発表後、賛否両論を巻き起こした「オデュッセウス」。しかしこれほど練られたコンセプトを持つ時計はまれだろう。頑強さに加えて、至るところに見られる使い勝手への配慮は、本作をいわゆる“ラグスポ”以上の存在にした。
「能ある鷹は爪を隠す」。見た目以上の性能を誇るラグジュアリースポーツウォッチがオデュッセウスだ。直径40.5mm、厚さ11.1mmの薄いケースに、高い耐衝撃性と実用性を盛り込んでいる。早送りと逆戻しが可能なカレンダーも使いやすい。自動巻き(Cal.L155.1 DATOMATIC)。31石。2 万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS。12気圧防水。366万3000円(税込み)。ブティック限定取扱い。
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2021年11月号掲載記事]
入念なコンセプトがもたらした、頭ひとつ飛び抜けた実用性
2021年時点における、最も良質な実用時計のひとつがオデュッセウスだと思っている。それを知りたければ、針を回してみればよい。リュウズを引いて一回転させると、分針は約30分移動する。移動幅が小さいのは精密な針合わせを重視する、高級機ならではの「味付け」だ。もちろん針合わせの感触は、正逆方向ともに極めてスムーズである。また本作は、かなり時刻を読み取りやすい。先端まで夜光塗料が埋め込まれた針は暗所での視認性が高く、下地を強く荒らした文字盤は、強い光源下であっても、ダイヤモンドカットされた針との間に強いコントラストを生む。
「IWC風」の味付けを持つブレスレットは、コンペティターほどのしっとりさ、つまり分かりやすい高級さはない。ただし、あえて左右の遊びを取ったのは、主なユーザーであるドイツ人を意識したためだろう。遊びを詰めると感触は良くなるが、腕の毛を挟みやすくなる。分かりやすさよりも、あえて実用性に振ったわけだ。
薄いケースに加えて、時計とブレスレットの重量バランスがほど良く、太いブレスレットで腕への接触面積を増したオデュッセウスは、想像以上に装着感が良い。同じグループに属するIWC「パイロット・ウォッチ」の上位互換といった感じだろうか。ラグが飛び出しているため時計は短くないが、ブレスレットの1コマ目が大きく曲がるため、細腕の筆者でも問題はなかった。
感心したのは、日付と曜日を早送りするプッシュボタンの設計だ。リュウズガードを思わせる2時位置の突起が日付を、4時位置の突起が曜日を早送りするボタンである。それぞれのボタンを押すと、最初にタメがあり、さらに押し込むと、日付と曜日が瞬時に切り替わる。ボタンにはタメをもたせてあるため、仮にプッシュボタンをぶつけても、誤作動は起こりにくいだろう。
「ダトグラフ」のような、押すことが喜びになる触り心地ではないが、スポーツウォッチと考えれば妥当な味付けだ。
3時位置の日付表示と9時位置の曜日表示は、午後11時45分から午前0時15分の間に切り替わる。あえて瞬時切り替えを採用しなかったのは、逆戻しができるようにしたため。曜日と日付を戻す場合は針を午後11時15分に戻すだけ、と実に簡単だ。
早送りと逆戻しを両立させたカレンダー機構は壊れやすいとされる。しかし、本作には重厚な安全機能が盛り込まれた。カレンダーの切り替わるタイミングでは、早送りするプッシュボタンにロックがかかって押せないようになっている。筆者の触った個体では、12時15分を超えないと日付の早送りが、45分を超えないと曜日の早送りができなかった。また、リュウズを引き上げた状態でも、プッシュボタンは押せないようになっている。
残念ながらラフに使うチャンスがなかったため、今回は、オデュッセウス本来の性能は確認できなかった。しかし、それを抜きにしても、本作の完成度は非凡というほかない。入手のしにくさはさておいて、良質な実用時計を探している人に、本作を強くお勧めしたい。
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