『クロノス日本版』編集長の広田雅将と副編集長の鈴木幸也、ほそやんこと細田雄人の3人が、話題のモデルのインプレッションを語り合う鼎談連載。第7回は、オリス「アクイスデイト キャリバー400」を好き勝手に論評する。
高耐磁性能で約5日間のパワーリザーブを備えた、ブランド初の自社製自動巻きムーブメントを搭載する最初のモデル。ストラップのクイックストラップチェンジシステムは特許を取得済み。自動巻き(Cal.Oris 400)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SS(直径43.5mm)。300m防水。36万3000円(税込み)。
Photographs by Masanori Yoshie
阿形美子:文
Text by Yoshiko Agata
2021年11月7日公開記事
オリス初の自社製自動巻きムーブメントを搭載する「アクイスデイト キャリバー400」
細田「ダイバーズコレクションのアクイスに、オリス初の自社製自動巻きムーブメントCal.Oris 400を搭載したのが「アクイスデイト キャリバー400」です。まず見た目についてはどう思いましたか? このモデルに限りませんが、アクイスコレクションって価格に対してダイヤルの仕上げがキレイですよね
鈴木「ツインバレルでパワーリザーブ約5日間、さらに自動巻きだから長く着けてみたんだけど、非常に視認性も良かった。反射が抑えられて、蓄光もしっかり光るから、水中だけじゃなく日常生活にも役立ちます」
広田「さすがにオリスは外装をやってきただけあって、かっちりとした作りになっていると思いました」
鈴木「ただダイバーズなので、やはりデスクワークにはちょっと大きすぎる。けど、街歩きくらいなら良いかな」
広田「重量感と厚さは結構ありましたね」
鈴木「でも、着けた瞬間は重いと思うけど、慣れたら意識しなくなるくらい。ということは、重心のバランスが良いんだよね。重心が高いと振り回されるからずっと意識しちゃうけど、そういう感覚はなかった」
広田「自動巻きのローターをできるだけ平たく整形しているから、その結果、裏蓋もフラットになっている。それと、全長が意外と短いから取り回しも良いんですよね」
シリコン製アンクルの形状に注目せよ!
細田「Cal.Oris 400は、ガンギ車とアンクルにシリコンを採用していますが、アンクルに爪石が付いてないのが特徴ですね。加工精度の高いシリコンだと、爪石で当たり角を調節する必要ないので」
鈴木「ドンピシャの角度でつくれるんだよね」
細田「軽量化にもつながるので、脱進効率も上がるそうです」
広田「アンクルの先の形状もユニークで、よく考えられてる」
鈴木「面白いよね。その辺は個性を出してる。シリコンパーツは初期投資がかかるけど、精密に大量に作れるのはメリットですね」
独自の設計思想で自動巻き効率を向上
広田「それから、自動巻き効率が良かったんだよね。スイッチングロッカー式のように両方向に首を振って巻き上げる古典的なタイプだけど、ローターをクリップで留めるスライドベアリングというシンプルな仕組みを採用していて。それによって薄くできるし、ローターの回転が非常に良くなっていました。
スイッチングロッカー式の自動巻き機構って巻き上げ効率が悪いって定評があったんだけど、意外に巻いた! このムーブメント全体のスペックを鑑みると、正直、この自動巻きは簡潔な作りでショボいんです。でも、よく考えられていて、しっかり巻く。オリスすげぇ」
細田「新規に起こした設計なんですよね」
広田「一般的なロングパワーリザーブのムーブメントとは、設計思想が全然違うんです。一般的には、トルクを強くしてローターも重くして自動巻き機構もガッチリさせるというのが王道だけど、Cal.Oris 400はゼンマイのトルクを弱くして自動巻き機構を簡潔にして、その代わりローターを回りやすくして勝負してる」
鈴木「王道の逆を行ってるけど、賢く上手にまとめてる。独立系として攻めてます」
広田「固いゼンマイって巻き上がりにくいじゃないですか。だから、ローターでも巻き上がりやすいように、主ゼンマイのトルクを落として、その代わりに輪列の伝達効率を良くした」
鈴木「ロングパワーリザーブでツインバレルとなると、普通なら手巻きにするところを自動巻きにして、しかも機能を両立させているのは実用的だよね。ただ、審美的にはちょっとローターが味気ないかなと。オリスのレッドローターでもないし」
広田「一般的なローターはプレートを真鍮にして、回りやすくするために外側を比重の重いタングステンにするけど、これはタングステンの一体成型でコストを下げているんだと思います」
鈴木「そうなると、中を抜いているのは外側の比重を重くするためかな。硬くて加工が大変なタングステンの一体成型となると、この仕上げもうなずけます」