ロレックスのモデル名/時計にまつわるお名前事典

 1990年代前半までのメルセデス・ベンツは「自分たちのつくるのがクルマであり、ほかはクルマのようなもの」といって憚らない、誰もが認める絶対的王者であった。そして、その時代のベンツは事実上「Eクラス」と「Sクラス」の、いわば「上」と「特上」のふたつだけ。まさに徹底してシンプルで、しかしそれゆえクルマのことをよく知らないひとであっても、ひと目で「ベンツだ」とわかった。そこが最高のステータスシンボルであったのだ。

 ロレックスは、それと同じではないか。複雑機構や、復刻モデルや、バリエーションなど、いろいろあると、わかりづらい。わかりづらいのは、マニアにはうれしいが、ステータスシンボルとしての力は半減する。モデルを増やしすぎたいまのベンツが、かつてほどの威光を感じさせないのは、そういうことだ。

 だからロレックスは複雑機構や、復刻モデルや、バリエーションをつくらない。そうしてシンプルに徹しているから、時計のことをよく知らないひとでも、ひと目で「ロレックスだ」とわかる。そこが最高のステータスシンボルになっている。そうなのではないか。

 さて、ロレックスでシンプルといえば、モデル名がまさにそうだ。ロレックスのモデル名は「デイトジャスト」「デイデイト」をはじめ「エクスプローラー/EXPLORER」=「探検家」、「サブマリーナー/SUBMARINER」→「Submarine」=「潜水艦」、「デイトナ/DAYTONA」=デイトナ・インターナショナル・スピードウェイのこと、「シードゥエラー/SEA-DWELLER」→「Sea Dweller」=「海の住人」など、どれも驚くほど単純明快。徹底してシンプルだ。


2021年発表の「エクスプローラー」のロレゾール(オイスタースチールと18Kイエローゴールドのコンビネーション)モデル。Ref.124273。自動巻き(Cal.3230)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS×18KYGケース(直径36mm)。100m防水。

3200系のムーブメントCal.3285を搭載して10年ぶりにリニューアルされた2021年発表の「エクスプローラーⅡ」。Ref.226570。自動巻き(Cal.3285)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径42mm)。100m防水。

 で、これもおそらくは、同じなのだろう。「デイトジャスト」とか、「サブマリーナー」とか、そういうシンプルな名前だから、誰もが記憶ができる。誰もが記憶できて、誰もが「ロレックスだ」とわかるから、最高のステータスシンボルになる。複雑でわかりづらかったり、長くて覚えられなかったり、そういう名前では意味がないのだ。

 と、まぁ、ロレックスは、機構も、デザインも、モデル名も、すべてがシンプルに徹している。そしてそんなブランドは、かつてのメルセデス・ベンツを除いたら、ほかにはまずない。

 ちなみに、なぜベンツがそうではなくなったのかは、また別の話。複雑な事情なので、いつか機会があったらお話ししたい。

 とまれ、ロレックスのシンプルさには誰も追いつけない。ロレックスはシンプルさに本当の凄さがある。それが、ロレックスが世界中を魅了し続けている大きな理由。ロレックスの最大の魅力なのだろう。


福田 豊/ふくだ・ゆたか
ライター、編集者。『LEON』『MADURO』などで男のライフスタイル全般について執筆。webマガジン『FORZA STYLE』にて時計連載や動画出演など多数。


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