OMEGA×セラゴールド
近年、急速に普及したのが、軽くて頑強な素材、セラミックスである。しかし、この素材は印字を施すのが極めて難しい。色を埋め込んでも簡単に剥がれる。かといって、メッキを施すのも不可能だ。各メーカーはさまざまな手法に取り組んできたが、その決定打といえるのが、今年、オメガが発表した「セラゴールド」だろう。電気を通さないはずのセラミックスに皮膜を施す。それを可能にしたのは、セラミックスにPVD処理を施すというまったく新しいアプローチであった。
セラゴールド製のベゼルを備えた新作。印字が難しいセラミックス上にPVD+皮膜処理でゴールドを生成している。自社製新型自動巻きクロノグラフムーブメントのCal.9301搭載。ヒゲゼンマイはシリコン製。自動巻き。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(直径45.5mm)。600m防水。286万6500円。
PVD処理が拓いたセラミックス素材の新たな可能性
今年発表された新技術の中で、あまり注目されなかったが、しかし大きな可能性を持つものがあった。それがオメガの「セラゴールド」である。セラミックス製のベゼルにゴールドの印字を埋め込んだだけ、と言ってしまえばそれまでだが、セラミックスに印字を施す手法としては、最も優れたものと言ってもいいだろう。
軽くて頑強なセラミックスは、外装の素材にはうってつけである。そのため、多くの時計メーカーがこの素材を外装に用いるようになった。とりわけ、ダイバーズウォッチのベゼルは、ここ数年でことごとくセラミックスに置き換わったといっても過言ではない。
かつて、ダイバーズウォッチの回転ベゼルは、ほとんどがアルミニウム製だった。耐食性には難があるものの、印字のプリントが容易で、かつ軽かったためである。使ううちに退色したが、その場合は交換すればいいというのがメーカー側の見解であった。これはオメガも例外ではなかった。
しかし、外装の質感が向上するにつれ、アルミニウム製のベゼルリングは、いかにも質感が見劣りする。各メーカーが、軽く頑強なセラミックスを回転ベゼルに使おうと考えたのは当然だろう。だが、セラミックスのベゼルに差し色を施すのはかなり難しい。あるメーカーは、目盛りの部分をブラスト処理し、その中に色を埋め込んだ。一見、良く出来ているが、使っているうちに間違いなく色は剥がれてくるだろう。なお、半乾燥のセラミックスにプラチナの印字を埋め込むことで、両者の食いつきを改善したのがロレックスの「セラクロム」である。極めて優れた手法だが、汎用性があるとはとても思えない。
では、セラミックベゼルの目盛りをどうやって処理するのか。各社の模索が続く中、今年のオメガは極めて優れた解決策を発表した。それがセラミックスのベゼルにPVD処理を施し、その上に金の皮膜を重ねるセラゴールドという手法である。セラミックスという素材は、そもそも電気を通さない。そのため、メッキや皮膜を施すのは困難を極めた。しかし、下地に導電層があれば皮膜処理は難しくない。オメガはセラミックスの上にPVDで導電層を形成するという試みに挑戦。その結果、セラミックベゼル上に皮膜を施せるようになった。電気鋳造の槽で皮膜を重ねていくと、リングの表面と目盛りのくぼみに18Kレッドゴールドの厚い膜が生成される。後で表面の膜を取り除くと、くぼみの部分にのみ18Kレッドゴールドが残るというわけだ。
「高価なモデルだから実現できた手法だ」という意見も聞いた。しかし、皮膜の素材が貴金属である必要は何ひとつない。PVDで導電層を形成し、その上に皮膜を施すという手法は、皮膜の素材さえきちんと吟味できるならば、より安価なモデルへの応用も十分可能だ。今後、オメガは、間違いなくこの手法をほかのモデルにも転用するだろう。
オメガ セラミックベゼルの製造プロセス
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