界の用語は、シャネルの製品のすべてのディテールに引き継がれた要素を表してもいる。私の仕事とは、精密さが完全なスタンダードになるべく努めることだ」
無からの創作――「エクス・ニヒロ」(ラテン語でゼロから生ずるという意味がある)を夢見た彼の願いは、いよいよ果たされたように思える。
(右)大きく絞られたケースサイド。これは1940年代から50年代に好まれた、ケースを薄く見せる手法だ。搭載するムーブメントが大きく、厚くなった結果、造形にいっそうの抑揚が与えられた。
(右)造形における大きな変更点は、弓管とラグのつながりにある。以前はフラットだったが、中心部が盛り上がるように改められた。併せて、ケースサイドも下方向に向けて、わずかに絞られた。