テクノロジーの分野で知らぬ人はいないほどのジャーナリストが、本田雅一氏だ。その本田氏が、ウェアラブルデバイスについて執筆する本連載。今回は2回にわたってApple Watch Series 7を紹介。前編はSeries 6からの変更点に関して解説しよう。
Apple Watch Series 7
Text by Masakazu Honda
2021年10月28日公開記事
アップルが例年通りにApple Watch series 7を発表。iPhoneとのペアリングでしか利用できないにもかかわらず、スマートウォッチ市場では圧倒的に高いシェアを獲得し、今も成長を続けている同シリーズだが、今年はフルモデルチェンジ。商品企画のコンセプトからも、他スマートウォッチメーカーとは異なる方向への進化を目指しているようだ。
外装変更で変わること、変わらないこと
この連載の初期に触れたように、スマートウォッチは腕時計である以上に”小さなパーソナルコンピューター”でもある。ハードウェアだけでは機能せず、必ずその上で動作するソフトウェア(OSとアプリの両方)、ソフトウェアと連動するネットワークサービスがセットになっている。
そしてこの三要素に加え、ペアリングするスマートフォンのハードウェアとOSも含め、全てを自社で提供、コントロールしているブランドはアップルしかなかった。これが黎明期にあったスマートウォッチ市場でアップルが勝ち続けてきた理由でもある。
サムスンもスマートウォッチ三要素を自前で用意し、強力なスマートフォンブランドも持つがスマートフォンも含めてアップルほどの一体感ある体験は提供できなかった。
ライバルの話はさておき、アップルが慎重にApple Watch市場の立ち上げ、仕様決めに取り組んできたことは、外装デザインを3年に一度しか更新しないことからも理解できる。オリジナルからseries 3まで、そしてseries 4から6までは同じ外装とディスプレイを採用し、ウォッチフェイスやスマートフォンに集まる情報を機能的に伝達するためのウィジェットの配置、表示方法を固定化してきたのだ。
GPS+Cellularモデル。S7 SiP(64ビットデュアルコアプロセッサ搭載)。リチャージブルリチウムイオンバッテリー。パワーリザーブ約18時間。アルミニウム(ケース径45mm)。50m防水。
この部分の改変に戦略性がないと、時を知るという腕時計としての基本的な機能と、スマートフォンに集まる情報を効率的かつ迅速に知るというスマートフォンならではの利便性のバランスが失われてしまう。
今回、Apple Watch series 7で外装が少しだけ大きくなり、ディスプレイサイズが極大化されたことで、アップルは最新の生産技術とディスプレイ技術の組み合わせで実現できる、新しいApple Watchを定義したことになる。
余談だが同じペースでの革新を進めるのであれば、series 9まではこの外装デザインが続くことになるのだろう。加えてwatchOS更新に伴う新型ウォッチフェイスの追加も、Apple Watch series 7以降のみになる可能性が高いだろう。
なおアップルは今回、新しいSiP(複数チップをパッケージしてシステム化した部品、スマートフォンでいうSoCに相当する)を更新していない。さらに言えば、処理プロセッサーそのものはその前からキャリーオーバーしており、当面、Apple Watchのソフトウェアは、現行世代のままで快適に動くように開発が進められることになるだろう。従来製品のユーザーは安心して、今後の進化を見据えながら買い替え期などを考えればいい。