高級時計が製造されるまで〜パルミジャーニ・フルリエを支える工房〜(ムーブメント編)

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2020.11.09

ムーブメント製造の旗艦、ヴォーシェ

 2003年にサンド・ファミリー財団によってパルミジャーニ・フルリエのウォッチメイキングセンターの旗艦部分として再編されたヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエは、200名強の従業員のうち約150名が主にパルミジャーニ・フルリエの自社製ムーブメント作製に従事している。

 同時にヴォーシェ製モジュールの完成品供給先リストには、リシャール・ミルのような素晴らしいブランドが数多く名を連ねる。そしてそのうちのひとつが、ラ・モントル・エルメスであり、その親会社のエルメスはヴォーシェの資本の一部を保有している。

 パルミジャーニ・フルリエの熱心なファンであればご存知のように、工房見学時に筆者が着用していたトリック エミスフェール レトログラードに装備されている着け心地の良いアリゲーターストラップは、エルメスが供給している。つまりストラップはウォッチメイキングセンター所属の会社製ではなく、エルメスのスイスの皮革工房からの供給なのである。

 時計製造の歴史の長い町で創業されたヴォーシェ。その本社はボヴェやショパール、リシュモンのムーブメント製造拠点、ヴァル フルリエなどの同業他社に囲まれている。

ヴォーシェ

パルミジャーニ・フルリエのムーブメントは、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエで開発、組み立てが行われる

 ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエとして派生した会社は、サンド・ファミリー財団によるパルミジャーニ・フルリエというブランドに対する投資が最初に行われた1996年にスタートしている。だがヴォーシェという名称とその歴史は18世紀、ヴォーシェ一族がフルリエの比較的小さなサイズの時計メーカーとして名を知られるようになったころに端を発し、後にイギリスのジョン・ハリソンと組んで近代時刻測定の父となったフェルディナンド・ベルトゥーを含む多くの見習工を、時計作りの中で育ててきた。

 ヴォーシェはパルミジャーニ・フルリエが使用した、Cal.PF110をそれまでほとんど見られなかった約8日間のパワーリザーブを有した角形ムーブメントとして98年に世に送り出し、その後2002年には完全自社製を果たした自動巻きCal.PF331を開発している。

トリック エミスフェール レトログラードはCal.PF317を搭載

 トリック エミスフェール レトログラードが内包するムーブメント、Cal.PF317は、上記のキャリバーの後継機で、メインのムーブメントに組み込まれたモジュールで第2時間帯を司る。ムーブメント本体がモジュールにオフセットされている、そのデザインは実に独創的だ。

 第2時間帯を司るモジュール機能はケースの2時位置にあるリュウズを引くことで、メインのムーブメントから動力を切り離すことができる。これによって、サブダイアルの第2時間帯の単独調整が可能となった。なお、この単独調整時の時差設定は15分や30分、1分単位で行うことができる。

 リュウズを押し込むと、モジュールはメインムーブメントとまた同期する。つまりホームタイムまたは任意の時間帯と同時に稼働するようになるのだ。蛇足だが、スイスに1週間以上滞在していると、このようなコンプリケーションの有用性がよく認識できる)

 現段階でヴォーシェが生み出した自社製ムーブメントは、ここ20年強の間に33以上に上る。そして、パルミジャーニ・フルリエだけがヴォーシェが自社で提供する50以上もの時計作りの行程全てを享受している。

ヴォーシェ

デジタルデザインが3Dプリンターによるプロトタイプを生み出し、最終製品化へとつながる。

 その中には3Dプリンターによるプロトタイプの作製、ブリッジのレーザーカッティング、地板やその他のパーツ製作、CNC旋盤による真鍮からジャーマンシルバーに至る素材の加工、針の製作と取り付け、人工ルビーの手作業による取り付け、機械及び人の手によるパーツの仕上げなどが含まれる。パルミジャーニ・フルリエのムーブメント誕生においては、忍耐力こそが美徳であり、最初のアイデアから実機製作まで、デザイン工程で1年、プロトタイプ作製に1年、試作に1年、そして生産ラインに乗せるのに2年と合計で5年もの歳月を要することもある。

マニュファクチュールの垂直統合はなお続く

 技術的なサヴォワフェールは、もちろんヴォーシェの能力の一部でしかない。装飾技法には、Cal.PF317の地板やブリッジを魅力的に飾るヴォーシェ独自のコート・ド・ジュネーブやペルラージュ、ソリッドゴールド製ローターに施されるバーリーコーン模様のギヨシェなどが含まれる。なお、アトカルパが供給する2万8800振動/時の脱進調速機を含めた全てが、2台のCLA(Clinical Laboratory Automation S.A.)の機械を用いて、時間計測の精度を検査される。

 一方、現代のオートオルロジュリ業界における他のウォッチメーカーも、パルミジャーニ・フルリエのウォッチメイキングセンターに属する5つの会社が提供する、技術の恩恵に預かってきた。

 GPHGのトラベルウォッチ賞を受賞したタイムピースとパルミジャーニ・フルリエのポートフォリオに所属する多くの関係者こそが、その才能を結集させた集団と全ての中心に位置する時計師ミシェル・パルミジャーニを、最も純粋に分かりやすく伝えている。

 ヴォーシェで私を案内してくれたスタッフによると、垂直方向の統合は現在も進行中であり、ケースへのダイヤモンドのジェムセッティングが次のステップとなっているという。同時にヴォーシェの4年間の見習い研修制度は次世代の時計師を育て、ブランド創業者の時計作りの夢を実現させていき、おそらく更なるGPHGの賞をフルリエにもたらすであろう。

トリック エミスフェール レトログラード

パルミジャーニ・フルリエ「トリック エミスフェール レトログラード」
GPHG2017においてトラベルウォッチ賞を獲得。自動巻き(Cal.PF317)。28石。2万8800振動。パワーリザーブ約50時間。18KRG(直径42.8mm、厚さ11.9mm)。30m防水。310万円(税別)。

Contact info: パルミジャーニ・フルリエ Tel.03-5413-5745