MB&Fの創立者マキシミリアン・ブッサーは大胆で挑戦的な時計作りで知られるが、2020年10月に発表されたこの新作がおそらく過去最強ではなかろうか。粉末状では自然発火することで知られ、機械加工が困難とされてきたジルコニウムをケース素材に用いた「レガシー・マシン パーペチュアル エヴォ」だ。しかしブッサーと彼の「フレンズ」たちの手にかかれば、ジルコニウムの採用も、言及すべき側面のただひとつとなる。
Text by Mark Bernardo
(2020年11月10日掲載記事)
MB&F「レガシー・マシン パーペチュアル エヴォ」
ジルコニウムはステンレススティールよりも軽く、チタンよりも耐久性に優れた銀白色の金属だ。前述した可燃性の危険があるものの、低アレルギー性で抗菌性が高く、生物医学への応用においては重宝されている。「レガシー・マシン パーペチュアル エヴォ」のケースのデザインは、ベゼルのない構造が特徴だ。従来のレガシー・マシン パーペチュアルよりもデザインの開放感を高めることが狙いであるが、これをかなえるために、高さと直径の比率を抑えつつも強度を維持できるようサファイアクリスタルの形状は新たに計算された。また、サファイアクリスタルとジルコニウムケースは高度な熱接合の技術を用いて融着された。
パーペチュアルカレンダーを調整するためのプッシャーは、押し感の良さと操作性向上のために、従来の丸形から、より大きな長方形へと変更されている。また本機はMB&Fの時計で初めて80mの防水性能をねじ込み式リュウズの採用により実現した。
本機のもうひとつの新要素は、ケースとムーブメントの間に据えられた「フレックスリング」と呼ばれるリング状の緩衝装置だ。これは垂直・横方向からの大きな衝撃を吸収する役割を持つ。
581点のパーツから構成される手巻きムーブメントは、アイルランド出身の独立時計師、ステファン・マクドネルの協力を得て再設計された。特筆すべきは、従来のパーペチュアルカレンダーとは異なる仕組みだ。一般的なシステムのように31日の月を「デフォルト」として使用し、短い月の不要な日数を早送りするのではなく、28日の月(閏年ではない2月)をデフォルトとして使用し、必要に応じて余分な日数を追加する方法が採用されたのだ。また従来のパーペチュアルカレンダー機構は、日付の変更中に誤って調整が行われると簡単に破損する可能性があったが、本機ではカレンダーの変更中に調整プッシャーが自動的に使えなくなる。このような方法で、パーペチュアルカレンダーに関するリスクの回避策が採られた。
文字盤側に備えられた直径14mmの大きなテンプは、ケースバック側にある脱進機につながり、テンプの背後にはサブダイアルが重なるように配されている。12時位置にはアーチ状のブリッジに囲われるように時分表示のダイアルが取り付けられた。また表からは見えない鋲で留められたオープンワーク仕様の3つのサブダイアルは、3時位置から時計回りに曜日、月、そして日付の表示を担っている。4~5時位置の弓状の表示はレトログラード方式によるパワーリザーブ表示、そして7~8時位置は閏年表示だ。
レガシー・マシン パーペチュアル エヴォは3色のカラー展開がある。ブルー、ブラックのほか、白眉となるのは鮮やかなオレンジダイアルだ。この発色をCVDコーティングで実現するのは至難の業である。いずれのモデルにもジルコニウム製ケースと、チタン製クラスプが備えられたラバーストラップが組み合わされ、それぞれ各15本の限定モデルとして発表された。
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