[総論] 優れたメタルブレスレットの条件とは?

スポーティーウォッチが注目されるようになった現在、各社はブレスレットの改良に努めるようになった。この流れは間違いなく加速していくだろう。事実、価格帯を問わず、新作の多くは凝ったブレスレット付きだ。しかし、優れたブレスレットが、その人にとっての好きなブレスレットとは限らないのもまた事実である。

オクト フィニッシモ オートマティック

オクト フィニッシモ オートマティック

ブルガリ「オクト フィニッシモ オートマティック」
現行品で最も装着感の良い時計のひとつ。軽さ、低重心、ビルトインされた極薄のバックルなど、着け心地を良くするあらゆる条件を満たしている。自動巻き(Cal. BVL138-フィニッシモ)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ti(直径40mm)。30m防水。152万2000円。問/ブルガリ ジャパン☎03-6362-0100

 着け心地を追求するピューリタンならば、ヘッドとテールの軽いブレスレットウォッチを腕にきつく巻けば、きっと満足できるに違いない。一部の時計好きに、プラスティック製の風防と、お世辞にも出来がいいとは言えない、ひと昔前のジュビリーブレスを備えたロレックスの「オイスター パーペチュアル」が好まれる所以だ。しかし、こういった軽い時計は、ラフに使うことが難しい。各メーカーは見栄えと実用性のためにヘッドを重くし、最近になってようやくヘッドとテールのバランスを回復していったことは、先述した通りだ。

J12

J12

シャネル「J12」
ケニッシ製の自動巻きを載せた新しいJ12。ケースの厚みはわずかに増したが、軽さと、ヘッドとテールの適切なバランスがもたらす優れた装着感は不変だ。自動巻き(Cal.12.1)。28石。2万8800振動/時。高耐性セラミック(直径38mm)。200m防水。63万2500円。問/シャネル カスタマーケア Tel.0120-525-519

 ここに挙げる4本は、完全ではないものの、優れた装着感を持つブレスレットウォッチの好例だ。IWCの「アクアタイマー」はややトップヘビーだが、いずれも重さのバランスに優れ、かつブレスレットの左右の遊びとしなりが適切で、バックルの厚みも過剰ではない。軽い時計、そしてデスクワークに向く時計ばかりが揃ったのは筆者の好みだが、もちろん重い時計にも、カルティエ「サントス」、ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ」といったバランスに優れた例はある。

ザ・シチズンキャリバー0100 AQ6021-51E

ザ・シチズンキャリバー0100 AQ6021-51E

シチズン「ザ・シチズンキャリバー0100 AQ6021-51E」
年差±1秒を誇る超高精度時計。ブレスレットは標準的なCリング連結だが、左右の遊びは適切で、バランスも良好だ。光発電エコ・ドライブ(Cal.0100)。17石。838万8608Hz。フル充電時で約8カ月駆動(パワーセーブ作動時)。スーパーチタニウム(直径37.5mm、厚さ9.1mm)。5気圧防水。世界限定500本。80万円。問/シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807

 もっとも、優れたブレスレットを探す場合、ヘッドとテールのバランスや、ブレスレットの遊びやしなりを見る以上に、持ち主がどういう着け方をするのか、どんなシチュエーションで使うのかが、より重要になってくる。

 例えば、時計をゆるく着けたい人は、ブレスレットの遊びやしなりよりも、ヘッドとテールのバランスが気になるだろう。一方で、きつく着けたい人は、ヘッドとテールのバランスがおかしくても違和感は覚えにくいはずで、見るべきは、ブレスレットの遊びとしなりになるはずだ。遊びとしなりを強調する筆者は、明らかに後者である。

アクアタイマー・オートマティック

アクアタイマー・オートマティック

IWC「アクアタイマー・オートマティック」
1990年代から、完全に分解できるブレスレットを採用してきたIWC。ヘッドのボリュームに比して、ブレスがやや薄いのは気になるが、コマ数を減らし、エクステンションを省いた頑強なブレスレットを持つ。自動巻き(Cal.30120)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径42mm)。30気圧防水。68万5000万円。問/IWC Tel.0120-05-1868

 薄いバックルは、ビジネスシーンで使う人には向いている。しかし、時計をラフに使う人にとっては、故障の原因でしかないだろう。最近、流行りつつあるエクステンション付きのバックルは大変優れているが、デスクワークの邪魔にならない薄いものを探すのは難しい。ある人にとっての優れたブレスレットが、別の人にとっての解になるとは限らないのがブレスレット選びの難しさ、と言えそうだ。もしあなたが、自分にとっての最適解を追求したいなら、今までに挙げた条件と、自分の使う状況を踏まえて、実物を触ってみる以外に方法はないのである。

 もっとも個人の好き嫌いはさておき、各社がよりいっそう〝優れた〞ブレスレットを作ろうとすることは間違いない。事実、ブルガリ時計部門の責任者になったアントワーヌ・パンは「サステナビリティを考えると、ブレスレットは増えてくる」と予測する。しかし、優れたブレスレットを作ろうとする各メーカーは、今後ふたつの課題に直面するだろう。ひとつは、インターチェンジャンブルの普及である。簡単にブレスレットやストラップを替えられるのは確かに便利だが、長期の使用でガタが出ないのかは、まだ誰も経験していない。

 そしてもうひとつが、リテーラーの問題である。重くて頑強なブレスレットはヘッドとのバランスを大きく改善したが、リテーラーにとって、コマ調整がしにくい代物になったことは否めない。ある時計メーカーのプロダクトマネージャーは、自社のブレスレットのプアさを認めたうえで「デューティーフリーショップでも販売する以上、凝ったネジ留めの採用は難しい」と漏らした。

 では、このふたつの課題を踏まえたうえで、各メーカーはブレスレットをどう進化させるのか。この10年、高級時計で見るべきは、ムーブメント以上に、メタルブレスレットの良し悪しとなるのかもしれない。


【アイコニックピースの肖像】IWC/アクアタイマー

https://www.webchronos.net/iconic/34934/