デジタル日付表示の最進化形
「睦月」や「如月」ではなく数字で月を表記する日本と違って、欧米では今も数字ではなく、「January」「February」といった個別の月名を用いるのが一般的だ。
時計の月表示の多くもこれに倣う。しかしIWCは、そんな通例に抗い、日付表示に加えて、月表示も2桁のデジタル表示にすることに挑んだ。
巨大なダブル表示窓がふたつ居並ぶ様子は、なんともモダン。窓の大きさは大型ケースによる広々としたダイアルでカバーし、モダンな印象を高める。さらに大型ディスクを切り替えるためのパワーを蓄えるメカニズムによって、永久カレンダーの表示を大きく革新した。
ディスクで力を蓄えてディスクを動かす
ふたつのインダイアルは、上は分・時同軸の積算計で下は小秒針。ベースとなる自社製クロノグラフは、フライバック機構も備える。裏側から見られる自動巻きローターは名機スピットファイアをかたどる。自動巻き(Cal.89801)。51石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約68時間。18KRG(直径46mm)。6気圧防水。536万5000円。
自社製クロノグラフにふたつのデジタル表示を持つ永久カレンダーモジュールを積む。そのモジュールの輪列は、カレンダー先送りリングの上に円形に構築される。円形の輪列の12時位置に月の大小を判別する月カムを置き、その情報は3時と8時位置にある月と日付の各プログラム歯車に伝達されて、それぞれ2枚のディスクを正確に送る。
堂々たる46㎜径のケースは、開口部も広く、ゆったりとしたダイアル上に、ふたつの大きな2桁表示窓が余裕を持って配置されている。右側は月表示、左側が日付表示。さらに6時位置にはリープイヤー表示の小窓があって、このモデルが永久カレンダーを搭載しているのだと分かる。
1985年に登場したダ・ヴィンチは、クロノグラフに永久カレンダーを載せた時計史に残る名作だ。モジュールの設計者はクルト・クラウス氏。その7〜8時位置には、4桁の数字による西暦表示が備わって堂いた。以来、IWCは永久カレンダーを得意とし、多様なデジタル表示に挑んできた。「パーペチュアル・カレンダー・デジタル・デイト/マンス」は、その最新型だ。
これまで月表示を備える時計のほとんどは、日付との混同を避けるために数字ではなく、月名が用いられてきた。それ故、多くは月表示の視認性を犠牲にしてきた。対してIWCは、月表示を数字、つまりはデジタル表示とすることで巨大化したのだ。日付と月の各表示窓の下には、それぞれプレートを置き、数字の混同を防いでいる。ふたつのデジタル表示が居並ぶ様子は、永久カレンダーの外観を一層モダンにする。だからだろうか? ふたつのプレートの存在も、スポーティーな大型ケースに収められているのも、まったく違和感がない。
日付も月も、表示にはそれぞれ2枚のディスクが用いられている。日付表示は10の位のディスクを右側に置く。そのディスクに開けた穴から1の位の数字が姿を現す仕組み。一方、月表示は、2枚のディクを用いているが、実際に2桁が必要な10〜12月の表示は左側のディスクのみで表示する。1〜9月は左のディスクは0を表し、その脇の窓から右側のディスクの数字だけが順に切り替わってゆく。つまり、月表示ディスクは、月の大小を判別しながら右のディスクが9カ月分を順に進み、その間、左のディスクは止まったままで、10月以降の3カ月間だけを月の大小に合わせて切り替わるのだ。この複雑なディスクの動きは、円形に構築された永久カレンダー輪列の3時位置にある月プログラム歯車で制御される。さらに、この歯車の下には、クイックアクション・スイッチが噛み合っている。これはゼンマイを備えるレバーを持ち、日付表示ディスクが切り替わる動きを利用し、カムを通じて1カ月にわたって徐々にパワーを蓄え、月替わりの瞬間に一気に放出する。月表示ディスクをこれで動かすのだ。長いレバーがてこの原理で歯車を引き回すから、小さなゼンマイに蓄えたわずかなパワーでも、年始には閏年表示ディスクも含め最大5枚のディスクを同時に切り替えるにも十分。ふたつの2桁デジタル表示は、ムーブメント本体のトルク落ちを最小限に抑える工夫が巧みだ。
ETA7750をベースに自社製の永久カレンダーモジュールを載せ、1985年に誕生。グレゴリオ暦における400年単位の閏年周期もプログラミングされ、西暦2400年代まで調整不要な傑作だ。7時~8時位置にある4桁の西暦デジタル表示も世界初の機構であった。さらに、リュウズによるカレンダーの早送りも、いち早く実現していた。
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