自社製のスケルトンムーブメントを搭載するJ12の新作。ベゼルには46個、インデックスに12個のバゲットカットダイヤモンドをあしらう。手巻き(Cal. 3.1)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。高耐性ホワイトセラミック×18KWG(直径38mm)。30m防水。2739万円(税込み)。
サファイア(合成コランダム)を効果的に用いたスケルトナイズとシースルールックの手法も、近年のシャネルが注力する技術のひとつだ。18年の「ボーイフレンド スケルトン」用に開発された「キャリバー 3.」の意匠をラウンド形状にアレンジした「キャリバー 3.1」は、受けの形状がよりシンプルに改められたことで、ミステリーウォッチに似た雰囲気を醸し出す。初搭載は20年の「J12X-RAY」で、J12初の自社製ムーブメント搭載モデルとしても注目を集めた。ケースに加え、ブレスレットまでサファイアで成形できた技術は、同様の超硬素材であるセラミックを自在に扱ってきた実績を下敷きとしたものだ。今年は原型であるキャリバー3.にも「ボーイフレンド スケルトン X-RAY」が登場。ベゼル下に隠されていた日の裏輪列も、透明素材の採用によって、機械式時計らしい存在感を主張するようになった。
2020年に発表されたフルスケルトンのJ12。ケースやブレスレットのコマを、サファイアで成形している。手巻き(Cal.3.1)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。サファイア×18KWG(直径38mm)。30m防水。世界限定12本。8096万円(税込み)。
ボーイフレンド スケルトン(2018年初出)のケースをサファイアに置き換えた新作。ベゼル下に隠されていた機構が露わとなり、メカニカルな印象を増した。手巻き(Cal.3.)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。サファイア×18KWG(縦37×横28.6mm)。30m防水。世界限定100本。996万6000円(税込み)。
シャネルが規定するオートオルロジュリーの理想型と、我々時計愛好家が求め続けるオートオルロジュリーの鞍点が「ムッシュー ドゥ シャネル」だろう。今年はグラン フーのエナメルダイアルを用いてブラックタイのスタイリングを表現した「ムッシュー ドゥ シャネル ダイヤモンド エディション」の他にも、刺激的なスーパーレッジェーラの名が復活する。イタリアンモーターサイクルの世界では馴染み深いこの称号は、超軽量という本来の意味以上に、レーシングスペックとは異なる、ラグジュアリーなロードゴーイングスポーツの最高峰という暗喩でもある。シャネルではアルミニウムケースを用いたJ12の2カウンタークロノグラフ(05年)に始まり、13年にはマットブラックのセラミックにケース素材を刷新。今年からその名は「ムッシュードゥ シャネル スーパーレッジェーラ」に受け継がれる。再びシャスタンの言を引いてみよう。
(右)その名の通りX線撮影されたボーイフレンド スケルトン X-RAY。組み上げられた状態では決して目立たない、内部構成がよく分かる。
「2005年のJ12スーパーレッジェーラは、男性向けに作られた初めてのJ12でした。同様に16年のムッシュー ドゥ シャネルは、シャネルが初めて男性向けに起ち上げたオートオルロジュリーのコレクションです。ムッシュー ドゥ シャネルと自動車の世界観を一体化させるという選択は、私にとっては必然でしたから、スーパーレッジェーラのシグネチャーを求めるのは必須でした。このモデルは、スポーツとエレガンスというふたつの伝統を担っています」
ムッシュー ドゥ シャネルに加わった初のスポーティーなデザイン。ダイアルはマットブラックのニッケル製。鮮やかな赤の挿し色が心地よい。ストラップは軽快な印象のナイロン(ライニングはカーフ)製だ。手巻き(Cal.1.)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約3日間。マットブラック セラミック×SS(直径42mm)。30m防水。468万6000円(税込み)。
創業から2世紀を超えるような時計専業メゾンが存在するスイス時計産業の中で、シャネルが研鑽を重ねてきた34年という時間は決して長くはない。しかしその時間は、同時期に高級時計部門を起ち上げたどのメゾンよりも濃密だ。自社工房となったG&Fシャトランによる外装技術の進化、友好的なM&Aによるケニッシやローマン・ゴティエとの技術提携、そしてキャリバー 1.に始まる卓抜した自社製ムーブメント。そのすべてが技術のための技術ではなく、美の表現にのみ向いている。
「シャネルはクリエイションのブランドであり、ウォッチメイキングも完全にこのルールに則っています。1987年にシャネルは、この世界を象徴する自由を手に、高級時計業界に進出しました。シャネルでは創造の自由と卓抜したサヴォアフェールは車の両輪で、ウォッチメイキングにおいてもこのふたつの要件を満たしています。シャネルのウォッチメイキングは、スタイルの物語を常に表現しているのです。そして時は、〝シャネルの時間〞( Le Temps Chanel)を計ることで、刻まれてゆくのです」
シャネル ウォッチメイキング クリエイション スタジオ ディレクター。フランス生まれ。アートスクールを卒業後、カルティエに10年間勤務。2013年5月にシャネルへ入社し、現職に就任する。シャネルでこれまでに3度、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリの部門賞を獲得。
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