時計を所有する者にとって、そのコレクションに特別感を増す要因となるものはなんであろう? そのひとつにムーブメントを飾る仕上げが挙げられる。特にそれが手仕上げによるものであれば、格別であり中でもA.ランゲ&ゾーネの装飾は群を抜いている。ここではザクセンのマニュファクチュラーの、定評ある装飾仕上げを見ていきたい。
Written by Jens Koch
2020年3月掲載記事
手仕上げのエングレービング
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手巻き(Cal.121.1)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWG(直径38.5mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。
テンプ受けに施されたエングレービングはグラスヒュッテのウォッチメーカーであることの特徴だ。ドイツ時計のメッカと呼ばれる彼の地で、現在もその技術を習得し実践しているブランドは数社に限られる。このテンプ受けに施される装飾は通常、花をモチーフとしたものが用いられ、中にはゴールドのインレイが施される。ランゲ1の25周年記念モデルには、エングレーバーがA.ランゲ&ゾーネの有名なビッグデイトに用いられるフォントを使って25の数字を彫り込み、そこにアニバーサリーカラーのブルーをあしらっている。テンワのカバープレートは数種類のダイヤモンドパウダーで加工されたやすりの上を8の字を描くようにして仕上げられる。この作業だけで約2時間もの時間が割けられる。
サンバースト仕上げ
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手巻き(Cal.L043.8)。70石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWG(直径44.2mm、厚さ12.3mm)。987万円(税別)。
グラスヒュッテのサンバースト仕上げは、この地に特有な仕上げのひとつであり、ラチェットホイールとクラウンホイールに用いられる。サンバースト仕上げは、中央から外周へ広がるような線の効果だが、一般的なサンバースト仕上げと異なり、線は直線的な広がりではなく弧を描くような形となっている。仕上がりの線は一直線又はいくつかの部分に分かれたような印象となり、どちらのサンバースト仕上げも、照明によって表面から円状の模様が浮かび上がる。グラスヒュッテのサンバースト仕上げは、対象となる時計とホイールが、製造工程にある中で施される。ツァイトヴェルク・デイトのムーブメントでは、プレート上に波状に見えるグラスヒュッテの線のパターンが施されている。
ネジ留めシャトン
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手巻き(Cal.L102.1)。20石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Pt(直径39.5mm、厚さ11.3mm)。
ゴールドシャトンは、軸受け石を留めるのに使用される。もともとは歯車やピニオンの垂直性を調整する重要な意味合いを持っていたが、現在では、より装飾性の方に重点が置かれている。ネジ留めのゴールドシャトンは、非常にハイエンドな時計にのみ用いられる技法である。シャトンのポリッシュ仕上げや、使用されているネジが全て同じブルーのトーンにそろうように青焼きを入れ、全体を組み上げることにどれだけ時間がかかるかを想像するだけでその理由が分かるであろう。1815トゥールビヨンのテンプ受けの石にはダイヤモンドが使用されており、これもA.ランゲ&ゾーネの複雑時計に見られる特徴のひとつである。
レリーフエングレービング
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手巻き(Cal.L101.1)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KWG(直径41.9mm、厚さ15.8mm)。
A.ランゲ&ゾーネは、また別の装飾技法をハンドヴェルクスクンストの限定スペシャルエディションに用いている。エナメル文字盤にあしらわれた星を想起させるレリーフエングレービングがブリッジに施されているのだ。それに加え、懐中時計のようにブリッジ表面のグレインフィニッシュには、トランブラージュ彫りの技法が採用されている。またこのモデルには、主ゼンマイやヘアライン仕上げが施されたレバーなど多くのスチール製パーツを採用されているが、それらにもブリッジや地板同様、(正確に45度の角度をつけて)面取りとポリッシュ仕上げが手仕上げで施されている。その理由は、機械での仕上げでは入角の部分を適正なアングルを持って処理できないからである。
Contact info: A.ランゲ&ゾーネ Tel.03-4461-8080
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