シンプル顔の870か、デザイン重視の830か
細田文字盤についてはどうですか? 870のラッカーは、艶があっても視認性を邪魔しないし、良く出来ていると思いますが。
鈴木そうだね。ルーペで見ると、上面に縦方向に筋目が入っていて、“虹引き”になっています。あ、虹引きは広田語録で、細かく筋目が入っていることで虹色に光って見えることを指しています。でもそういえば、そんな言葉あるのかな(笑)。
土井他では聞きませんが(笑)。でも、それだけ細かく加工されている、ということで、僕らはそう呼んでいます。
鈴木870は日付も枠付きで非常に良く出来ています。ただ、830はMOP文字盤とゴールドカラーの時分針・インデックスと、お洒落感はあるけど、視認性もあまり良くないね。
細田830は文字盤で個性的な表現をするためにコストがかかっちゃったのでしょうか。リュウズガードや風防も変えているから、意図的にデザインを別物にしていますよね。
土井870の風防はフラットですが、830はドーム状の風防です。多分、表面は凸で裏面は平面になっているから、斜めからはレンズのように見えますね。
鈴木830は残念ながら、デザインに凝ったのが裏目に出ているように感じます。デザイン自体は好みなんだけど。
細田830の文字盤はきっと、ケースが同じ831と差別化するためでしょうね。高級仕様には高級な外装を、ということで。文字盤はMOPのみだとエレガントになりすぎるから、パンチングのステンレススティールプレートを合わせてスポーティさを出している点に工夫を感じます。
09系はザ・シチズンの基幹ムーブメントとなるか
細田じゃあ、中身の話もしておきましょうか。Cal.0950は、シチズンが久しぶりに作った自社製メカニカルムーブメントです。香箱のパーツを薄くして主ゼンマイの搭載量を増やすことで、パワーリザーブは約50時間に延びています。
鈴木Cal.0950より以前に開発されたCal.0910は、2010年に30年ぶりに作った自社製のメカニカルムーブメントでした。
細田その時点で久々だったんですね
鈴木Cal.0910が出た時にシチズンに取材をしたら、メカの技術を継承するために作るという意図があったようです。で、Cal.0910がディスコンになってから8年経って、Cal.0950が登場した。このキャリバー自体は復活してくれて良かったと思います。
細田Cal.0950の日差は−5〜+10秒/日と、クロノメーターとまではいかずとも精度を追い詰めていますね。
鈴木精度をそれぞれ測ったところ、870は着用した個体の調整が足りなかったのか(※)、T24で−25秒、T48で−44秒と遅れ傾向が出ていましたが、830はT24で+2秒、T48で0秒、T72で−1秒と非常に安定していました。“機械式回帰元年”にふさわしく、メカは頑張っていますね。
※実際に今回のテストで使用した870はアクチュアル試作品(宣伝制作物用に使用する、精度調整のされていない個体)であることが後に判明。
細田それと、褒めるべきはJIS規格の第2種耐磁をクリアしている点。昔からある耐磁性インナーケースもシリコンパーツも使わずに1万6000A/mを達成しています。
土井ヒゲゼンマイにエリンバー系、脱進機にニッケル系パーツを使っているんじゃないでしょうか。一点惜しいのは、トランスパレントバックでないこと。
細田そうですね。せっかくの新しいメカニカルムーブメントだから、見せればよかったのに、と僕も思います。
“機械式回帰元年”の意気込みを見せる
鈴木辛口なことも言ってしまいましたが、シチズンがCal.0200とCal.0950を同時に発表したのは、メカへの本気度が感じられて、時計を定点観測してきた身からするとやっぱりうれしい。
細田フラッグシップと普及価格帯とが同時に出てきたのは、ユーザーとしてもありがたいですよね。Cal.0200だけではほとんどの人の手に渡らないけど、0950も同時に開発したことは、シチズンが今後、機械式を作っていくことの意思表示にも感じられます。
鈴木今後どこまでザ・シチズンにメカニカルを載せていくかも見ものだね。
細田Cal.0200は高級機ですから多分載せる機会は少ないとは思うんですけど、逆に機械式モデルを今後増やしていくなら主力は0950系になるはず。それと、現状では0950はお化粧をあまりさせていないので、今後仕上げを高めてトランスパレントバックのモデルも出てくるかも……という期待もあります。
鈴木0950系を搭載した一発目として、アイコニックなシリーズエイトを選んだのは正しい戦略じゃないのかな。まず、0950がよ登場したのが非常に喜ばしいし、まだまだ発展の余地もあります。シチズンの気合を感じながら、シリーズエイトはさらなる成熟を待ちましょうか。乞うご期待です。
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