美を求めて進化するケース革命

2021.02.19

OMEGA×セラゴールド

近年、急速に普及したのが、軽くて頑強な素材、セラミックスである。しかし、この素材は印字を施すのが極めて難しい。色を埋め込んでも簡単に剥がれる。かといって、メッキを施すのも不可能だ。各メーカーはさまざまな手法に取り組んできたが、その決定打といえるのが、今年、オメガが発表した「セラゴールド」だろう。電気を通さないはずのセラミックスに皮膜を施す。それを可能にしたのは、セラミックスにPVD処理を施すというまったく新しいアプローチであった。

シーマスター プラネットオーシャン セラゴールド クロノグラフ

シーマスター プラネットオーシャン セラゴールド クロノグラフ
セラゴールド製のベゼルを備えた新作。印字が難しいセラミックス上にPVD+皮膜処理でゴールドを生成している。自社製新型自動巻きクロノグラフムーブメントのCal.9301搭載。ヒゲゼンマイはシリコン製。自動巻き。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(直径45.5mm)。600m防水。286万6500円。

PVD処理が拓いたセラミックス素材の新たな可能性

 今年発表された新技術の中で、あまり注目されなかったが、しかし大きな可能性を持つものがあった。それがオメガの「セラゴールド」である。セラミックス製のベゼルにゴールドの印字を埋め込んだだけ、と言ってしまえばそれまでだが、セラミックスに印字を施す手法としては、最も優れたものと言ってもいいだろう。

 軽くて頑強なセラミックスは、外装の素材にはうってつけである。そのため、多くの時計メーカーがこの素材を外装に用いるようになった。とりわけ、ダイバーズウォッチのベゼルは、ここ数年でことごとくセラミックスに置き換わったといっても過言ではない。

 かつて、ダイバーズウォッチの回転ベゼルは、ほとんどがアルミニウム製だった。耐食性には難があるものの、印字のプリントが容易で、かつ軽かったためである。使ううちに退色したが、その場合は交換すればいいというのがメーカー側の見解であった。これはオメガも例外ではなかった。

 しかし、外装の質感が向上するにつれ、アルミニウム製のベゼルリングは、いかにも質感が見劣りする。各メーカーが、軽く頑強なセラミックスを回転ベゼルに使おうと考えたのは当然だろう。だが、セラミックスのベゼルに差し色を施すのはかなり難しい。あるメーカーは、目盛りの部分をブラスト処理し、その中に色を埋め込んだ。一見、良く出来ているが、使っているうちに間違いなく色は剥がれてくるだろう。なお、半乾燥のセラミックスにプラチナの印字を埋め込むことで、両者の食いつきを改善したのがロレックスの「セラクロム」である。極めて優れた手法だが、汎用性があるとはとても思えない。

 では、セラミックベゼルの目盛りをどうやって処理するのか。各社の模索が続く中、今年のオメガは極めて優れた解決策を発表した。それがセラミックスのベゼルにPVD処理を施し、その上に金の皮膜を重ねるセラゴールドという手法である。セラミックスという素材は、そもそも電気を通さない。そのため、メッキや皮膜を施すのは困難を極めた。しかし、下地に導電層があれば皮膜処理は難しくない。オメガはセラミックスの上にPVDで導電層を形成するという試みに挑戦。その結果、セラミックベゼル上に皮膜を施せるようになった。電気鋳造の槽で皮膜を重ねていくと、リングの表面と目盛りのくぼみに18Kレッドゴールドの厚い膜が生成される。後で表面の膜を取り除くと、くぼみの部分にのみ18Kレッドゴールドが残るというわけだ。

「高価なモデルだから実現できた手法だ」という意見も聞いた。しかし、皮膜の素材が貴金属である必要は何ひとつない。PVDで導電層を形成し、その上に皮膜を施すという手法は、皮膜の素材さえきちんと吟味できるならば、より安価なモデルへの応用も十分可能だ。今後、オメガは、間違いなくこの手法をほかのモデルにも転用するだろう。

オメガ セラミックベゼルの製造プロセス

セラミックスの原料となる酸化ジルコニウムと結合材。このかたちでサプライヤーから納入される。

金型に注入され、約1400℃で焼結された状態のセラミックベゼル。粒が結合することで、ベゼルの形となる。24時間かけて、この形に焼結される。

ベゼルの上に目盛りを彫りこむ工程。レーザーによって、ベゼルの表面に刻印を施していく。ひとつのベゼルを仕上げるのに必要な時間は約30分。硬い素材のセラミックスだけに、非常に手間のかかるプロセスだ。

セラミックベゼルの上に、PVD処理によって導電層を形成するプロセス。これによって、絶縁体であるセラミックスに電導性を与え、セラミックス上に皮膜を重ねていくことが可能になる。

導電層を形成したベゼル上に皮膜を施す工程。レーザーで彫られた刻印の深さは0.1mm。約48時間かけて、PVD処理を施したセラミックベゼルの表面と刻印に18Kレッドゴールドの皮膜を施していく。

メッキ槽から引き上げ、全体に18Kレッドゴールドの皮膜が施されたベゼル。

ベゼル表面のレッドゴールドを除去する作業。ブラスト素材で機械的に表面のレッドゴールドを取り除いていくと、レーザーで刻印されたくぼみの部分にのみレッドゴールドが残る。

ベゼルにポリッシュを施し、セラミックスに光沢を与えた後、最後にブラスト素材でレッドゴールドにサテン仕上げを施す。この作業によって、ベゼルの印字がクリアに出る。オメガは、2007年にセラゴールドの開発に着手したが、プロセスがかなり複雑なためか、発表までに5年を要した。

Contact info: オメガお客様センター Tel.03-5952-4400