騒音をモニターすることで聴覚への影響を警告
前回の発表記事でも紹介したように、アップルはApple Watchの価値として「ユーザーの命や健康を護る」という開発の軸を明確に持つようになった。その決意のひとつとして垣間見えるのが、上記の国際ローミングにも対応する契約なしの緊急通報機能だ。
アップルは当初、Apple Watchがここまで人々の健康に深く根差した製品になるとは考えていなかったという。ところがセルラーモデルを発売してからは、Apple Watchによって緊急連絡ができ、結果的に命が助けられたり、心拍を継続的に計測するようになると異常を検出してアドバイスを送ることで、同様に病気の発見を助けたりといった事例が生まれきた。
それらはアップル自身というよりも、医療機関やユーザー自身からの声としてApple Watchに向けられているものだ。彼らが米国のさまざまな医療機関、大学と連携して、研究機関とユーザーの間で健康管理データの仲介を行うアプリを提供するようになったのも、そうした流れによるものだ。
研究機関がApple Watchユーザーが提供する活動データや心拍データなどを収集し、何らかの形でユーザーの価値に転換できるようになれば、アプリとしてwatch OSに組み込んでいく。
すでにその一部は、月経周期に関連したアドバイスを提供するアプリ(残念ながら筆者はこのアプリのレビューはできないが)や、周辺ノイズの環境をモニターすることで聴覚異常へと発展する可能性のある騒音を浴びていることを警告するアプリなどとしてApple Watchに追加されている。
日本での心電図計測機能は、いまだ厚生労働省の認可は下りていないが、そうした電気的に計測する機能を除けば、米国での“Study”の成果は今後も順次提供され続けるだろう。
“常時点灯”の実用度
さて、実際の使用感と言えば、基本的にはseries 4からの大きな変化はない。しかし、電子コンパスが搭載されたことで地図機能の使い勝手が明らかに上がった。これまでもスマートフォンの地図を補助する使い方として、Apple Watchは有益なデバイスだった。
曲がるべき交差点に差し掛かると振動で知らせてくれ、どちらに曲がるかを教えてくれるなどの連動があったからだ。しかし、電子コンパスが内蔵されたことで、スマートフォンの画面を開かなくとも、自分がどこに向かっているのかわかるようになった。これは単純に便利だが、やはり多くの読者は“常時点灯”がどのような体験の変化をもたらすかに興味があるのではないだろうか。
時計がアクティブな状況ではseries 4と同じように動作し、スリープ時にディスプレイが1Hzの低速書換モードになるとともに明るさを抑え、ダーク系の盤面デザインへと転換することは前回のコラムでお伝えした。
常時点灯となることで、プライベートな情報がすぐ横にいる人などに観られるのでは? という心配もあるだろうが、実は盤面以外……つまりアプリなどが情報を表示しているときにスリープすると、画面全体にボカしが入り、その上に数字で時刻が表示される。プラバシーを損ねずに、実用度だけ高まった訳だ。
こうしたディスプレイウォッチでの常時点灯はApple Watchが初めてではない(サムスンがすでに実装していた)が、打ち合わせ時、相手に気を使わせずに時刻を確認できる、といった腕時計としてはごく当たり前の機能がやっと実現できる。
また、ランニングや自転車などでバイタルや走行距離のチェックなどをしたい場合や、水泳など腕を上げる動作がしにくいスポーツでは常時点灯は使い始めると、二度と元には戻れない。
一方で省電力化に取り組んだ成果だろう。series 4とのバッテリー駆動時間の差違は特に感じなかった。なお、Apple Watchを「シアターモード」にすれば、スリープ時に画面は完全消灯される。
新たなベンチマークとなったseries 5
次の注目は、“いつiPhone以外で使えるようになるのか”
series 5がスマートウォッチの新たなベンチマークになることは間違いないが、iPhoneの機能とタイトに統合され、あらゆる機能が有機的に連動するApple Watchは、iPhone以外とのペアリングを許していない。
たとえば決済機能のApple Payひとつとっても、Androidスマホとは連動できないことは明らかだし、通知機能も微妙な実装の違いなどを吸収せねばならない。
しかし、アップルはwatchOS 6に、Apple Watch専用のAppStoreを実装した。従来はiPhone用アプリをインストールすることで、連動するApple Watch用アプリが導入される親子関係が必要だったが、すでにその制約はない。
完全な連動は難しいとしても、非iPhoneでApple Watchを使えるようにする準備は進んでいるように思える。近い将来、watchOSのAppStoreが充実したならば、そのときが“iPhone以外”にもApple Watchを解放するときなのかもしれない。
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。