ハード+ソフト、“上昇スパイラル”のソフト側から未来を想像してみよう
コンピューターの歴史は、パソコン、スマートフォンのふたつのジャンルで、黎明期に同じようなサイクルで進化をしていた。
デバイス(ハードウェア)がソフトウェアと用途を生み出し、そのソフトウェアがより新しいデバイスの登場を要求する。そして新たなデバイスがエンジニアを刺激し、さらなるソフトウェアや用途を生み出していく。
かつてインテルCEOだったアンディ・グローブ氏は、この上昇サイクルを“スパイラルの論理”と呼び、「ただ高速なだけのプロセッサー開発だけに特化することに、どれほどの価値があるのか」という当時のアナリストの質問を一蹴していた。
無論、どのような商品ジャンルにも成熟期はあるが、まさにスマートウォッチというジャンルは今、上昇スパイラルによる浮上が加速したタイミングにある。
今回のWWDCで発表されたのは、watchOS 6の中でも、既存のApple Watchに組み込むことで変化する部分のみだが、それだけでも近い将来を見通せる部分がある。
watchOS 6を従来製品に適用するだけでも……
watchOS 6に関して明らかになったポイントは、大きくふたつある。
ひとつ目は、アップルが健康とフィットネスに対して、従来以上に深くコミットした開発を行っていること。Apple Watchを通じて生活習慣やバイタルのさまざまな情報を集め、それをクラウドなどにアップロードすることなく、デバイス内で完結するかたちで健康に生かそうとしている。
収集した情報は暗号化した上で、クラウドのストレージにいったん保存はするが、それらを分析し、ユーザーに適切な形で見せるのは“コンピューターの仕事”。つまりこれらは個人情報でもあるため、クラウドでは何もさせないということだ。
一方で暗号化された情報は(自分が所有する)デバイス上で共有できるため、より大きな画面を持つiPhoneで、生活習慣やバイタルの細かな分析がチェックできるようになる。そのため、iPhone側の機能も改良される予定だ。
これらバイタル、生活習慣、そしてエクササイズの統計情報を適切に見せる機能は、一部のスポーツウォッチからユーザーを奪う可能性もありそうだ。多くのスポーツウォッチはクラウドの力を借りているが、watchOS 6はApple Watch、iPhoneの中だけで完結した機能を提供する。
健康につなげるアプローチは王道であるが、腕時計という身近なデバイスだからできること。その部分をアップルは徹底して改良してきたのだ。
また、Apple Watchはこれまでにも心電図計測(日本ではまだ認可が下りていない)や心雑音、不整脈、転倒検出などの機能を盛り込んでいたが、watchOS 6では周囲の騒音レベルを自動計測し、聴力や認知に影響を与える可能性がある場合はユーザーに通知する機能が盛り込まれる。
また女性向けにはCycle Trackingという月経周期に関する情報を記録、アドバイスするアプリケーションが提供される。過去の生活習慣と実際の月経サイクル、月経血や症状、多くの徴候を記録出来るようになっており、それらを機械学習して次の月経と妊娠可能な期間を予測できるという。